第64話 3回目のデート(その5)
「月見里さんは、何か乗りたいものの希望とかあるかな?」
「そうねぇ。遊園地と言えば、最初はジェットスターよね」
「そっ、そうなんだ」
仁は頼子の好みがわからないので、先にどこへ行くか尋ねてみた。すると穏やかな物が来ると予想していたが、それに反していきなり絶叫系を出してきたことに驚いてしまった。
「という訳で、並ぶわよ」
「わ、わかった」
ジェットコースターに乗る気満々の頼子は、仁の手を引いて乗り場まで移動した。
「さすが人気のアトラクションだね。結構人が並んでるよ」
「そうね。長すぎるのは困るけど、程よく待つことで、その間に乗ったときのイメージトレーニングができるわ」
この遊園地のジェットコースターは人気があり、他のアトラクションと比べて列も長めにできていた。仁と頼子は列の最後尾に並び、順番が来るまで待つことにした。
「お待たせしました。どうぞ」
それからしばらく経ち、仁と頼子の順番が回ってきた。
「兼田君、すごいわ。最前列よ」
「そ、そうだね」
仁と頼子は運良く最前列の席になった。この乗り物は2列シートが前後にある4人乗りのものが5つ繋がっていて、全部で20人乗車可能になっている。後にいる人さえ気にしなければ、2人だけの空間になっている気分になる。頼子は動く前からテンションが高かったが、それに反して仁は、このような乗り物が少々苦手であった。
「安全バーが降ります」
係員が案内すると、上から安全用の固定バーが降りてきて、乗員がしっかりと固定された。
「それでは出発しまーす。いってらっしゃい」
ガコン
係員がそう告げると、大きな音が下から聞こえ、仁と頼子を乗せたジェットコースターが動き始めた。
「もしかして、兼田君ってこういう乗り物苦手だった?」
「そっ、そんなことはないよ」
ガコン、ガコンと音を立てながら急な坂道を登っていく最中、仁の表情を見た頼子が心配そうに尋ねてきたが、仁は痩せ我慢をしてそれを否定した。
「そっか、そっか。兼田君にも苦手なものがあったんだね」
「月見里さん、何か嬉しそうな顔をしていない?」
「してないわ。あっ、そうだ。手を握っていれば少し落ち着くかもしれないわ」
「あっ」
そう言った後、頼子の手が仁の手をそっと包み込むように握った。
(あれ? 月見里さんの握る手の力が強くなって着る気がする)
仁はいつもより強く手を握ってくる頼子に疑問を感じた。そうしている間に、仁と頼子を乗せたジェットコースターは1番高いところまできていた。あとは傾斜を利用した力でスタート地点に戻る仕組みになっている。一瞬フワリとした感覚があった後、下り坂になり、徐々に速度を上げていった。
「ふぎゃー、体が支えられないぃ!」
「あはははは」
仁の片手は頼子がしっかり握っているため、離そうとしても離れず、上下左右に揺れる車体を、仁は片手だけで安全バーを持って支えなければならず、恐怖心が上がっていったが、その横で頼子は楽しそうに笑っていた。
「はぁ、はぁ、怖かった」
「そう? 私は凄く楽しかったわ。もう1本行っとく?」
「ごめん、少し休憩」
ジェットコースターは動き出すと乗車時間は僅かで、すぐに1周してスタート地点に戻った。2人は降車してから出口へ向かった。動いている間、頼子の手を握っていたことは良かったのだが、それ以上に肉体的、精神的なダメージを受けた仁は、早々と休憩することを頼子に告げた。




