第33話 2回目のデート(その9)
(とても美味しいのだけど、落ち着かないわ)
頼子は手で寿司を掴み、醤油を少し付けてから口の中に入れた。新鮮なネタは口の中でとろけるように広がり、少し酸味の利いたシャリがそれを被うように加わり、今まで味わったことがない高級感の溢れる味わいであった。だが、それよりもこの1貫がいくらするのだろうと考えてしまい、落ち着かない気持ちになっていた。
「僕は美味しいと思うのだけど、どうかな?」
「すっ、凄く美味しいわ」
「そっか。喜んで貰えて僕も嬉しいよ」
頼子は仁の質問に、不自然と思われないよう気をつけながら答えた。
(はぁ、これが最後の1貫かぁ。8貫だけでは少し物足りない気がするわ)
ゲタの上に盛られた寿司は8貫で、頼子は最後の1貫を食べようとしていた。正直なところ、これだけではお腹が満足していないが、高いだろうというのは容易に想像でき、これ以上追加するのは怖く感じていた。
「月見里さん、追加で何か頼む?」
フルフルフル
「もっ、もう、お腹いっぱいになったわ」
「そっか。それじゃ出ようか」
「ええ」
頼子は追加で注文したいと言い出せず、既に食べ終わっている仁にお腹がいっぱいになったと嘘をついた。
「特上にぎり2つで18000円です」
(うそっ、あれって1つ9000円もするの?)
仁と頼子はカウンター席を離れ、支払いをするためにレジへ向かった。そこで女性給仕から金額を知らされ、頼子はお腹の中に9000円分の食べ物が入ってしまったことに驚いてしまった。
「それじゃ、これでお願いします」
「20000円のお預かりで、2000円お返しします。ありがとうございました」
仁は財布からお金を出して素早く会計を済ませた。
「それじゃ、月見里さん、行こうか」
「ええ、その、お金を出してくれてありがとう」
「いいよ。こうして月見里さんがデートしてくれるだけでも僕は嬉しいんだ」
(ああ、兼田君に甘えてばかりで申し訳ないわ。私は何を返してあげられるのだろう……)
何も言わず、そっとお金を出す仁に対し、頼子はどのようなお返しをして良いのか悩んでしまった。
「月見里さんは、どこか行きたいところがある?」
「えっ? そうねぇ。そっ、そうだわ。公園に行かない?」
「公園かぁ。いいねぇ。ここから行けそうなところはいくつかあるけど、とりあえずここを出ようか」
「そうね。その間に行き先を考えましょう」
仁と頼子は、公園に行くことを決め、百貨店から出ることにした。
「この場所からだと、1番近いのが駅前広場だね。その次が歩いて少し行ったところにある中央公園、あとは電車で2駅の海浜公園といったところだね」
仁と頼子は百貨店を出て、次の行き先を考え始めた。仁は頼子の提案から頭の中のデータベースを参照し、3つの行き先を提案した。




