第91話 カラオケ交流会(その6)
「ごめーん、お金足りないから貸してぇ」
「仕方ないなぁ。後で返してよ」
今回の会費が告げられた後、持ち合わせのない者は友達から借りて会費を調達していた。
「はい、2000万円」
「何でやねん」
「委員長、ノリが悪いなぁ」
お金をまとめているのはインターホンを受けた女子で、制服の乱れはなく黒髪の三つ編みしたお下げ髪に眼鏡をかけている。見た目は委員長ぽいキャラであるが、彼女はそういう役職にはついていない。少しふざけながらお金を渡した男子に対し、しっかり返しているので決してノリが悪い訳ではない。
「委員長、はい2000円」
「誰が委員長やねん」
「ははは、委員長、2000円」
「もう、みんなで揶揄わないでよ」
今回のことが切っ掛けで、彼女のあだ名が委員長になったことは必然的なできごとであった。
(どっ、どうしよう。財布の中にそんな大金入っていないよぉ)
音羽は焦っていた。つぎつぎに委員長のところに会費が集まっていくのを見て、誰かから借りなければこの場をしのげないのは明白であった。
(小山内さんに頭を下げてお金を借りる? いえ、今日話したばかりの相手にそういうことはできないわ)
音羽は真っ先に隣にいる日花里からお金を借りることを考えた。だが、まともに話したのが今日が初めてである彼女に対し、そのようなことが言えるわけがなかった。
(やはり兼田君にお願いするしか……)
1度断ってしまったが、音羽が頼れる相手は仁しか居なかった。だが、彼はトイレに行くと言ったきり戻ってきていなかった。会費が集められていくのを横目に見ながら、音羽は仁が戻ってくるのを待つしか方法がなかった。
「あとは月見里さんと兼田クンね」
「えっ、えっ、ど、どうしよう。あっ、そう言えば」
とうとう残り2人になったところで、音羽は制服のポケットに入っているものの存在を思い出した。
「こ、これ」
「おっと、月見里さん大金持ってるねぇ。はい、じゃあお釣り8000円ね」
(この場から逃れたい一心で思わず出してしまった)
音羽はポケットの中に仁へ返す予定の1万円札を出してしまった。お釣りを受け取って冷静になったところで後悔することとなった。
「ゴメン、少し手間取った。ん? もう終わりな感じ?」
そのあとで、老婆を無事に部屋に送り届けた仁が戻ってきた。
「兼田クン、もう会費集めてるよ。1人2000円ね」
「はい、2000円」
「よし、これで全員分が揃ったわ。それじゃ私、先に会計行ってるからね」
仁から会費を受け取った委員長は支度を調えて部屋から出て行った。
「兼田クンが戻ってくるのを待っていたけど、終わっちゃって残念」
「ごめん。少しあって遅くなってしまったよ」
「いいの、いいの。また一緒にカラオケ行こうね」
日花里が仁の側に寄り、最後の方で一緒に居られなかったことを残念そうに話した。




