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第120話 母娘の話し合い(その4)

「仁君、あーん」

「あーん」

「美味しい?」

「美味しいよ」


 それから3人分の夕食が用意され、仁と頼子がべったりと引っ付きながら夕食を食べているのを、音羽は目の前で見せつけられていた。


「仲が良いのはわかるけど、2人ともイチャイチャしすぎよ。見せつけられている私の身にもなってよ」

「仕方ないわね。音羽、こっちにいらっしゃい」

「えっ? 私、そういう意味で言ったんじゃないけど」


 頼子は音羽はポツンと食べているのが辛いと思い、手を引いて仁の隣に座らせた。


「ほら、ほら、音羽もやりたかったんでしょ?」

「わ、私、そういう意味で言ったんじゃないわよ。でも、でも、将来的に私のお義父さんになるかもしれないのだから、これくらいはサービスしておいた方が良いのかな? か、兼田君、口を開けて」

「えっ? あ、あーん」


 音羽は頼子に促されたまま、箸で今晩のおかずである焼き魚を少し取ってから、仁の口元に運んだ。先ほどの会話から頼子公認であった為、仁も少し躊躇ったが口を開けて、音羽から食べさせて貰った。


「そうそう。やっぱり親子になるのだから仲が良いのに限るわね」


 恥ずかしがって仁に魚を食べさせている音羽を見て、頼子は終始ご機嫌であった。




「ごちそうさまでした。月見里さん、美味しかったよ」

「ねぇ、仁君」

「なにかな? 頼子さん」

「私の娘なんだから、月見里さんって言う呼び方は変だと思うわ。今度呼んだら私も返事をしちゃうわよ」

「おっ、お母さん、いきなり呼び方を変えろだなんて、心の準備ができていないわよっ」


 頼子は仁が音羽のことを名字で呼んでいることが気にかかった。お互いのわだかまりを解くには呼び方も大事だと思い、仁と音羽に対して提案した。


「仁君も、娘になるかもしれないから音羽って呼んじゃいなさいよ」

「えっと、呼んでも良い?」

「どうして私に確認を取るのよ。呼びたければ呼べば良いでしょ」


 頼子から言われたが、仁は音羽本人に確認を取ってからにしようと思い尋ねてみた。すると音羽は恥ずかしそうな表情をしながら、好きに呼べば良いと答えた。


「音羽」

「仁」

「ちょっと、ストーップ。音羽、私だってまだ君を付けて呼んでいるのに、仁君のことを仁なんて呼ぶのよ」

「僕はどっちでも構わないよ」

「ほーら、仁だって呼んで良いって言ってるじゃない。悔しかったらお母さんも呼んでみなさいよ」


 頼子は音羽が仁のことを呼び捨てで呼ぶのが気に入らない様子であった。それはまだ頼子自身が呼んでいないこともあった。


「仁……くん。やっぱり、今のは無し。まだ無理でした。ごめんなさい」


 頼子は頑張って呼ぼうとしたが、恥ずかしさの方が先に来てしまったため、仁を呼び捨てで呼べなかった。


「お母さんも、そのうち呼べるようになるわよ。そう思うよね? 仁」

「そっ、そうだね。僕もまだ頼子さんとしか呼べないから、時間をかけて2人で解決していこう」

「そうね。改めてよろしくね。仁君」


 仁と頼子は、お互いの呼び方は時間をかけて解決していこうと思った。そう、2人で歩む人生は始まったばかりであった。

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