第一章2 『第47回サボサボ大作戦』
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俺の名前はルイ・ミラネス。現在は十七歳であり、兵士としての仕事を全うしている最中である。階級は最下級の二等兵だが、これなら一気に上がっていくつもりだ。
身長も、体重も、容姿も普通だ。いや、容姿はちょっとだけいい、いや、大分いい。いや、絶対いい。
そんな俺が、天から任せられた仕事とは、兵士の仕事をサボることだ。
そして今から、第四十七回サボサボ大作戦の実行に向けて、試行錯誤をしているところだ。
第四十七回サボサボ大作戦。これを成功させるためにはオーガスが圧倒的に邪魔だ。
とにかく、オーガスを何とかしなければならない。
奴の監視の目から外れるにはどうしたらいいものなのか。
まずオーガスの目を潰すことだ。目さえ潰せば流石に分からないだろう。
しかし、どうやってあいつの目を潰すのかが問題だ。
上手く風邪が吹いている時に、布を塔から落として、塔から落とされて風に乗った布が、運良くオーガスの目の部分に絡まって、視界を塞ぐ方法。
それか、オーガスの懐に上手く入り込んで、目潰しする方法。
ルイはそんなに頭が良くはないので、これぐらいしか思いつかない。
果たしてこれが可能なのだろうかと考えるが――。
「うん。絶対無理だな」
まず、風がひとつも吹いていない。風が吹いていなければこの方法は不可能だ。魔法を使って風を出してもいいのだが、街の中で魔法を使うのは禁止されているため不可能だ。
次に実力行使の方法だが、オーガスが相手では不可能そうだ。懐に入る前にズタズタにやられてしまう。
「なんせ俺、魔法兵なんだからなー」
ルイは魔法兵なのだ。剣士か魔法兵になるなの試験的なものがあったのだが、剣に関してはまるっきりダメであり、魔法に関してもあまり才能は無かったものの、魔法の方が才能があったので、魔法兵へとなったのだ。
対してオーガスは、剣も魔法も使える万能タイプだ。筋肉質な体型のやつは魔法は使えないというイメージがあったのだが、どうやらやつは違うらしい。ムカつく。
「やっぱり無理なのかな…」
絶対に諦めないと誓った後なのだが、既に諦めてしまいそうだ。ぼんやりと城外に広がる平原を見ていると。
「キャァァァァァァァァァァァァアアア!」
街の方から突然悲鳴が聞こえた。
慌てて後ろを振り返り、何が起こったのかを見ると、一人の女性が悲鳴をあげていて、近くにいた人達がその女性に注目する中、一人だけ素早くこの現場から去ろうとしている者がいた。
手には鞄らしいものを持っていた。
「ひったくりか!?」
「待てやおらァァァァァァァァ!」
そう言った直後。大声を出しながら、オーガスが壁から飛び降りて、とてつもない速さで、ひったくり犯であろう者を追いかけて行った。
「あいつ、終わったな」
相手があのオーガスだ。捕まったらどんな目に合わされるのだろうか。考えるだけで背筋が凍ってしまう。
「どうか、生きて帰って来いよ」
既に遠くの方でオーガスに捕まえられている犯人の背中を見ながら、そう口にする。
「さぁーてと。見張りの仕事を再開す─」
「いや…待てよ。」
ふと思った。オーガスは今近くにはいなく、ひったくり犯であろう人物のところにいる。それも、どこかに連れて行かれたのだろうか、さっきまでいた場所から姿は消えていた。
「こ…これって!」
再び、千載一遇のチャンスが訪れた。オーガスがいないのなら、絶対に成功する。
そう思ったら行動は早い。俺似せたカカシ(全然似てない)を設置し、勢いよく塔の階段を降りていって、ひったくり犯のように素早く、この現場から走り去り、大通りに沿って、街の中心部へと向かっていく。
大通りには人が沢山いるので、バレないだろう。恐らくバレたとしても上手く紛れ込めばいける。
早く城壁から離れようと、必死に走っていく。雑踏の中をくぐり抜けて、奥へと、奥へと走っていく。
そして、オーガスが追ってきていないかを確認するために、走りながら後ろ見ると。
「やった!成功だぁぁ!」
誰も追ってきてはいなかった。初めてサボサボ大作戦が成功した。感極まって、ぴょんぴょん跳ねながら走っていると。
「いってぇぇぇええ!」
正面、人にぶつかってしまったのだろうか。ルイは、後ろに倒れて尻もちをついてしまう。
「ご…ごめんなさい!」
感極まっていたせいで、全然前を見ていなかった。完全にルイが悪かったのですぐさま謝ると。
「おぉ!ルイじゃん!」
「え?」
突然名前を呼ばれて、上を見上げる。そこに立っていたのは、綺麗に整えてある灰色の髪を持ち、その下には、整った顔立ちと、スラッと細身の長身を携えているこの男。
リアム・ラーガイルだ。
リアムとの出会いは、訓練兵だった頃だ。
初めて出会った時は、容姿が良すぎて、凄く劣等感を感じていたが、話していくにつれ、劣等感は感じなくなっていった。
今はとても仲がいい同期だ。いや、友達だ。
「おぉ!リアムか!」
「っていうかルイ。何してんだよお前。見張りの仕事はどうしたんだよ?」
微笑を浮かべながら、疑問をぶつけてくる。それに対して、ルイは薄らとニヤケ顔を浮かべながら、
「へっ!そんなものは軽くサボってやったぜ!」
「へぇー、そうなんだ。それにしても、よくオーカズさんの監視の目から抜け出せたね、すごいじゃん」
サボサボ大作戦の件については、度々リアムに相談していたのだ。リアムに、色々とアドバイスを受けて、今まで作戦を実行してきたのだが、これまで成功しなかったのだ。
幾つもの策略を立てて、実行してきたが、いつもオーガスの方が、百枚ほど上手で、一切成功しなかった。決して、リアムが悪いという訳ではないが、
「あぁ、あいつのいない間にそそくさと逃げ出してやったからな」
「いない間って?どういうこと?」
当然の疑問が飛んできた。確かに、オーカズがいない間と言うと、オーガスが仕事を怠っているといった解釈にもならなくは無い。
ルイは、その疑問について、丁寧に説明する。
「なんかね、城壁の近くでひったくり事件が起こって、それでその犯人を捕まえるために、オーガスがどっか行ったんだよ。で、俺はその隙に逃げ出してきたわけさ」
本当にあれは、奇跡的な出来事だった。ひったくり犯に感謝しておこう。
「オーガスさんがひったくり犯を捕まえるために離れた隙に、抜け出してきたのか…」
リアムは、顎に手を当てて、しばらく考え込むような素振りを見せてから、こう言い放つ。
「なぁ、ルイ。いつも思ってたんだけどさ」
「ん?何?」
「ちゃんと考えてるのか知らないんだけど、サボった後ってどうするつもりなの?今はいいかもしれないけどさ」
「え?どういうこと?」
リアムの言っていることが理解できない。というか、脳が理解しないようにしている。
そんなことは気にせずに、リアムは続けて─── 、
「つまり、今日の夜どうすんの?今はいいからもしれないけど、夜になったら基地に帰らないと行けないじゃん。その時に、必然的にオーガスさんと出くわすと思うんだけど大丈夫なの?」
「ぇ?え?」
脳が、理解するのを拒絶していたが、次第に防御壁が崩れていき、一気に現実が流れ込んでくる。
「しまったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!考えていなかったあああああああああああああああああああああああああああ!」
今まで、サボることしか考えていなかったため、サボった後のことを考えていなかった。夜に、軍基地へ帰らなければならないのだが、その時に必然的にオーガスに遭遇してしまう。その時は───、
「俺…明日生きてるのかな?」
ルイの零した発言に、リアムが腹を抱えながら爆笑する。
「考えてないのかよ」
リアムが爆笑しているが、そんなことは気にもならない。ルイは現在、現実世界からの逃亡を図っている。
───やばい、やばい、やばい、終わった、終わった、終わった、死ぬ、死ぬ、死ぬ。
負の感情しか湧いて出てこない。これは非常にまずい。確実に、ルイ・ミラネスという存在は、明日には消え去っているだろう。
───無理、無理、無理、無理、助けて、助けて、助けて、助けて、神様。
そう心の中で、神様に救済を願うが、神は一切救いの手を差し伸べてくれない。
「──────あ」
地面に手を着き、絶望に打ちひしがれていたのだが、ルイの脳に、ある名案が思いついた。
「なぁ、リアム…」
「ん?なんだ?」
地面に手を着きながら、ルイは弱々しい声で、リアムの名前を呼ぶ。その呼び声に、リアムは微笑を浮かべながら反応する。
そしてルイは、パッと顔を上げて、こう言った。
「必殺!現実逃避!」
そう大声で言うと、ルイは勢いよく立ち上がった。
「え?現実逃避って?」
リアムは、ルイに疑問をぶつけてくる。それにルイは、出来るだけ現実に目を向けないようにして、
「おいリアム!一緒にサボりに行くぞ!」
ルイは、今を全力で楽しみ、後のことは何も考えないことを決意した。
もういい。後のことはどうにでもなれ。
「行くぞリアム!」
そう叫ぶと、ルイは強引にリアムの腕を引っ張り、雑踏を中を掻い潜って、街の中心部にへと走っていく。
「仕方がないな、わかったよ」
強引に連れて行かれているリアムも、渋々了承した。
ルイとリアムの二人は、街の中心部にへと走っていった。
これにて、第四十七回サボサボ大作戦成功?