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第79話 頼子の悩み(その1)

「はぁはぁはぁ。思わず逃げちゃった。兼田君に悪いことをしてしまったかも」


 頼子は仁の前から猛ダッシュで逃げるように離れ、2つ路地を入ったところで、息を切らしながら先ほどとった行動を反省していた。


「明日、兼田君と顔を合わせないといけない音羽には悪いけど、来週会ったときに謝るからそれまで我慢してもらおう」


 頼子は明日、仁と顔を合わせなければならない音羽に申し訳ない気持ちになっていたが、音羽に代理で謝らせるわけにいかないため、責任を持って次に会うときに、今回の行動について謝ろうと思った。



「ただいま」


 それから頼子は、自宅に帰った。仁と別れた場所からそれほど距離が離れていないため、すぐ家に到着した。部屋の中は人の気配がなく、音羽はバイトに行ったまま帰宅していなかった。


「音羽が帰ってくるまでに、夕食の支度をしなきゃね」


 頼子は着ていた服を脱ぎ、室内着に着替えてからエプロンを着け、夕食の支度に取りかかった。




「ただいま」

「おかえりなさい」


 頼子が夕食の支度を終わらせた頃、音羽がバイトを終えて帰宅した。


「おかあさん、お腹すいたよぉ」

「はい、はい、夕食の支度はできているわよ」


 頼子はお腹を空かせて帰ってきた音羽のために、夕食をちゃぶ台の上に並べ始めた。



「「いただきます」」


 音羽も室内着に着替えた後、ちゃぶ台の前に座り、頼子が用意した夕食を2人で食べることにした。


「はむっ、えっ? 今日の夕食、凄く美味しい。お肉とかいつもの味と違うけど、気のせい?」


 音羽は皿に盛られた炒めた肉を口に運び、いつもと味が違うことに気が付いた。


「実は、この肉、国産なの」

「えーっ! どうしたの? いつもは痛みかかった見切り品の国外産お肉なのに、何かお祝い事でもあったかな?」

「えーっと、それは……」


 頼子は国産肉と言ってから、しまったと思った。このようなことを言えば、間違いなく理由を尋ねられるため、本当のことを話して良いか悩んでしまった。


「実は買ってもらったの」

「えーっ、なになに? もしかして、あの高そうな服を買ってくれた人?」

「……そうよ」


 頼子は我が家の家計から出していない物だと伝えると、音羽は、壁に掛けられている頼子が遊園地デートで着ていた服を見ながら、何かを勘ぐったようにニヤニヤしながら質問した。


「へぇ、お母さん、もしかしていい人見つけたの?」

「まあ、そう、かな」


 頼子は仁のことが好きになってしまったため、音羽の質問に正直に答えた。


「そっか、そっか。お母さんにもいい人が見つかったんだね。今まで苦労してきたから、私はお母さんがそういう人を見つけるのは賛成だよ。もしかして再婚とか考えてる?」

「ありがとう。彼とはまだ、その、再婚とかそういうところまでは考えていないわ」


 音羽は、今まで自分を育てるために苦労してきた母親が、幸せになって欲しいと願い、まだ見ぬ母親の彼氏と上手くいくことを願っていた。それを聞いた頼子は、嬉しいという気持ちもあったが、その彼というのが娘のクラスメイトであり、偽った状態で接していることを改めて考えてしまった。

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