第77話 寄り道デート(その2)
「持つよ」
「いいの? ありがとう」
仁と頼子が立ち寄ったスーパーマーケットは、多くの場所で見かけるような食料品をメインに扱う一般的な店であった。頼子は入店すると入り口付近に積み重ねられていた買い物カゴを1つ取った。すると仁がそっと手を伸ばし、持つことを伝えると、頼子は断るのも悪いと思い、買い物カゴを仁に手渡した。
(しっ、しまったわ。一緒にいたいと思ってそのまま入店しちゃったけど、見切り品ばかり買っていると変な目で見られたりしないかな?)
頼子は買い物カゴを仁に手渡してから、ふと今回何を買って帰るか考えていた。すると月見里家では食費を節約するため、賞味期限や消費期限が近づいた見切り品を中心に購入していたことを思い出した。一緒に買い物をしているときに、そのような購入の仕方をしていると、仁に悪い印象を与えてしまうのではと考えてしまった。
(家計には響くけど、今日は少し奮発して、見切り品を外して購入しよう)
実は仁も見切り品の半額弁当などをよく購入しているので、頼子が心配していることに対し、まったく気にしていなかったのだが、頼子は変なところで見栄を張ってしまった。
「まずは野菜からね」
(あー、あそこに3割引きの大根が……)
頼子は値引きシールの貼られていた野菜を見ながら、通常価格の大根を手に取り仁が持っている買い物カゴに入れた。それからも、値引きシールの貼られた野菜を気にしながら通常価格の野菜を買い物カゴの中に入れていった。
「次はお肉ね」
(ここは値引きシールも気になるけど、国産と国外産で値段が違うのよねぇ)
「月見里さんと買い物をしていると、何か新鮮な感じがするよ。なんか一緒に生活しているような気分だよ」
「えっ? うーん、言われてみると、そう感じるかもしれないわね。そうだ、来週の日曜は食材を一緒に買って、兼田君の家で私の料理を振る舞ってみようかな。なんてね」
「いいねぇ。是非、来て欲しいな」
仁の言葉を聞き、頼子は冗談交じりで次の仕事が休みの日に、仁の家に行って料理を振る舞おうかと提案した。すると仁は即答でそれを了承してしまった。
「えっ? いいの? 家族の人とかいるよね?」
「あれ? 言っていなかったっけ? 僕の家って父親が仕事で単身赴任していたんだけど、母親も付いて行ってしまったんだ。兄妹も居ないから、今は1人で暮らしているんだよ」
「そっ、そうなの? それじゃ、お邪魔しちゃおうかな」
頼子は仁がほぼ一人暮らしの状態であることを知り、思わず家にお邪魔したいと言ってしまった。
「じゃあ、決定ね。買い物を済ませたら時間や待ち合わせを相談しようよ」
「ええ、わかったわ」
頼子の了承も得たため、2人は来週の日曜日に会う約束をした。
(さて、お肉だけど、兼田君が見ているし見切り品は除外して、国産か国外産かどうしよう)
見切り品を選択しなかった時点で金額は上昇していたが、国産を選んでしまうとさらに金額が上昇する。頼子は見栄を張って国産の肉を選ぶか、お財布事情を考慮して国外産の肉を選ぶかで悩んでいた。
「月見里さん、どうかした?」
「えっ? べっ、別にどうもしていないわよ」
(ええい、財布には優しくないけど、国産にしてしまおう)
精肉コーナーで固まっている頼子を心配して仁が声を掛けると、我に返った頼子は見栄を張り、国産のお肉を手に取って買い物カゴの中に入れた。




