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遅すぎたんだ!

 遅すぎたんだ!

 みんなもう異世界転生している! おれだけ遅すぎたんだ!


 おれは異世界の草原をまっすぐに突き進んでいた。

 とここで、おれが異世界転生する少し前の話をしよう。



 光ひとつ無い場所だ。右も左も上も下も、おれの人生のように真っ暗だ。

(起きられましたか)

 と、女の声がおれの頭の中に響いた。


「あの、ここどこ? おれ死んだの?」

 一応だが話をしてみることにした。こう見えておれはコミュ力高い系陰キャを通している。


 あ、おれの自己紹介? おれの名前は不和一誠、十七歳、十七歳に見えない見た目をしているが気にしないでくれると嬉しい。あと頭の中身は年齢以上なのか年齢以下なのか訊かないでくれると助かる。


(ええ、あなたはそれはもう無残な死に方をしました)

「そんなに無残?」

(ええ、それはもう言葉にできないほどの)


「じゃあどうしよう」

(あなたは異世界転生するのです)

「急だな。てか、なんで異世界転生しなくちゃならないの? おれってなんかした?」

(現実世界であなたのやったことは許されることではありません)


 え? もしかしておれって犯罪行為でもしたの? 身に憶えないんだけど。

「具体的に何したの?」

(子猫を……)

 子猫を……もしかして女の子の言い回しを子猫って比喩してる? もしかしてだけどおれって女の子に悪戯的な犯罪行為をしたの? 確かに男子高校生だけどそこまで性欲フルスパークじゃないよ!


(子猫を助けて車にはねられ、トラックにはねられ、電車にぶつかり……死にました)

 そりゃ悲惨な出来事でしょうね! おれ! なんだ良かった、おれ犯罪者じゃなかった。てか良い事してなんで許されない事なの?


「子猫助けたら悪いのかよ」

(子猫は車にはねられ死ぬ運命でした。その運命をあなたは捻じ曲げてしまった)

「そっか。で、その子猫は今はどんな感じなの?」

 納得しているおれがいるけど、それ納得していいのかな? まあいいか。


(飼い主が見つかり保護されました)

 そりゃあよかった。

(その飼い主に虐待を受け子猫は死にます)


 それ聞きたくなかったなぁ。子猫良い事ないじゃん、可哀想じゃん。

「つまりおれは酷いことを間接的にしてしまったわけか」

 良い事したつもりが逆の事してたのか。おれもおれで良い事ないな。


「それで、異世界転生までのくだりは分かったけど、何のために異世界転生するの?」


(罰を受けるためにあなたは異世界へ転生してもらいます)

「それって罰なの? 異世界転生って言ったらステータスSSS、もしくは最強! って感じのチートじゃないの?」

 地獄転生だったら分かるけど、異世界転生はある意味ご褒美なのでは?


(異世界がそんなに甘いと思いますか?)

 甘いね、甘い甘い蜜の味だよ。

「まあどうでもいいや、第二の人生スタートってことだな」


(それではこの契約書にサインを)

 と、おれの目の前に用紙が降りてきた。

 え、何この契約書。おれの話し相手って女神じゃないの? 悪魔だったの? 悪魔との契約をしなくちゃ異世界転生できないの?


 まあどうでもいいか。

 と、おれはサインをした。サインコサインタンジェントっと。


「あの、質問だけど、異世界転生するのにスキルとかもらえないの?」

(ありません。他の方々でしたらスキルを与えましたが、あなたにスキルを与える意味はありません)

 ちょっと待ってよ、差別されてるよね? 一匹の子猫の運命変えただけでかなりの差別されてるよね?


「他の方々って、おれの他に転生してる人いるんだ」

(そうです、なのでスキルのストックが切れてしまっています)

 ほほー、そういえば契約書にスキルのなんとかかんとかって書いてあったっけ。


(スキルが欲しければ他の転生者を殺すことですね。殺せばその人のスキルを奪えるので)

 ええ、怖いんだけど。何言ってるのこのひと。おれは異世界でスローライフを送るぞ、今度こそ何もしないでニートでいたいんだ。


「あの、罰って――」

(――では良き転生ライフを)


 話の途中だったのに、次の瞬間おれの目は光をとらえた。


「よっしゃ! 異世界転生したぞ!」



 そして現在に至る。

 おれは草原を駆け抜けていた。真っ裸で。

「グオオオオォォォ」

 そう、転生したら真っ裸だった、ついでにモンスターに襲われたのだ。


 誰か助けてー!



 この世には色々な異世界転生物語がある。そんな異世界物語の中でおれは遅すぎたんだ!



 遅すぎたんだあぁぁぁ!



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