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第2話 弱みを握った

「単刀直入に聞くけど、授業中に何か音を聞いたよね?」

「なっ、何のことかな?」


 僕は音羽に呼ばれて校舎裏に来ていた。男女がこの場に来ると告白する場面を想像してしまうが、現実はそう甘くなかった。彼女は僕に詰め寄るように授業中に僕が偶然聞いてしまった音について尋ねてきた。


「とぼけないで! 聞いたよね? 私のその、お、おならの音」

「聞いた。でも、僕は偶然聞いてしまっただけで、何も悪いことをしていないよ?」

「忘れて」

「は?」


 僕が音羽のおならの音を聞いたことを伝えると、強い口調で忘れるように言ってきた。ふと、彼女を見ると恥ずかしさか、怒りなのかわからない複雑な表情をしていた。比較的緩い校則のおかげで、僕が通う学校に通う女子は、化粧やアクセサリーなどで着飾っている者が多く、髪の色に関しても派手すぎない範囲であれば、教師に咎められることもない。そのような環境の中で音羽は特に着飾ることもせず、黒髪、すっぴんであったため、クラスでも目立たない存在であった。あまり注視してみることはなかったが、彼女の顔を良く見ると均整が取れていて長い髪、そして胸の大きさは小さいながらも細身でスラリと伸びた足に目が行き、総合的に判断すれば美人の域に入るように感じた。


「だから、忘れてって言っている」

「そう言われても、あの音と臭いは忘れられないよ。昨晩はカレーかシチューだったのかなって思えるような玉ね……」

「いやーっ、それ以上言わないで。匂いまで嗅いでいるなんて変態っ」


 音羽は僕が言おうとしているのを慌てて遮った。彼女は音だけではなく、臭いまで嗅がれたのを知り、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。


「うーっ、恥ずかしい。お願いだから忘れて。何でも言うことを聞くから」

「えっ?」


 僕は音羽の言葉に驚いてしまった。アニメや漫画などでは作中の女性が窮地に陥ったときに良く出るセリフだが、目の前に立っている女性からこのような言葉を聞くのは初めてであった。と言っても僕は男女ともに友達のいないボッチであるため、人と話すのは両親くらいで、日常的に使われる言葉なのか、本当のところはわからなかった。


「なっ、何でもって言ったけど常識の範囲内だからね」


 音羽は何か不穏なものを感じたのか、自身の身を守るために慌てて付け加えた。


(良識の範囲となると、あんなことや、こんなことはダメということか)


 僕は今までの学校生活で、特に彼女が気になっていた訳ではないが、何でもと言われると男としては性的なことを想像してしまったが、先手を打たれて彼女いない歴イコール年齢である童貞男の願望を断たれた形になった。


(そうだなぁ。あっ、これならどうだろう)


「決まった?」

「決まったよ」


 僕は音羽と付き合いたいという気持ちはなかったが、興味本位から何をお願いするか決めた。


「僕とデートしてほしい」

「でっ、デート?」

「無理なら良いけど……」


 僕は思いつきで言ったので、彼女がどのように返事をしても良かった。もともとは彼女のおならをなかったことにするだけの話なので、僕としては何も失うものがないのが理由であった。


「(デートなんてお金のかかる贅沢なことできないしなぁ)あっ、そうだ。全部アンタの奢りなら良いわよ」

「どうして僕が全部奢らないといけないんだよ」

「それが嫌なら、他のお願いにして」

「わっ、わかった。それでお願いします」


 たかられているような気もするが、僕は女の子とデートするという未知のイベントが発生したという誘惑に負け、彼女とデートをする約束をした。

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