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第84話 仁と音羽の関係(その3)

「えーっ、うそー。それ、私も好きかも」

「兼田クンとひかりんが聴いているなら、私も聴いてみようかな」

「僕がその中で好きなのは……」


 日花里は仁と一緒に弁当を食べている間、いろいろな話題を出して仁の好みなどを聞き出そうとしていた。他に集まっている女子達もその話の輪に入っていたため、女子達の楽しい話し声が教室の中に響いていた。


「兼田クン、ごちそうさま」


 話は途切れていなかったが、日花里は食べるのを止めていなかったため、ちょうど仁からもらった弁当を食べ終えたところで、両手を合わせて仁にお礼を言った。


「ひかりん、いつの間に全部食べていたのよっ、あーっ、いつの間にか昼休みが終わっちゃうよ」

「うそっ、急いで食べなきゃ」


 日花里はペース配分をしっかり取っていたため、昼休みが終わる時間までに弁当を食べきり、多少時間に余裕を持たせていた。だが、話に夢中になっていた他の女子達は、残り時間が僅かになっていることに気が付き、慌てて口の中に食べ物を放り込んでいた。



(これはどういう状況?)


 音羽は昼食を終え、午後の授業が始まる少し前に教室に戻ってきた。すると自分の席のまわりにクラスの女子達が集まっていることに気が付いた。


(あ、あの中心にいるのは兼田君。そっか、私の机を使っているから、あの場所に人が集まっているのか)


 音羽は、集団の中心に仁がいることに気が付いた。それを見て仁のまわりに女子達が集まっていることを理解した。


(私がお金を返すことで悩んでいたのに、兼田君は楽しそうに他の女子達と話すなんて酷いわ)


 仁は何も悪いことをしていないが、音羽はその光景を見てなぜか頭に血が上っていた。


「ちょっと、アンタ達、ここ、私の席なんですけど?」

「あっ、ごめん。月見里さん。今片付けるから」

「僕も手伝うよ」


(あっ、兼田君が私の机を持ってる)


 音羽は、自分の席が使用されていることに腹を立て、占有している女子達に向かって不機嫌さを露わにして話しかけた。すると席の主が帰ってきたことに気が付いた女子達は、慌てて机の上に置かれていた弁当箱などを片付け始めた。片付けが終わったところで仁と日花里が協力して音羽の机を持って向きを変えた。2人の共同作業を見ていた音羽は、何か胸に刺さるような気持ちになっていた。


「月見里さん、勝手に机を借りてゴメンね。それじゃあ、兼田クン、また時間があるときにお昼を一緒に食べようね」


 仁の回りに集まっていた女子達は、それぞれの席に戻り、最後に日花里が音羽に詫びを入れてから、自分の席に戻っていった。


「何よ。女子達に囲まれて鼻の下を伸ばしちゃって」

「えっ? 何か言った?」

「いいえ、何も言ってません。ふんっ」


 音羽は不機嫌な態度を取ったまま、向きが直された自分の席に座った。それを見ていた仁は、どうして音羽がそのような態度を取っているか不思議に思っていた。

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