エピローグ「小鳥の微熱」
「最高ー……」
1年生マネージャーの水瀬美羽は、千尋たちの部屋を出ると堪らずに呟く。
なにが「最高ー」なのか?
(篠原先輩、すっごく嬉しそうだった……)
水瀬美羽は玲奈を尊敬し、その秘めた恋心を全力で応援していた。
そんな彼女からしたら、公式恋人の明日香はただの邪魔者であり、あの部屋でのやり取りを目撃できたことは最高のご褒美だった。
(あの、お粥を冷まされているときの篠原先輩の顔、すごく期待に満ちてた……)
美羽は部員で賑わう談話室のソファーに腰を下ろし、スマホを取り出して動画を開く。
それは丁度、千尋がお粥を掬い、フーフー冷ましている瞬間から始まる動画だった。
そう、美羽はあの一部始終を動画撮影していた。
(ふふふふ……やっぱり、『ちひれな』こそが正義……)
美羽はワイヤレスイヤホンを耳にはめ、動画を再生する。
『ほら、玲奈。あーん』
『ちょ、千尋!? い、いいわよ! 自分で食べられるから!』
『いいから、口開けて』
『え、ええ。じゃあ……』
一時停止。
スクリーンショット。
美羽は玲奈のFC【BlueScript】のVIPページを開き、グループチャットを開く。
『超超超! お宝画像!』
【(千尋&玲奈のあーんの画像)】
『これが世界の真実よ!』
美羽はどや顔で投稿する。
『すご!』
『ついに!』
『鼻血出た』
『ちひれなは至高』
『今年の一枚』
『もう公式カップルは玲奈先輩』
『保存しました』
『これだけでご飯10杯はいける!』
『ありがとう!』
美羽はそのコメントに次々と返信し、VIP会員たちと交流していく。
(やっぱりそう。篠原先輩こそ、キャプテンにふさわしい……)
一通り交流して満足した美羽はチャットを閉じ、動画に戻る。
再生。
『ん……』
『どう? 熱すぎない?』
『ん……大丈夫、丁度良いわ』
『良かった。フーフー……はい、あーん』
『あーん』
一時停止。
スクリーンショット。
(幸せそう……)
動画を最初から再生。
『あーん』
『あーん』
また最初から再生。
『あーん』
『あーん』
ループ×10〜。
一時停止。
(キャプテン……千尋先輩、やっぱりカッコイイなー)
千尋の顔をズーム。
(もし私が倒れても、同じように『あーん』してくれるのかな?)
美羽はアップ画像をズラし、玲奈のアップにする。
(……きっと、篠原先輩が特別だから『あーん』したんだよね。こんな恋する顔を向けられたら、誰だってイチコロだもん)
ズームを戻して最後まで再生。
玲奈が照れながらお粥を咀嚼しているシーンで途切れる。
動画が中途半端なのは、明日香が美羽の動きに気付き、視線で牽制してきたから。
それがなけば、美羽は二人の相瀬を最後まで見届けていた。
(篠原先輩を幸せに出来るのは千尋先輩だけ。千尋先輩を幸せに出来るのは篠原先輩だけ)
目を閉じ、二人のウェディングドレス姿と結婚式を想像する。
(よし! これからも『ちひれな推し』を頑張ろう!)
美羽は拳を握り、気合いを入れ直すのだった。




