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ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
4章:決裂と再生

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第33話「涙の独白、白波の誓い(下)」

涙が乾ききっていな三人だったが、けじめをつけるために、チームを再生するために動き出す。

三人の表情には、先刻までの絶望の色はなかった。

本音をぶつけ合って和解し、互いの存在を再確認したことで、確かな絆が宿り始めていた。

廊下を早歩きで駆け抜けながら、千尋が二人に声をかける。


「一部屋ずつ、三人で一緒に回ろう。ちゃんと顔を見て、直接伝えたい」

「だね!」

「そうね」


もう三人の間に不安やわだかまりはない。

これまで通り——いや、これまで以上に、阿吽の呼吸で意思が伝わっていた。

コンコン——。

最初にノックしたのは、二年生エースにして、メドレーリレーの柱の一人、藤原詩織たちの部屋だった。


「藤原さん、遅くにごめん。堂島だけど、いいかな?」

「はい……って、副キャプテンに、篠原先輩も……? どうしたんですか、こんな時間に」


訝しげな顔をする詩織と、その後ろで不安そうに様子をうかがう同室の部員たち。

その表情には、今日の敗北とチームの不和に対する戸惑いが色濃く浮かんでいた。

千尋たちは、改めて自分たちの愚行を恥じる。仲間たちに、ずっとこんな顔をさせていたのかと——。

千尋は頭を下げた。

明日香と玲奈もそれに倣い、頭を下げる。


「夜遅くにごめんね。大事な話があるから、今から全体ミーティングを開きたいの。急で申し訳ないけど、今からミーティングルームに集まってほしいんだ。お願い」


千尋の真剣な眼差しと頭を下げる二人の姿に、詩織たちは息を呑む。

ただ事ではない——全員がそう感じ取った。


「……わかりました。すぐに行きます」

「ありがとう。私たちはこれから全員に声を掛けて回るから、ちょっと待っててね」

「はい、わかりました」


三人は他の部屋も一部屋ずつ丁寧に回っていった。

驚く後輩、心配そうな顔をする同級生、厳しい視線を向ける部員たち——反応は様々だったが、キャプテン、副キャプテン、チーフマネージャーである三人が揃って頭を下げて呼びかける姿に、誰もミーティングを断ることはできなかった。

やがて宿舎のミーティングルームには、戸惑いと緊張の面持ちで、全ての部員が集まっていた。ざわめきの中、千尋、明日香、玲奈が前に進み出る。

シン——と、部屋が静まり返った。

全員の視線が、三人に集中する。

千尋は集まってくれた部員たちの顔を一人ひとり見つめ、深くて長い息を吐き、意を決して深く頭を下げた。

部員たちの表情には困惑の色が浮かんでいた。

呼びに来られたときにも頭を下げられたが、こうして何度も頭を下げられると、疑念よりも困惑が強くなってくる。


「みんな、夜遅くにごめんなさい。そして……今日の試合、本当に申し訳ありませんでした!」


その声は震えていたが、はっきりと部屋中に響いた。


「今日のリレーでの敗北、そして、チーム全体の不甲斐ない結果……その全ての原因は、私たち三人の未熟さにあります」


千尋は顔を上げ、涙を堪えながらも、まっすぐに部員たちを見つめた。


「私たちの個人的な感情の問題でチーム全体の雰囲気を悪くし、みんなに不安な思いをさせ、そして——『白波』としての誇りと伝統を傷つける結果を招いてしまいました。キャプテンとして、チームをまとめきれなかった私の責任です。本当に、ごめんなさい!」


再び、深く頭を下げる千尋。

その隣では、明日香と玲奈も、涙ながらに頭を下げていた。

明日香は拳を握りしめ、勇気を振り絞って口を開く。


「私のせいで、チームの足を引っ張りました。副キャプテンとして失格です。本当に、ごめんなさい!」


続けるように玲奈も口を開く。


「私も、自分のやり方だけを信じて、周りが見えていませんでした。チームを支えるべき立場の私が、逆にチームを混乱させ、疑心暗鬼にしてしまいました。申し訳ありません!」


リーダーである三人の、心からの謝罪。

最初は戸惑っていた部員たちも、その本気の涙と言葉に徐々に表情が和らいでいく。

所々から、すすり泣く声が聞こえ始める。

千尋は顔を上げて涙を拭うと、決意を込めて言った。


「私たちのせいで起きてしまった敗北は覆りません。本当にごめんなさい。それでも——私たちは、このまま終わりたくない!」


その声には、力が戻っていた。


「私たち三人は、さっき、本音でぶつかり合いました。そしてもう一度、三人で手を取り合うことを誓いました。みんなとも、もう一度、心を一つにして戦いたい。明日のレースで、今日の悔しさを、絶対に晴らしたい——!」


千尋は明日香と玲奈の手を握り、お互いに頷く。


「お願いします! もう一度、私たちを信じてください! もう一度、『最強の白波』を取り戻すために、チームの力を貸してください!」


その魂の叫びは、部員たちの心に確かに届いた。


「キャプテン——!」

「朝倉先輩——!」

「篠原先輩——!」


誰からともなく声が上がり、やがてそれは大きな波となっていった。


「当たり前じゃないですか!」

「信じますよ! 何度でも!」

「明日、絶対に勝ちましょう!」

「白波魂を見せつけてやります!」


涙は、いつしか決意の光に変わっていた。

不安と沈黙に支配されていたミーティングルームは、熱気と希望に満ち溢れていた。

千尋は、明日香と玲奈と顔を見合わせ、力強く頷き合う。

そしてもう一度、一人ひとりと目を合わせ、感謝と謝罪を込めて最大限のお辞儀をする。


「みんな、ありがとう!」


千尋は涙声で叫んだ。

明日香は元気よく「えいえいおー!」と拳を突き上げ、音頭を取る。


「明日、絶対に勝つぞ! 白波ーーー!!!」

「「「オーーーーッ!!!」」」


深夜の宿舎に、白波女子学園水泳部の力強い雄叫びが響き渡った。

壊れた絆は、リーダーたちの涙の謝罪と本気の誓いによって、以前よりもさらに強く、固く結び直された。

悪夢のような一日は終わりを告げた。

白波女子学園水泳部は、夜明けと共に訪れるであろう『再生』への確かな一歩を、チーム全員で踏み出したのだった。

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