「始まりの扉と創造の鍵」
「ここはどこだ?」 俺は目を開けると、奇妙な場所に立っていた。あたりは静寂に包まれ、風の音すら聞こえない。視界には、無数の「扉」だけが広がっていた。扉は大小さまざまで、それぞれが異なる形や色を持ち、どこに続いているのか見当もつかない。そして、その中心にひときわ大きな黒い扉があった。
「お目覚めですね、マスター。」
振り返ると、そこには少女の姿をした存在が立っていた。彼女は透き通るように白い肌に長い銀髪を持ち、髪は風もないのにどこか宙に漂うように揺れている。身長は自分の胸ほどまでしかなく、華奢な体に深い紫のローブをまとっていた。その表情は無機質で感情が読めず、まるで面をかぶっているような冷たさがあった。
目をじっと見ると、彼女の瞳はまるで星空のように細かい光が瞬いており、こちらを見つめるその視線には不思議な引力があった。人間のようでいて何かが決定的に違う、そんな奇妙な違和感を覚えさせる存在だ。
「私はこの領域の管理者、あなたをここに呼び出した者です。ようこそ『虚無のアトリエ』へ。」
虚無のアトリエ?一体ここは何なんだ。俺は彼女に問おうとしたが、彼女の言葉がその前に続いた。
「あなたは“作る者”として転生しました。ここは、あらゆる存在の未完成な思念が漂い集まる場所。失われた希望や、壊れた夢、作られなかった過去……それらが積み重なり、新しいものが生まれる場所なのです。」
彼女はそう言いながら、俺に向かって黒い鍵を差し出した。それは不気味に光り、どこか悲しげなオーラをまとっている。
「あなたには、この扉の向こうに存在する“未完の世界”を訪れ、そこに欠けたものを“創造”してもらいます。無限の異世界が、あなたの手で完成されるのを待っています。ですが、ただ物を作るだけではありません。欠けたものに命を与え、世界を動かす法則そのものをもあなたが描かなくてはならないのです。」
俺は彼女の言葉に圧倒されつつも、ふと問いを投げかけた。「つまり、俺がこの世界に必要なものを想像して、作り出せってことか?」
彼女は微笑みながらうなずく。「ええ、あなたの役割は“創造者”です。ですが、これから訪れる世界は未完成な故に、どのような結果をもたらすかは分かりません。あなたの作り出したものが、その世界にとって善か悪か、それはあなた次第。そして、ひとつ忠告です……どんなに小さな存在でも、あなたが創ったものには意識が芽生える可能性があります。それが“あなた”に対してどんな感情を抱くかも含めて。」
つまり、俺が作り出すものが俺に敵意を抱く可能性もあるということだろうか?何もない世界に小さな灯火を作ったとして、それが燃え広がり世界を焼き尽くす炎になるかもしれない。俺は、その可能性を聞いて少し身震いしたが、不思議とわくわくする気持ちも湧き上がってきた。
「最初の世界に行く準備が整いました。あなたの作るものがどんな影響を与えるか、私も楽しみにしています。」
彼女が指し示したのは、中心にあった黒い扉だ。俺は意を決してその扉に向かい、黒い鍵を差し込んだ。扉が開くと、俺は吸い込まれるようにして中に入っていった。
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