第63話 3回目のデート(その4)
「到着ぅ。今からチケットを買いに行くけど、その前に園内ではぐれたときに連絡できるように、携帯の番号を教えてくれないかな?」
「ごめんなさい。私、携帯持っていません」
仁は、広い園内で、はぐれてしまうと困るため、予め連絡先を交換しようと思った。だが、月見里家では携帯電話を維持できるような金銭的余裕がなく、親子共に所持していなかった。
「あっ、ごめん」
(月見里さんの金銭事情を聞いていたのに、何も考えずに聞いてしまった。うっ、配慮しなきゃいけなかったのに、僕のバカ)
仁は頼子の言葉を聞いて、配慮すべき点を忘れていたことを後悔した。
「とっ、取りあえず、入園チケットを買うけど、はぐれるといけないから一緒に来て貰っても良い?」
「ええ、いいわよ。兼田君、気を遣わせてしまったわね」
仁の表情を見て頼子は、携帯番号を聞いてしまったことを後悔しているものだと悟った。心配させないようにそっと仁に身を寄せながら、ひと言だけ詫びを入れた。
「遊園地って入るだけで結構お金がかかるのね」
「そうだね。でもここは、フリーパス付きだから、お金を気にせずいっぱい楽しめるよ」
頼子はチケット売り場に掲げられている料金表を見ながら言った。価格は少々高めだが、フリーパス付きのため、好きなだけアトラクションが楽しめるという良心的な施設であった。
「大人2人お願いします」
「はい、大人2名様で10000円です」
仁がチケット売り場でお金を払い、2名分のチケットを受け取った。
「月見里さん、どうぞ」
「ありがとう」
仁はそのうち1枚を頼子に手渡した。そしてチケットを握りしめたまま、入場ゲートに移動した。
(遊園地に来るのなんて20年ぶりくらいかしら。若い頃に戻ったみたいでワクワクするわ)
頼子は入場ゲートの中から少し見えるアトラクションの数々を見ながら、最後に訪れたときを思い出していた。
(そう言えば、あのときって、親友のあの子と一緒だったわね。かなり前から連絡を取っていないけど、元気にしているかな?)
今回訪れた遊園地は、頼子が子供の頃から存在していた施設であった。最後に訪れたときは学生時代で親友と2人で訪れたのだが、学校を卒業した後は、その子とはあまり連絡を取らなくなり、いつの間にか疎遠になっていた。
「月見里さん、どうかした?」
「えっ? ううん、何でもないわ。少し考えごとをしていただけよ」
頼子は、過去の思い出に浸るのではなく、今は仁と訪れているので、楽しむ方を考えなければならないことを思い出した。
「そこのおふたりさん、記念写真はいかがですか?」
仁と頼子が入場ゲートに入ると、エントランス広場でカメラマンが記念撮影をしていた。そのカメラマンは入場してきた人に対し、手当たり次第営業活動を行っていたが、地元の人の利用が多いこの遊園地は、ほとんどがリピーターであるため耳を傾けるものは少なく、ほとんど素通りされている状態であった。それに漏れず仁と頼子が通り掛かると、カメラマンは声を掛けてきた。
「月見里さん、記念に撮っていかない?」
「うーん、私は構わないけど?」
(兼田君と一緒の写真が撮れるなんて嬉しいな。でも、音羽がいる部屋には飾れないよねぇ)
仁が頼子に尋ねると、冷静な表情を装いながら撮影を承諾した。だが、その表情とは異なり、仁と記念の品が残せることに、内心では跳びはねたくなるほど嬉しくなっていた。
「では、前の花壇と観覧車をバックに撮影しますね。はい、終わりました。枚数は何枚ご用意しますか?」
「えっと、2枚でお願いします」
「承知しました。では、2枚で2000円です。こちらは引換券になりますので、お帰りの際に出口ゲート前でお受け取りください」
写真はプリントアウトして専用の台紙に収められるため、すぐ渡せず、帰る際に受け取るようになっていた。仁はカメラマンに代金を支払った後、引換券を受け取った。




