第28話 2回目のデート(その4)
「休日なのに閑散としているね」
「そうね。私も同じことを思ったわ」
主に女性服を扱うフロアには、さまざまな種類の服や靴、帽子など、女性が身に付ける衣料品類が丁寧に間隔をあけて陳列してあった。中にはガラスケースに入っているものなどあり、庶民層が利用する一般的な店とは違う雰囲気が伝わってきた。仁と頼子は休日にも関わらず、売り場が閑散としていることが少々気になっていた。
「月見里さん、とりあえず見て回ろうか」
「そっ、そうね」
仁に言われ、頼子は2人の様子を窺っている店員達に不安を感じながら、売り場を見て歩くことにした。
「うわぁ、このワンピース落ち着いた雰囲気で良いわねぇ」
「そうだね。明るい色も良いけど、少し暗めの色でもよく似合うと思うよ」
頼子も、家庭の事情で長年ファッションに気を遣っていなかったが女性である。綺麗なものや、可愛いものなどを見ることは嫌いではない。最初に目が留まったグレーのワンピースを手に取って見ていた。
「お客様、ご試着などいかがですか?」
「兼田くーん、どうしよう」
仁と頼子の行動を伺っていた中年女性店員の1人が、仁と頼子の前に立ち塞がった。すると他の接触する機会を窺っていた店員たちは悔しそうな表情をして、それぞれの業務に戻った。
「僕は、月見里さんが着ているところを見たいな。きっと似合うと思うよ」
「もう、兼田くんったら。そこまで言われたら試着するしか選択肢がないわね。では、お願いします」
「承知いたしました。では、試着室に案内しますね。さあ、さあ、彼氏さんも試着室の前までどうぞ」
頼子と仁は中年女性店員の案内で試着室に向かった。
「それでは、試着が終わったらお声掛けください」
「はっ、はい」
頼子は試着室に入り、改めてワンピースを見た。
(こういう服が家にあれば、音羽も喜ぶと思うのになぁ。そういえば、このワンピースって、いくらするのかしら?)
「う、ひゃあ!」
「おっ、お客様、何かございましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
頼子は、手にしているワンピースの値段を確認していなかったため、ここで改めて値段札を確認した。するとそこに書かれていた数字に、思わず驚きの声をあげてしまった。
(ろ、66000円って、0が1つ多くない?)
値段札には66000円と記載されてあり、月見里家の1か月分の生活費より多い金額に頼子は狼狽えてしまった。
(試着はお金かからないし、ここでやめると仁くんに悪いから、とりあえず試着だけはしないと。ファイトよ頼子っ)
頼子はこのまま試着室に籠もる訳にいかないため、緊張してプルプル震える手を落ち着かせながら、着ていた服を脱いでワンピースを試着した。
「どっ、どうかしら?」
「うん、すごく似合ってるよ」
なんとか着替えを終わらせた頼子は、試着室のカーテンを開けて仁にお高いワンピース姿を見せた。仁は落ち着いた雰囲気が良いのが好印象で、素直に似合っていると告げた。
「お客様、お似合いですよ。よろしければご一緒に帽子から靴までフルコーデで試着してみませんか?」
「それも良いかも。月見里さんのオシャレした姿を見てみたいなぁ」
女性店員の勧めで、仁も頼子の綺麗にコーディネートされた姿を見てみたいと思った。仁の言葉を聞いた女性店員は他の店員に対し、手を不自然に動かして、何かサインのようなものを送っていた。




