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ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
4章:決裂と再生

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第31話「白波の悪夢(下)」


 東京都予選、初日の最終種目【女子4×100m フリーリレー】決勝。

 会場の熱気とは裏腹に、白波女子学園の控えスペースは未だ凍りついていた。

 個人種目での相次ぐ失速、そしてS級・朝倉明日香のまさかの表彰台落ち。

 チームにはもはや『絶対王者』としての威厳はなく、ただ重苦しい不安だけが漂っていた。


『女子4×100メートル、フリーリレー、選手入場』


 場内に選手入場のアナウンスが流れるが、これまでのような『白波』への歓声は鳴りを潜めていた。

 激励や期待ではなく、不安と疑念。

 その空気の中、選手たちはこれまでにないプレッシャーを感じながら、スタート台に歩みを進める。

 白波の第一泳者、北条沙羅が軽く屈伸し、スタート台に立つ。

 2年生ながら、短距離フリーに関しては全国トップクラスの実力と非凡なスタートセンスを持つ『白波のスタート職人』。彼女が完璧なスタートダッシュで一気に差をつけ、そのまま突き放す。それが『白波』のフリーリレースタイル。


『Take your marks』


 各選手が構え、初日最終種目のブザーが鳴る。

 ピッ――――!!

 フリーリレーはチームの最速が集い、学校の最速を競う花型競技。

 満員の観客は一斉に沸き、《《トップに迫る》》『白波』に、困惑にも似た歓声が飛ぶ。


『し、白波が二番手! 半身差で聖明女学院が先頭を行く!』


 女子アナが驚きの声を上げ、マイクを握りしめる。

 スタート職人は直線で追い上げるも、ターンで大きく失速。トップとの差が広がる。

 100メートル時点で身体二つ差。 

 第二泳者の岩倉美緒が第一泳者のタッチと同時にスタート台を蹴る。

 1年生の美緒は全中で無双した天才スイマー。明日香を尊敬し、その背中を追いかけるようにタイムを伸ばし続けてきた。全種目で全国トップクラスの実力を持つ若き新星。追い上げにも期待が掛かり、歓声が強くなる。しかし――。


『追い抜けない! あの白波が依然として2番手!』


 大きなミスもなく折り返してトップに半身差まで迫るが、あと一歩の伸びがなく追い抜けない。

 美緒は前を泳ぐ聖明女学院を視界の端に映しながらタッチし、尊敬する先輩にバトンを繋ぐ。


『さあ、ついに第三泳者! 白波は朝倉明日香選手! ここで巻き返せるか!』


 明日香の入水は綺麗だった。

 ドルフィンキックも浮上のタイミングも良く、傍目には完璧なスタート。

 聖明女学院の入水タイミングのミスも響き、ほぼ横並びになる。

 観客は『やっぱり来た!』と一斉に湧き上がる。


『白波がトップと並んだ! ここからついに――え?』


 女子アナが驚きと戸惑の声を上げる。

 並んだのは一瞬だった。

 25メートル時点で再び身体一つの差が付き、50メートルの折り返しでは身体3つ分もの差が付いていた。


『白波3番手! あの白波が3番手です!』


 75メートル地点ではトップから大きく離され、3番手まで後退してしまう。

 最終泳者たちはスタート台に上がり、飛び込みのタイミングを図る。

 千尋は苦しみ続ける明日香の泳ぎを見つめ、ぐっとゴーグルを押し当てる。


『聖明女学院! トップでアンカーの九条静香選手に繋ぎました! 打倒白波の悲願なるか!』


 いち早く飛び込んだ他校の入水の音を聞きながら、千尋は明日香のタッチタイミングを計算する。

 そして、先に飛び込んだ《《4人》》のアンカーの姿と距離差を頭に描き、レーププランを練り直す。


(4番手。九条さんとの差は――――抜ける……?)


 明日香のタッチと同時に千尋が飛び込む。


『白波、まさかの4番手でのアンカースタート! 堂島千尋選手! ここからミラクルを起こせるか!』


 今年の聖明女学院は強かった。

 白波の偉業に隠れがちな成績だが、他校に比べれば頭一つほどは抜けている。

『白波』を除けば、最強は間違いなく『聖明』。

 このレースでは、その評価を証明しているようだった。


『聖明女学院! トップで最後のターン! 逃げ切れるか!?』


 聖明女学院のアンカー、九条静香は無駄のないターンを決めると、力強いドルフィンキックで水中を進み、水を刃物で割くように浮上する。


(トップ! いける――!!)


 静香が浮上したタイミングでは、前にも横に人影はなかった。

 ついに白波に勝てる――そう思った瞬間、悪寒が走る。


(――堂島さん!?)


 何度目かに横を向いた瞬間、斜め後方に千尋のキャップと顔が目に入る。


(あの差をこの距離で詰めてきた――!?)


 静香が水を搔くたび、堂島千尋の野獣のような気配が近づく。


(あと15――!!)


 ロープの15mラインを超える。


(――並ばれた!?)


 水の圧迫感が変わり、一気に血の気が引く。


(あと2――!!)


 一回腕を回し、二回目の腕を壁に向かって目一杯伸ばす。

 ゴールタッチした瞬間、静香は追い抜かれたと感じた。

 ぎゅっと目を瞑って大きく沈み込むと、一気に顔を上げる。


「ッ――!」


 息が苦しかった。

 追いつかれたショックで、最後の最後で呼吸のタイミングがズレたらしい。

 静香は胸を押さえて呼吸を整えると、ゆっくりと、恐る恐る電光掲示板に目を向ける。


〈 1 聖明女学院  3:41:59 〉

〈 2 白波女子学園 3:41:62 〉


 その差、0.03秒。


「はぁ、はぁ、はぁ……やっ、た――――!!」


 隣のレーンを見ると、同じように息を切らし、電光掲示板を呆然と見つめる千尋の姿があった。


『…………あ、白波2着! 2着です! 400メートルリレー優勝は聖明女学院! 歴史的快挙です!』


 女子アナが衝撃の結果に一瞬フリーズし、歴史的瞬間を興奮気味に伝える。

 TVカメラマンも電光掲示板を見てつい「嘘でしょ?」と漏らす。

 そして観客席は、歓声よりもざわめきが多く、異様な雰囲気に包まれていた。


『絶対王者・白波女子学園、まさかの2着! 堂島千尋選手の驚異的な追い上げも届きませんでした!』

「はぁ、はぁ……」


 千尋は動けなかった。

 プールの中で金縛りにあったように硬直し、ただただ、電光掲示板を見上げていた。

 そんな千尋を尻目に、聖明女学院の九条静香はプールから上がり、リレーメンバーたちと喜びを爆発させる。

 そして、正反対の感情を抑え込むのは、白波女子学園のメンバーだった。

 千尋と同じように硬直し、電光掲示板を見上げている。ただ一人、この世の終わりのような顔でしゃがみ込み、項垂れている、明日香を除いて。


 チームの総合力と結束が試されるフリーリレーでの悪夢。

 それは、壊れたチームワークが招いた、必然の結末。

 絶対王者・白波女子学園の栄光の歴史に、深い傷跡が刻まれた瞬間だった。


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