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いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
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第一章7 『忍び寄るモノ』

「にしても、あれだな、なんかすごい静かだな」


崖から飛び降り、再び森の中を散策している2人だが、森を進んでいくにつれて、やけに静かになっているような感じがする。

虫や鳥の鳴き声も、鳥気配なども一切なく、少し不気味な雰囲気だった。


「そうだよね、すごい静かだし、虫の気配とか一切ないよね。まぁ、私虫嫌いだからいなくてすごく嬉しいんだけどね」


まあ確かに、自分も虫は嫌いなので、いない方が嬉しいのだが、何かおかしい気がする。


「ねぇ、シエナ。やっぱおかしくない?森の中に虫の気配がないなんてありえないと思うんだけど」


「まぁまぁ、いいじゃん!おかしくてもいいじゃん!虫いないんだし」


「いやダメだろ」


隣で歩いているシエナの横顔を見ると、とても愉快げな様子だった。余程、虫がいないことが嬉しいのだろう。

いや、シエナのことはどうでもいい。問題なのは、森が静かすぎるのと、全くの気配がないことなのだ。

森の中には、必ず生物が存在しているはずだ。なのに、この森には一切いなかったのだ。


ふと気づく、ここに来てから、生き物は一切見ていないのだ。

最初にここに来た時からそうだ。シエナのことを見守っていたあの夜から、シエナと森を歩いている今だって、生物などは何も見ていない。

おかしい、これは絶対におかしい


そう考えていながら歩いていると、鼻から嫌な臭いが、空気に混じって共に入り込んできた。

なんだろう、どこか鉄のような感じの匂いだ。


「―――血か!?」


慌てて周りを確認するが、何もいない。だが、ここら辺一体に、血の臭いが蔓延していた。

シエナも異変を感じ取ったのか、身構えの体勢をとっている。


「周りには何もいないみたいだね」


「あぁ、そうなんだけど…なんで血の匂いが…」


ルイの鼻からは、血の臭いが、呼吸する度に入り込んできている。

咄嗟に口呼吸に変更したが、意味はなかった。相変わらず、血の臭いが入り込んできている。

このまま嗅ぎ続いていると、頭がおかしくなってしまいそうだ。


「森には生物の気配が一切なく、周りには血の臭いが蔓延している……魔獣でもいるんじゃない?」


「魔獣―――」


魔獣とは、魔女と同じく、この世界の人々に恐れられていて、人間に対して襲ってくるなどの、害を与えてくる存在だ。

この国では、色んな魔獣被害が起こっており、色んな人達が魔獣に襲われて、死んだ人も少なくない。

そんな魔獣が、今ここにいるのか───。


「でも一体どこに?」


「進んでみたら分かるんじゃない?」


「そうだな……出来れば出会いたくないんだけどな…」


「──それは、もう無理みたいだね」


ルイは「えっ?」と言いながら、シエナを見る。すると、シエナは続けてこう答えた。


「だって……もう……囲まれちゃっているからね」


「嘘だろ……」


周りを見回すと、無数の魔獣たちに囲まれていた。

体長は1メートル以上あり、顔であろう部分には、非常に大きな目玉が存在しており、そこを軸にて、蜘蛛のような、細長いの足が6本生えている。

そんな気持ち悪い魔獣が、ジリジリと2人目掛けて迫ってくる。

大きな目玉が、ルイとシエナを、まるで嘲笑しているかのように見据える。

魔獣が、距離を詰めてくるのに対し、ルイは、少しずつ後ろへ下がっていた。


すると、ルイの背中に、シエナの背中が当たっていた。シエナも一緒な行動をしていたらしい。


「シエナ、どうする!?」


「本当は逃げたいんだけどね、囲まれてるからやるしかないね」


「あぁ、わかった。なら俺に任せてくれ」


「1人じゃきついでしょ、私も戦うよ」


「私も戦うって……シエナ大丈夫なの?体調とかも心配だし、武器とかも持っていないのに」


今までずっと思ってきたのだが、シエナの体調が心配だ。なんにせ、昨日まであんなにボロボロだったのだ。治癒魔法をかけたとはいえ、体調はとても心配だ。

シエナは、体調が悪い素振りを一切見せていなかったが、もしかしたら、ルイに気を使ってくれているだけなのかもしれない。


それに、シエナは、剣などの武器を一切持ちえていないのだ。

ルイは、魔法を使えるため、生身でも戦えはするのだが、魔法は、全員が使えたりはしない。中には、魔法が使えない人も存在しているのだ。

果たして、シエナは魔法を使えるのだろうか。


そんな心配事をしていると、シエナが「大丈夫だって」と微笑を交えながらそう言い。


「私には、これがあるから」


そう言い、シエナが、服についてあるポケットから、何かを取り出した。

見ると、シエナの手のひらには、鉄の玉のようなもの握られていた。


「──────ッッ」


「危ない!」


刹那、魔獣が咆哮し、シエナ目掛けて、押し寄せてくる。

すると、シエナは、鉄の玉を空に軽く投げ、再び手に取り、爪を立て、押し寄せてくる魔獣に対して、大きく振られる。


刹那、横殴りに放たれた鉄の斬撃が、魔獣を見るも無惨な姿へと変貌される。

魔獣の体が、指の本数分、5枚に切断され、血飛沫を撒き散らして、地面に崩れ落ちる。周りには、魔獣の血と肉片と臓物が、ぶちまけられている。

続けて迫ってくる魔獣にも、鉄の斬撃が放たれて、比喩無しに、粉々になっていく。


それに、魔獣だけではなく、周りの草木も、綺麗に切断されていた。

高くそびえ立った木が、鉄の斬撃によって、なぎ倒され、衝撃が地面に響き渡る。


「やっば……」


シエナの放った斬撃を見て、感想を述べて、ただただ傍観者として眺めていると。


「ルイくん、後ろ!」


シエナが、切羽詰まった声でそう言う。直ぐに、後ろを振り向くと、魔獣が迫ってきていた。

6本ある足のうち、2本の前足をルイに向けて、刺してこようとしてきた。

前足を上げたので、魔獣の腹の部分が見えたが、そこには大きな口が、備え付けられていた。大きな口には、鋭い牙が並んでおり、そこからは、ヨダレらしきものが垂れていた。


ルイは、咄嗟に右腕を前に突き出し、右手に魔力を貯める。そして──。


「フレム・ロート」


そう詠唱し、右手に貯めていた魔力を解き放つ。

魔獣の口に目掛けて、炎が放たれる。


魔獣は、大きく後ろに吹き飛び、ひっくり返って、足をジタバタさせながら、炎に焼かれ、苦しんでいる様子だ。


「よっしゃぁぁ!」


魔獣を倒したことが嬉しく、ガッツポーズをかましていると「まだくるよ!」とシエナの声が、森の中に響く。


周りを見回すと、先程までルイたちを囲んでいた魔獣達が、増えていた。


「ちょっ、シエナやばいよ!?どんどん増えちゃってるよ!?」


流石にこのままではまずい。このままでは数に押されてしまい、魔獣共に喰い殺されてしまう。思考が絶望という文字に飲み込まれていると───。


「だから大丈夫だって、私に任せてよ。こんなヤツら私の前には歯が立たないんだから」


微笑を交えながらそう言うと「ルイくんしゃがんで」と大きな声で言うので、ルイは咄嗟にその場にしゃがんだ。


「この森結構破壊しちゃうけどいっか」


聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、まあいい。


「──────ッッ」


またしても、魔獣の咆哮が森の中に響く。

シエナは、周囲を睥睨しながら見渡し、先程を同じように爪を立てて、周囲に向かって、大きく腕を振り払った。


刹那、森全体に破壊の衝撃が響き渡る。魔獣達が、破壊の斬撃に飲まれ、血と肉片となり、地獄のような惨状と化す。

破壊の衝撃は凄まじく、周りの草木も巻き添えにしていく。

草が粉々にされ、空に撒き散らされ、木がなぎ倒され、地面に衝撃が響く。

魔獣が、なぎ倒された木に押し潰されて、骨が砕け、肉と臓物が潰されていく。


魔獣の悲鳴と、草木がなぎ倒される轟音に、耳が犯される。ルイは、轟音から耳を守るべく、塞いでいると──。


「終わったよ」


シエナの声が上から聞こえる。魔獣の咆哮はもう聞こえず、聞こえるのはシエナの甘い声だけだ。

ルイは立ち上がり、周りを見回すと。


「うぇぇ………魔獣とはいえやっぱりきついな」


吐き気が込み上げてきた。人間の死体を見るよりはまだマシなのだが、やはり血を見るのはきつい。


ルイが、吐き気に襲われ、胸を抑えていると、シエナが「大丈夫?」と心配そうな声をかけながら、背中を摩ってきた。


「あぁ、大丈夫だ」


シエナが背中を摩ってくれたおかげだろうか。徐々に吐き気がマシになってきた。改めて、周りを見回すと。


「すごい惨状だな……」


魔獣の死骸がそこたら中に広がっており、周りの草木がなぎ倒されていて、空から光が入り込んできている。

魔獣から噴き出した血が、空から齎される光に照らされて、美しい赤色に変えていた。


「ねぇ、シエナ…俺いる?ただの置物と化してなった?」


この惨状を見事に作り上げたのはシエナだ。魔獣に囲まれて、絶体絶命だった状況を、シエナが何とかしてくれた。

ルイは、ただしゃがんでいたにすぎない。


「エッ?いや、そんなことないよ?ね?ルイくんがいたから、なんか、こう、隠された力が湧き出たというか、ね?うん。そんな感じがしたから勝てたんだよ、ね?」


必死にシエナが、おぼつかないフォローを入れてくれたが、ルイの心には響かない。

ルイは本当に何もしていなく、ただただシエナに任せきりだったのだ。

シエナが、シエナが───。


「っていうかお前、ちょっと強すぎじゃない?」


ふと思った。こんな少女がこんな惨状を作り出すほど強いなんて。


「私の名前お前じゃなくてシエナだし!あと女の子に向かって強いって言葉いっちゃだめなんだし!」


地雷を踏んでしまったのか、シエナが癇癪を起こしてしまう。


「ごめん、ごめんってシエナ。謝るから許してよ」


ルイは必死にシエナに謝る。すると、シエナが「全く仕方がないな」と言い許してくれた。意外とチョロい。

少し上から目線なのが気になるが、まあいいだろう。そんなことより───。


「っていうかシエナ。あの鉄の玉みたいなのはなんだ?あれ武器なのか?」


シエナに強いと言ったら怒ってしまうので、話を変えた。

これに関しても、ずっと気になっていたことだ。シエナが手に持っている鉄の玉であろうものから、あんな凄まじい斬撃が繰り広げられたのだ。

あの鉄の玉は一体なんなのであろうか。あの鉄の玉にはどのくらい魔力が込められているのだろうか。


「あぁね、これね、これは鋼の珠って言うの。どう?すごいでしょ?」


シエナの手のひらには、鉄の玉──鋼の珠が握られていた。

何の変哲もないものだ。一体、この玉にはどんな力が込められているのだろうか。すごく気になる。


「ダーーーメ、私の大切なものなんだから触っちゃダメ!」


鋼の珠をまじまじと見つけていると、取られるのでも思ったのだろうか、シエナが手を引っ込めて、鋼の珠をポケットの中へと入れてしまう。


「いやぁ、触ったりはしないけどさ、気になってね」


「気になるって?」


シエナが首を傾げて聞いてきたので、続けて──。


「そんな鉄の玉みたいなものが、こんな惨状を醸し出すのが気になってね。この鋼の珠っていうものにどれくらいの魔力が込められているのかとかを知りたくてね」


「へぇー。教えて欲しい?」


悪戯な瞳でこちらを見据えてくる。ルイは「うん」と返事をするが。


「ひ・み・つ!」


シエナはまたしても、一語一語をしっかりと強調して、そう答えてきた。

さっきもそうだ。崖から飛び降りた時、無傷で済んだのを知りたくて、シエナに聞いたが、教えて貰えなかった。

頭の中の疑問が増え続けて、モヤモヤが消せなくなっていると。


「いつかまた、機会があったら教えてあげてもいいんだよ」


「いつかね……一体いつになるのやら」


「いつだろうね」


そう笑いながら答えてくる。


「そうだな…いつかか、その時がきた時は絶対に教えてくれよ?」


「わかったよ!」


一体いつになるのだろうか。それは分からないが、気長に待っていようか。


いつか、答えを教えてくれる時まで。


血の海とかした惨状のど真ん中で、約束をした。






森の奥から、人影が見えた。

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