第39話 2回目のデートを終えて
仁と頼子は駅前広場に戻ってきた。
「本当はもう少し一緒に居たかったのだけど、ごめんなさいね」
「家の手伝いなら仕方ないよ」
「次はもっと時間が取れるように調整するね。それと、今日はいっぱいお金を使わせてしまったうえに、服とかいろいろ買ってくれてありがとう」
「それは気にしなくても良いよ。月見里さんが喜んでくれたのなら僕は嬉しいよ」
「兼田君ったら、嬉しいこと言ってくれるなぁ。それじゃ、またね」
「うん、気をつけて」
頼子は仁に礼を言ってから別れ、食材の買い物に向かった。
「月見里さんの姿も見えなくなったし、僕も夕食の弁当でも買って帰ろうかな」
仁は、頼子の姿が人混みの中に消えるまで手を振って見送った。頼子の方もそれに気が付き、何度も振り返って、恥ずかしそうに手を振り返していた。
(照れている月見里さんの顔も可愛かったなぁ)
仁は去り際に見せた頼子の顔を思い出し、思わず顔が緩んでしまった。
「あっ! 次会う約束するのを忘れてた。うーん、まあ学校で顔を合わせるし、約束なんて、いつでもできるか」
仁は次会う約束をしないまま別れたことに気づき、大きな声を上げたが、学校でいつでも会えることを思い出し、気を取り直して帰路に就いた。
「さぁて、夕食は何にしようかな?」
頼子は仁と別れた後、家から少し離れたところにあるスーパーマーケットに立ち寄った。この店は、格安で食材が売られていて、月見里家の家計を支えるにあたってなくてはならない店であった。頼子は経費節約のため段ボールを開けた状態で陳列されている野菜を見ながら、夕食のメニューを考えていた。
「今日はタマゴが安いわね。確かお米はまだ残っていたはずよね」
もともと安く売られている店であるが、広告に掲載されている特売品などもあり、通常の価格よりも安くなっているので効率的に購入すれば、更に家計が助かるため、情報収集は大事であった。ちなみに月見里家は新聞を購読できるほど余裕がないため、広告の特売品は店内に掲示されているもので確認している。頼子は家に残っている食材を思い出しながら、特売品の中で購入するものを決めていった。
「お給料が入ったから、保存が利く食料も買えたわ。これでしばらくは何とかなりそうね」
頼子は、先日パートの給料が入ったため、いつもより少し多く食材を購入してスーパーマーケットを出た。
「帰ってから夕食の準備ね。ん? そういえば何か忘れているような気が……」
頼子は家に帰る途中、何か忘れているような違和感を覚えた。それがなかなか思い出せず、気持ちがスッキリしないまま歩いていた。
「ただいま」
頼子は自宅のアパートに到着し、鍵を開けて部屋に入った。音羽はアルバイトに出ているので帰宅していないため、当然のことながら返事はなかった。それは頼子も理解しているが、今は部屋に大きなイルカのぬいぐるみが置いてあり、それに向かって挨拶をするようになっていた。
「ぬいぐるみに挨拶するなんて、すこし大人げないかな? ふふっ、兼田君だと思って挨拶しちゃうのよね」
頼子は1人で照れながら靴を脱いで部屋に上がり、購入した食材が入ったエコバッグを置いてから、大きなイルカのぬいぐるみを撫でた。
「あーっ!」
ドン
「五月蠅いぞ!」
頼子は、何か忘れていると思ってモヤモヤしていたものを、イルカのぬいぐるみを撫でたことで思い出し、思わず大きな声を出してしまった。すると隣の部屋から壁を叩く音が聞こえたあと、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。




