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第114話 元気のない音羽(その2)

「朝はお母さんと会っていなかったんだよね?」

「そうよ。昨日、帰ったら誰もいなくて、お母さんどうしたのかなって思いながら夕食の支度をしたのだけど、結局帰ってこなくて心配してなかなか寝付けなかったんだ」

「そうか。ごめん」

「どうして兼田君が謝るの」

「……何となく」


 朝はあの後、ホームルームが始まり結局、話が途切れたままになってしまった。そこで昼休みに入り、仁は音羽がふだん昼食を食べている屋上に繋がる階段に行き、話を聞くことにした。もともとは仁の母親が原因でこうなったのであるが、息子としてある程度ケアは必要だと感じての行動であった。


(月見里さんの言動からすると、頼子さんは急いで帰ったけど間に合わなかったぽいな)


 頼子が慌てて仁の家を飛び出した時間から逆算すると、帰宅するのは音羽が学校に向かうために家を出た時間の後になりそうであった。そのため、朝の時点で2人は接触していなかった。


「本当は連絡したかったけど、ほら、電話が無いんだし連絡できなかっただけだよ」

「それなら良いけど、もし、変な男にでも引っかかっていないか心配なの。私が言うのも何だけど、私のお母さんって結構、年齢に似合わず童顔なのよ。私と一緒に歩いていると姉妹に間違われる位なんだよ」

「そ、そうなんだ」


(すみません。よく知ってます)


 仁も頼子の容姿に騙された1人なので、音羽の言うことはとても理解できた。


「今日はコンビニのおにぎりなんだけど、食べる?」

「ふーん、って高っ! コンビニのおにぎりってこんなに高いの?」


 音羽は無意識にコンビニのおにぎりを受け取り、そこに記載されていた価格を見て驚いていた。


「ここ数年で一気に上がったからね。月見里さんは何を用意してきたの?」

「いつものだよ」


 音羽はそう言っていつもの白おにぎりを仁に見せた。


「深く考えずに買ってきたけど、おにぎり同士で被ってしまったね」

「まあ、くれるって言うのなら貰ってあげるわよ。はむっ。やっぱり味があるのも良いわねぇ」


 仁は通学途中にコンビニによって昼食のおにぎりを確保していた。いちおう音羽のことも考慮し、自分が食べるよりも少し多めに購入していたが、彼女がふだん白おにぎりを持ってきていることを思い出し、被っていることに気付いた。だが、仁が渡したコンビニおにぎりは、すでに音羽の胃袋の中に収まっていた。


「月見里さんのお母さんはきっと、いつもの時間に帰ってくるよ」

「どうしてそういうことが気軽に言えるの?」

「そっ、それは」


 まだ頼子と音羽に対しての接し方を話し合っていないため、現時点では安易な行動が仁には取れなかった。そのため音羽の質問に仁は即答できなかった。


「そうだわ。兼田君も一緒に家で待ってくれると心強いかも」


(キャー、私ったらどさくさに紛れて何、口走っているのよっ)


 音羽は思わず、僅かに頭の中に浮かんだことを口走ってしまった。


「それで、月見里さんの気持ちが落ち着くのなら」


 仁も交際相手の娘が困っているのであれば、手を差し伸べたいと言う気持ちであった為、音羽の提案に乗ることにした。


「……その、お願いします」


 音羽は自分から言い出した以上、撤回できないため、仁の申し出を受けることにした。

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