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第30話 2回目のデート(その6)

「お客様、少しの間、動かないでくださいね」

「えっ? はっ、はい」


 頼子が更衣室に入ると、それに続くように数人の店員が入ってきた。その中の1人から動かないように言われ、何をされるの不安になり頼子は固まってしまった。


 プチン

 プチン


 気が付くと頼子の一番近くにいた店員の片手にはハサミが握られていて、頼子が身につけていた衣装などから、商品名とサイズ、価格表示や盗難対策にそれぞれ付けられているタグを外し始めた。


「調整の方は進んでる?」

「はい、もう少しで完了です」


 タグ外しと平行するように他の店員達が、頼子が着ている服に不備がないか確かめながら、バッグや帽子のベルトを調整するなど身だしなみを整えていった。


「タグ外し終わりました」

「調整終わりました」

「不備はありません」


 頼子が固まっている間に、店員達は慣れた動作で作業を行い、指示役の店員に対し作業が終わったことを告げた。


「お客様、こちらがお召しになっていた服でございます。勝手ながら持ち運びに便利なように当店の紙袋に入れさせていただきました」


(えっ? えっ? タグも外されちゃったし、これってどういうこと?)


 別の店員から今まで着ていた服が入った紙袋を渡され、頼子の思考は完全に停止してしまった。


「お客様、お連れ様がお待ちですよ。この度はお買い上げありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」

「えっ? お買い上げって」


 いつの間にか試着室の前に出ていた頼子は、担当した店員達全員から深々と頭を下げられた。そこで初めて身につけている物を仁が購入したことに気付いた。


「月見里さん。さっきも言いましたけど、凄く似合ってます」

「あっ、ありがとう」


(ちょ、ちょ、ちょ、ワンピースだけで66000円って値札が付いていたのに、全部でいくらかかってるのよっ)


 頼子は最初に見たワンピースの価格に驚き、他の店員達が持ってきた商品の値段が書かれたタグを怖くて見られなかった。今回、仁が購入したのは1点だけではないため、合計するといくらだったのか考えるだけでも怖くなってしまった。


「僕からのプレゼントだけど、気に入ってくれた?」

「本当に良いの?」

「いいよ。うーん、もっと喜ぶかなと思ったけど気に入らなかったかな?」

「そ、そ、そ、そんなことはないよ。凄く嬉しい」


 頼子の懐事情では、手が出せないような服などをポンとプレゼントされたため、考えが固まってしまったが、女性として気になる男性から高い物を贈られて喜ばない者はいない。頼子が少しずつ冷静になってくると、女性としての嬉しさがこみ上げてきた。


「兼田君、今回はありがたく受け取るけど、私のために無理しちゃ駄目だよ」

「わかったよ。次から気をつけるね」


 株で多額の利益を出している仁は、これくらいの出費は苦にならないが、頼子が真剣な表情でお願いをしてくるため、次からは、事前に購入することを伝えようと仁は心に誓った。

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