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第78話 寄り道デート(その3)

「こんなところかな」


 それから頼子は必要な物を仁が持っている買い物カゴの中に入れてまわり、予定していたものをすべてカゴの中に入れ終わった。


「兼田君、これで終わりだからレジに行きましょう」

「わかったよ。でも、これだけで良いの?」

「ええ、大丈夫」


(本当は他に買いたいものもあったけど、予想以上に高くなりそうだから我慢よね)


 頼子は計算をしながら買い物をしていたので、これ以上購入してしまうと家計に響いてしまうと判断し、後回しにできそうなものは買い物カゴに入れなかった。2人はその足でレジに向かい、精算してもらうことにした。


「……円になります。お支払いは精算機でお願いします」


 レジ担当のおばちゃんが買い物カゴから商品を1品ずつ取り出し、バーコードを読み取っていき、計算が終わるとレジ横に設置されている精算機でお金を支払うように案内した。


「えっと、あっ」

「今日は僕の奢りだからね」


 頼子が財布を取り出し、精算機に投入するお金を取り出そうとしたところで、仁の手がサッと伸びてきて紙幣を精算機の中に投入した。するとそれはすぐに飲み込まれ、精算が終わってしまった。


「そこまでして貰うわけにはいかないわ」

「今日のデートは僕の奢りって言う約束だから、最後まで面倒を見させてね」

「もう、兼田君ったら」


 頼子は自分の家で使う食材であるため遠慮をしたが、仁の言葉に嬉しくなってしまい、申し出を受け入れることにした。


「ここから月見里さんの家って近いの?」

「ええ、歩いて5分程よ」


 今回立ち寄ったスーパーマーケットは、頼子の家から近いところにあり、値段も手頃であった。職場に向かう途中には更に価格帯の安い店もあるが、仕事帰りに立ち寄るのでなければ、こちらの方の利便性が高かった。仁からこの店から自宅までの距離を尋ねられ、頼子はおおよその時間を教えた。


「そっか、こういうお店が近いと便利だよね。ウチなんて近くにコンビニはあるけど、こういうお店は少し離れているから、面倒なときはついついコンビニを利用してしまうんだよね」

「そうなのね。でも1人で暮らしているのなら、コンビニの方が手軽に食べ物を確保できるから、利用したくなる気持ちもわかる気もするわ」


 それから仁と頼子は店から出て、頼子の歩調に合わせるように仁が歩いていた。2人は雑談を交えながら頼子の家の方向に向かって歩いていた。


「来週の日曜日は何時にどこで待ち合わせようか?」

「そうね。食材を買うことも考えると、兼田君の家から近いスーパーマーケットの前なんてどうかしら?」

「わかったよ。それじゃ、朝10時にこの店の前でどうかな?」

「へぇ。この辺りって住宅街よね。兼田君の家ってその辺りなんだ。知っている店だから大丈夫よ。それじゃ次の日曜日を楽しみにしているわね」


 道中、仁と頼子は次回の約束を相談していた。仁はスマホの地図画面を見せて頼子に待ち合わせ場所を提案した。月見里家からは少し離れているが、歩いて行ける場所であった為、頼子は待ち合わせ場所について了承した。


(あっ、何も考えていなかったけど、私の家がわかってしまうと音羽に迷惑を掛けてしまうかも)


 ふと頼子の脳裏にそのような考えが浮かんだ。


「ごっ、ごめんなさい。ここまでで良いわ」

「えっ?」


 頼子は家の場所が特定できない地点で足を止め、仁に対してここまでで良いと伝えた。仁は突然のことに驚いた表情を浮かべていた。


「兼田君、ここまで持ってくれてありがとう。今日は凄く楽しかったわ。来週の日曜日もよろしくね。それじゃ」

「えっ? ああ、またね」


 突然のことに仁は返事することしかできなかった。気が付くと頼子の姿はなくなり、仁はポツンと1人で歩道に立っていた。

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