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広場では荷台に繋がれた馬がたむろしていた。
「久しぶりですね、ジョセフィーヌ。今日も毛艶が素晴らしいです。元気でしたか?」
「さすがだぜ、妹よ。テイマーになりたいって裏設定を忠実にこなしていくとは」
「可愛い動物に話しかけるのは普通のことでは?」
「ああ、変なことなど何もない」
「お兄ちゃんが野良猫ににゃーにゃー言ってる姿はキモいですけど」
「自覚はあるが、やめるつもりはない」
人目は気にしているが、妹の前ではとっくに開き直ってる。
「これからしばらく世話にはなるんだが……ぶっちゃけ馬って怖くないか?」
「いつか裏切るとは思ってました」
「だってよ、言葉が通じない生物に見下ろされることなんてなかなかないだろ? つぶらな瞳とは言うが、馬の頭に対しては小さいだけで、普通にでかいし」
「そこが可愛いんじゃないですか。自分の矮小さに対するコンプレックスですか?」
「……昔、野生の馬と触れ合う機会があったんだが――」
「野生の馬とかいうパワーワード!」
「一応管理はされてるぞ? だけど、柵もないし手綱もない。近づきすぎないようにと警告する人も近くに控えていない。徒歩で入るサファリパークみたいな場所だ」
「……誘ってくださいよ、行きたかったです」
「シリヤってとこなんだが」
「見え張って実は海外の話だけどみたいに言わないでくださいよ。本州の一番右上でしょう。つまり、間近で見た本物の馬に恐れをなして逃げ帰ってきたってことですか?」
「いいや、尻屋崎の寒立馬がチョー可愛かったって観光自慢だ」




