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ドンと恋!〜 私たちのStarting Block 〜インターハイで日本新記録を出したら表彰台で公開告白されました。  作者: 空知美英
4章:決裂と再生

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プロローグ「観測者たちの喧騒」

インターハイ東京都予選、当日。

まだ朝靄が残る時間から、首都圏アクアアリーナには異様な熱気が満ち始めていた。

全国大会への切符をかけた戦い。

その中でもひときわ注目を集めているのは、絶対王者・白波女子学園だった。

しかしその注目は、いつものような純粋な期待や称賛だけではなかった。

国内最大のSNSアプリ【Chirp】のタイムラインには、前夜から白波水泳部に関する不穏な憶測で埋め尽くされていた。


『白波、なんか雰囲気ヤバくない?』

『記録会後のファンクラブ動画も更新止まってるし……』

『#白波どうした』

『#ちひあす不仲説 ってマジ?』

『 雨の日からずっとだよね』

『ブルスク(玲奈FC)の過激派がデマ流してるって噂も』

『たんなるスランプ』

『王者も人の子だった?』

『波乱あるかもなー』


ファンクラブ最大手で学園公式の【White Wave】の公式フォーラムも、心配する声や憶測を諌める声で揺れていた。

コメント欄には『#信じよう白波』というハッシュタグがトレンド入りする一方で、不安を煽るような投稿も後を絶たない。


王者を取り巻く空気は、常勝軍団ではあり得ない、不穏なものに包まれていた。


***


そして午前8時。

予選開始の1時間前。

全国放送NSTのスポーツ情報番組【Morning Splash】の現地中継が始まった。


『——こちら、首都圏アクアアリーナです!』


人気女性アナウンサーが中継する様子が映る。

背後には準備で慌ただしく動くスタッフやプールが映り、映像越しでも熱気が伝わるようだった。


『いよいよ今日から、夏のインターハイ本戦出場をかけた東京都予選が始まります!』


女子アナが大会の横断幕を紹介すると、TVカメラが横断幕をアップで映す。


『やはり注目は、前人未到の9連覇がかかる、白波女子学園です!』


女子アナが興奮気味にレポートすると、TVカメラはウォーミングアップを開始した白波の選手たちがいるエリアを映し出す。

しかし、そこに映し出された光景に、女子アナはわずかに戸惑いの表情を見せた。


『えー、白波の選手たち、今まさにアップを始めたところですが……』


まるで遠くを覗くように額に手を当て、『んー?』と呟く。


『いつものような活気が、今日は感じられないような……気のせいでしょうか?』


スタジオの解説員やコメンテーターたちも、モニターを見ながら首を傾げる。


『んー、確かに。少し、表情の硬い選手が多いように見えますね』


元競泳オリンピック選手がコメントする。


『特に、キャプテンの堂島選手。あと——』


TVカメラがそれにあわせて堂島千尋をアップで映す。


『——副キャプテンの朝倉選手』


コメントに合わせてTVカメラが動く。


『二人の間にも、少し距離があるような感じがしますね……』


その時、中継の女子アナの声がスタジオの会話に割り込む。


『あ! スーパーレジェンド・白波美沙さんの姿が見えます!』


女子アナの視線を追い、TVカメラが離れた場所にいる美沙顧問を映し出す。


『お話を伺えないか聞いてみましょう』


女子アナが一人で駆け寄り、美沙顧問に取材許可を取る。

美沙顧問はTVカメラを一瞥すると軽く頷き、女子アナと一緒にカメラの前にやって来る。


『みなさん、おはようございます』


美沙顧問は満面の笑みを浮かべてTVカメラに向かって挨拶し、一礼する。


『突然のインタビューを受けて頂き、ありがとうございます!』

『大丈夫ですよ。メディアの要望にはできるだけ応えたいと考えていますので』

『さすが、スーパーレジェンドです』

『ありがとうございます』

『今日の大会は——』


当たり障りのないやり取りを何度か交わし、女子アナが本題に切り込む。


『いよいよ予選初日ですが、白波チームの雰囲気はいかがでしょうか?』


美沙顧問の口角が軽く上がり、優しい微笑みを浮かべる。


『良い状態ですよ』

『良い状態——絶好調ということでしょうか?』

『この日のために準備してきました、当然です』

『白波の選手さんたち、ちょっと緊張してるように見えるのですが……?』

『インターハイに向けた最初の関門ですから、高校生である彼女たちは緊張していても仕方ありません』

『実力も実績もある選手さんたちでも、やっぱり緊張されるんですね』

『もちろんです。私も緊張してますからね、ほら』


美沙顧問は苦笑いを浮かべ、震える手のひらを女子アナに差し出す。


『あ、ちょっと汗ばんでます?』

『ええ』

『オリンピックレジェンドでも、高校生の大会で緊張されるんですね』

『レース会場にいるだけで緊張するんですよ。身が引き締まる思いです』

『はー、なるほどー』

『今から泳ぐ彼女たちはもっと緊張してるでしょうし、私の比ではないでしょうね』

『白波の選手さんたち、これまでこういった雰囲気になることはなかったと思うのですが、今大会はなにか、特別な意気込みでも?』

『いつも通りですよ。ただ——』

『ただ?』

『私が大会前に追い込みすぎたので、かなり参ってるかもしれませんね』


肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。


『レジェンドの追い込み……すごそうですね……』


女子アナは顔を引きつらせ、息をのむ。


『どんな風に追い込んだか……お聞きになりたいですか?』

『い、いえ、結構です! あ、お忙しいところありがとうございました! はい!』

『——最後に一つ、よろしいでしょうか?』

『え? あ、どうぞ、はい!』


慌ててマイクを向ける。

美沙顧問は軽く会釈し、口を開く。


『選手たちは一人の水泳選手である前に一人の女子高生です。一日の大半を練習で費やしていても、その間には普通の女子高生としての日常があります。選手としてはもちろん、彼女たちの日常も応援して頂けると嬉しいです』

『女子高生としての日常、ですか……?』


女子アナが不思議そうに顔を傾げていると、TVカメラ横にあるカンペボードに『CMまで20秒』と表示される。


女子アナと美沙顧問は横目でそれを確認し、お互いに頷く。


『それでは失礼します。また』


美沙顧問は一礼し、選手たちの元へ戻っていく。


『以上、白波女子学園水泳部顧問、白波美沙さんにお話を伺いました。一度スタジオにお返しします』

『はい、ありがとうございました。CMの後は再び大会の中継をお届けします』


番組がCMに入ると、解説員やコメンテーターたちが美沙顧問の発言を巡り、あれこれと持論や推論を展開して盛り上がる。

その内容は、理論的なものから感情的なものまで様々だった。

この美沙顧問の発言はSNSや各ファンクラブにも取り上げられ、ぷちバズりをみせる。


様々な想いが交錯する中、開戦のブザーが鳴り響き、大会の幕が上がっていく。

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