第22話 いつもどおりの学校生活(その1)
「であるからして、このようなことは……」
仁は午前最後の授業を受けていた。国語教師が黒板に教科書に書かれている文章の一部を書き出し、紐解きながら解説をしていた。授業にあまりついて行けていない仁にとって、良くわからない言葉を話しているだけに聞こえ、とても退屈な時間に感じていた。
(月見里さんは真面目に授業を受けているんだな)
仁はふと、前の席を見ると、後ろ姿で良くわからないが、真面目に板書を書き写しているように思えた。
「よし、今日の授業はここまでだ」
きーん、こーん、かーん、こーん……。
国語教師が授業を終えると言った後、午前最後の授業が終了したことを知らせる鐘が鳴った。
「起立、礼、着席」
日直が号令を掛け、昼休みになった。この学校の昼食は給食ではなく、個人で準備するようになっている。弁当を持参する者、購買でパンやおにぎりを購入する者、または学食を利用する者など、それぞれの自由に選択できるようになっていた。
「あっ、いなくなってる」
昼休みに入ったことで、弁当持参の者は机の上に弁当を広げ、購買や学食に向かう者は教室を出て行った。仁は弁当を持参していないので、購買か学食に向かう必要があったが、急いでいなかったため、いつもゆっくり行動を始めていた。ふと前の席を見ると、音羽の姿はなく、既に教室から出て行った後であった。
「さて、購買に行ってパンでも買ってくるか」
仁はボッチであったため、この日も1人寂しくパンを買って食べることにした。席を立ち購買の方に向けて移動した。
「あの争奪戦には参加したくないから仕方ないよね」
仁が購買に到着して、パンが並べられている棚を見ると、僅かにパンが残っている状態であった。購買で取り扱われているパンの種類は複数あるが、人気のパンはすぐに売り切れてしまう。そのため昼休みに突入すると、一気に生徒が押し寄せてパンの争奪戦になる。この戦いに勝利した者が目当てのパンを入手という過酷なものであった。この争奪戦が始まると購買付近は人で溢れかえり身動きが取れないほどになる。仁はその争奪戦に参加する気力がなかったため、僅かに売れ残ったパンで構わないと思っていた。
「おや、兼田君、なんだか男前になったね」
「えっ? そうですか?」
「ええ、前髪を切ったことで顔がよく見えるようになったわ。おばちゃん、思わずキュンとなっちゃうわ」
「もう、おばちゃんったら冗談ばかり言うんですから」
仁は購買でパンを買うときは、争奪戦が終わり生徒がいなくなった時間帯に行くため、購買のおばちゃんと顔なじみになっていた。彼女はふくよかな体型で、白い割烹着を着て三角巾を被り、マスクを着用している。この格好はパンを販売する時間帯だけで、普段は三角巾とマスクを外して業務に当たっている。購買ではパンの他に、文房具から学校生活に必要なものまで多くの商品が取り扱われている。飲み物は購買横に自販機が横に設置されているため、そこで生徒達と教職員は必要な飲み物を購入している。
「さて、今日は何にしようかな」
仁は売れ残ったパンの中から、この日の昼食を選ぶことにした。




