第66話 3回目のデート(その7)
「お馬さんの動きが激しいわ、だっ、だめ、もう私、耐えられそうにないわ」
しばらく楽しそうな表情をしていた頼子であったが、徐々にその表情は何かに耐えているようなものになっていた。
(あっ、もしかして)
「だめ、もうこれ以上耐えられないわ。落ちちゃう、落ちちゃうのっ」
頼子は我慢していたが耐えられなくなり、叫んでしまった。
「月見里さん、危ないっ」
「あっ、兼田君。ありがと」
「馬車の方が良かったかもしれないね」
頼子は上下運動で座っている位置がズレてきて、落馬しそうになっていた。必死にポールにしがみついているのに気が付き、仁は急いで頼子の元に駆け寄って落馬を防いだ。
「なんか兼田君に支えられていると、前の親子連れみたいね」
「そっ、そんなことはないと思うよ?」
「疑問形になっているわよ。やっぱりそう思ったんでしょ?」
頼子は前方で、小さな女の子が馬に乗り、それと隣で支えている父親の姿を見ながら言った。すると仁も何となくその構図が親子と同じように感じてしまった。
「ふっ、なかなかスリルのある乗り物だったわ」
「そっ、そうなんだ」
ちょっとしたハプニングがあったものの、仁と頼子はメリーゴーラウンドを楽しんだ後、アトラクションから出てきた。
「ところで、今日は怒らないんだね?」
「ん? 兼田君は何か怒られるようなことをしたの?」
「そっ、その、スカートの中の布が見てしまったこと。この前は怒っていたから、気分を害したのなら謝ろうと思って」
仁はメリーゴーラウンドで、頼子のスカートの中にある布を見てしまったことについて触れた。
「あー、そうね。そういうことがあったのよね」
頼子は一瞬何のことかわからず考えて、音羽の件を思い出した。
「そっか、見ちゃったことね。別に兼田君なら見られても平気なんだけどね。本当は上下で揃えておきたかったのだけど、そのぉ、今日は洗濯のローテが合わなくて上下違うのを付けているの。ごめんね」
「は?」
「そっ、そうじゃなかったわ。不可抗力なんだから兼田君が気にすることはないわよ」
(詳しく聞いてみたいけど、聞けないよね)
頼子は思っていることを口に出してしまい、慌てて音羽ならこう言うだろうと仮定して言い直した。仁は上下違うという事実を知らされ、詳しく聞いてみたいという気持ちになったが、それをグッと我慢した。
「兼田君、あそこにカートがあるわ」
「2人乗りの小さな車のことだね」
特にどこに行くという当てもなく、仁と頼子は歩いていたが、目の前に遊戯用カートの乗り場があった。それを見た頼子は目を輝かせていた。
「乗ってみたい?」
「ちょっとだけね」
仁は頼子に乗るか尋ねたが、頼子は口ではちょっとと言いながら、目はとても輝いていた。
「乗ってみようか」
「ええ、兼田君とドライブよっ」
仁が乗ってみようかと尋ねると、頼子は嬉しそうに乗る気になっていた。微笑ましい光景ではあったが、この後、仁はとんでもない目に遭うのであった。




