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落ちこぼれ勇者

新たな魔王が君臨し、数十年の時が経った。


海岸沿いに位置するこの国 ”テネブラス” だが、

昔は山間部にまで街が栄えていて人口は50万人ほどいたらしい。


今となっては、魔物との長期にわたる攻防の影響で人口は1/5の約10万人。

魔物から逃げるように、端へ端へと海岸部を中心に街が作られた。


この国では、必ず一人の勇者が誕生する。

そして勇者には、その恩恵として魔王を倒すべく特殊な加護が与えられる。


しかし、歴代最強と謳われる魔王に為す術もなく歴代の勇者達が敗れている。

いや、正確には魔王にすらたどり着けず敗れている。


勇者が敗れると新たな勇者が誕生する、これの繰り返しだ。

勇者に選ばれることは、これ以上にない栄光であると人々は言う。


ーーだが俺に言わせてもらうなら、圧倒的強さを誇る魔王に挑まなければならないのは実質死刑宣告のようなものである。毎年のように、そんな不幸人間が誕生していると思うと胸が痛む。


「そうは思いませんか?皆さん、え?今は誰が勇者なのかって?わたくし、アムが選ばれてしまいましたよ、ええ、そうですよ。世界一不幸な人間とは私のことですよ。」


「おいアム、こんな広場で演説してないで早く行くぞ、サーナが待ってる。」


ーーこのほぼ半裸のムキムキ野郎の名前はムスクル、ギルドの紹介で今はパーティを組んでるが脳筋で頭がお花畑だから魔王討伐なんて使命を大喜びで引き受けやがった。良い奴ではあるんだけど、とにかく阿呆だ。こないだなんて、敵の放った水魔法を飲み干そうとしてお腹をタプタプにするようなやつだ。


「ムスクルは、去年死んだ勇者を知ってるか?61代目の勇者、剣の大会では全戦全勝、歴代最強と言われた剣の達人。そんなやつが勇者の加護を手にしたら鬼に金棒のはずだろ?それなのに、魔王にすら辿り着けずに死んでるんだぞ?」


「あの勇者は剣の天才と呼ばれていたが、あくまでそれは相手が”人間”だった時だ。俺らが戦うのは”魔物”だ。奴は恵まれた己が才を過信し修練を怠っていた。実践経験もろくに積まずにその傲慢さでボスに挑んだせいで死んだ、それだけだ。」


ーー脳筋のくせにこうゆう時だけまともなこと言いやがって……

俺は今の立場を誰かに同情して貰いたいんだよ。

だが、ムスクルの言ってることはその通りだ。

対人と対魔物では戦い方が何もかも違う。

ルールに縛られた舞台で戦うのではなく、反則なしの殺し合いをするのだから。

どんなに姑息で卑怯な戦い方だとしても、最後まで生きていた方の勝ちだ。

だからこそ、俺はそんな戦いから逃げ出したい。地位や名誉なんて要らない。

俺はただただ死ぬのが怖い。

勇者に選ばれてしまった以上、俺は逃げることを許されない。

お前に俺の気持ちなんて分かんねえよ。だってお前には選択肢があるじゃないか、

逃げ出すという選択肢が。


「俺が影でなんて呼ばれてるか知ってるか?落ちこぼれだの、最弱勇者だの…誰も俺が魔王倒せるなんて期待してねえよ。逃げる選択肢がある奴が羨ましいね。」


「俺はアムに期待しているぞ。死に怯えるというのは、戦いで何より重要だ。俺達は初めて見る得体の知れない未知の敵と命がけで戦わなければならないからな。慎重なアムだからこそ、負けない戦い方を考えればいいではないか。憂あって備えなしというだろ。」


ーーそれを言うなら”備えあって憂なし”だろ。備えなしって備えれてないじゃないか。気づいてくれ、俺は皮肉を言ってるんだよムスクル。こいつに話すと毎度調子を狂わされる。でもコイツ、逃げ出す選択肢がある中、仲間になってくれたんだよな。勇者に選ばれてしまった以上、もう少し頑張ってみようか。なんだかイケる気がしてきた。


「見ろ、アム。あのパン屋の店主、爺さんかな?婆さんかな?」


ーーやっぱダメかもしれない。


「あっ、いたいた。」


ーー皆に紹介しよう、あそこで手を振ってる緑髪眼鏡の可愛らしい女の子はサーナちゃん。俺たちのパーティーでヒーラーをしている。とても真面目でルール厳守人間だけど、あの防御する気のない露出が激しいえっちな服装とのギャップに我々はいつも癒されています。はい感謝。


「ムスクル、サーナちゃん。今日は突然の呼びかけに集まってくれてありがとう。今後のパーティの方針について歩きながら説明するよ。まずは、パーティー役割についてだけどー…」


「うわ、最弱勇者だー。」


ーー小さい子供が、俺に指を刺している。

俺が最弱勇者と呼ばれる所以、それは勇者の癖に攻撃系ではなく防御特化の勇者の加護にある。きっと死にたくないという俺の意志が強く働いたんだろう。最弱勇者というのは事実だし、もう言われ慣れている。


「おいそうえん、あむあほーみえへつおいお。」

(おい少年、アムはこうみえて強いぞ)


ムスクルの右手にはパンが大量に入った袋、頬は欲張りなハムスターのようになっている。


「食べながら話すな。同じペースで歩いてたのにいつの間にそれ買ったんだよ。」


「ングッ、アム、さっきのパン屋、爺さんだったぞ。」


ーー聞いてねえよ。


「続きを話すぞ。現状を役割別で考えると、ムスクルは体力おばけなので雑魚モンスター処理、サーナちゃんはメンバーの回復、補助、そして防御だけが取り柄の俺が皆を守る。」


「あれ?アムさん、それでは誰が強敵(ボス)を倒すんですか?」


そう、このパーティ最大の欠陥。


強敵ボスを倒すための決定打に欠ける”

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