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いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
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第一章23 『土壇場の知恵』


そう言捨てると、ディアナは再び雷光のような速度で魔獣を斬り刻んでいき、その場を蹂躙していく。

森中に飛び散る魔獣の死骸は、見るも無惨な姿にへと変貌しており、一切原型を留めていなかった。

四肢は当然のように斬られ、胴も八つ裂きにされている。

夥しい量の血と臓物が周囲にぶちまけられるが、ディアナは一切に気にも止めず、やがてルイたちを囲んでいた魔獣は全て死骸にへと変貌した。


「やっぱすげぇな…」


「だね…」


ルイとシエナは目の前に繰り広げられる惨状に、ただ呆然と眺めているだけだった。


「さて…どうしましょうかね」


ディアナは血の付着した長剣を眺めながら、魔獣の肉片の一部を踏み潰した。

踏み潰された肉片の一部は、やがてその場から消え失せて、ぶちまけられた血と臓物と一緒に、ある一箇所に集まっていく。

それはやがて、元の魔獣の姿にへと戻っていった。

それに続いて、他の魔獣たちも再生し、元の姿にへと戻った。


「復活しないまで殺すって言ったんですが、それだと永遠に終わらなさそうですね」


「確かに、こうやって直ぐ元に戻っちゃうもんね。キリがないよ」


例え何度も魔獣を殺したとしても、こうして直ぐに復活してくる訳なので、シエナの言う通りキリがない。

幸いにも、魔獣の強さは大したことないので、何とかなっている状況だが、現状ルイたちは圧倒的に不利だ。


「どうしましょうか…一回億斬りにしてみましょうか」


「怖いな!?」


言っていることは怖いが、ルイもそれが正しいと感じていた。

今までの魔獣の様子を見ると、恐らく一つでも肉片が残っていると体が再生していくのだと予想される。

故に、肉片を全て斬り刻んで存在ごと抹消してしまえばいい。

普通ならそのような事は不可能だが、ディアナなら出来るという謎の確信があった。


「こいつで試してみましょうか」


ディアナは一番近くにいた魔獣に標的を向けて剣を構えた。魔獣は二本の前足を用いてディアナを殺そうとするが、その攻撃が当たる前に───、


「─────」


正しくこれが億斬りだ。刹那の間に、魔獣の肉片は何一つ残らずに消滅した。

唯一残されたのは周囲に飛び散った血のみだ。肉片や臓物が微分子レベルに斬られおり、とても目では認識出来ない。


「す、すげぇ…」


「ディアナちゃん流石だね…」


そんな早すぎる剣術を見て、ルイとシエナは驚愕を隠せないままであり、思わず声が漏れてしまっていた。だが、こうなっても仕方がない。

ディアナは『剣術の天才』と言われているらしいが、それは今すぐ『剣術の神』と変更した方が良いだろう。

そんな剣術を用いて魔獣を目視出来ない程に斬り刻んだが───、


「無理でしたね…恐らくどれだけ小さくても体の一部さえ残っていれば再生するんでしょうね」


目視出来ないほどに斬られた肉片が集まっていき、やがて元の魔獣の体にへと再生していった。


「はぁ!?こんなんどうしろって言うんだよ。いつまで経っても殺せないだろこいつら」


魔獣が再生していくのを見て、ルイは無理難題を押し付けられた気分だった。どれだけ小さくとも、体の一部さえ残っていれば再生していくのなら、この魔獣を殺すのは不可能に近い。


「体の一部が残ったら駄目なんだったら、殺すんじゃなくて存在ごと消せばいいんじゃないかな?」


「そう簡単に言うけどそんなこと出きっこねぇよ」


確かに、魔獣の存在ごと消せば済む話なのだが、そんなこと出来るはずがない。故に、詰みの盤面と言ってもいい。


「どうしましょうかね…」


流石のディアナも為す術がなく、顎に手を当てながら懊悩していた。だが、魔獣は考えている暇も与えてくれず、再びルイたち目掛けて襲いかからんとしてくる。


「さっきからディアナちゃんばっかり戦ってるから、今度は私が戦う番だね。よし、任せておけ、こいつらぶっ飛ばしてやる!」


「お…おう頑張れ」


「と言うわけだから武器返して」


「え?あぁ、はい」


シエナは意気揚々と意気込みを語り、武器の返却を求めてきた。

握り心地が存外良く、手元から離したく無かったのだが、状況も状況なので、ルイは素直に鋼の剣を返却する事にした。


「よっしゃいくぞぉ。こいつらバラバラにしてやる!」


そんな捨て台詞を吐いた後、シエナは迫り来る魔獣目掛けて剣を振りかざした。

ディアナの剣術とまではいかないものの、シエナの剣術も素晴らしいものであり、鋼の剣を巧みに扱い、魔獣を死骸にへと変貌させていく。

ルイは半分で精一杯であったのにも関わらず、シエナは軽々しく魔獣の群れを薙ぎ倒していく。


「シエナもすげぇな…」


「ルイと違ってシエナちゃんはとても凄いんです」


「それは普通にシエナが凄いって言えばいいんじゃないですか?余計な言葉混じってません?」


「ルイの存在自体が余計なので黙っててください」


「酷いな!?」


自然の流れで悪口に変換された事に、思わずルイはそう叫んだ。


「ルイくんとディアナちゃんは魔獣をどうにかする方法を考えてくれない?」


シエナは戦闘中にも関わらず、魔獣の隙を見てこちらを振り向き、攻略に向けての案の提示を求めてくる。


「りょーかい」

「分かりました」


それに返事して、早速魔獣を存在を消すを考え始めるが、当然直ぐに出てくるはずもなく───、


「なんかいい考えある?」


「知りません。ルイは兵士なんでしょ?何とかしてください」


「なんでも兵士だからって言えばいいと思うなよ…」


何一つ考えが思い浮かばなかったので、ディアナに投げかけれみるが、ルイが全て考えろといった始末だ。


脳の棚を開け閉めして、存在を消す方法を模索しようとするが、やはり何も思いついてこない。


こうしてルイたちが考えている合間にも、シエナは魔獣と戦い続けている。

実力差は圧倒的であり、シエナは剣を振りかざして意図も容易く魔獣を斬り殺していくが、斬り殺された筈の魔獣は幾度も体を再生させていく。

シエナの体力は削られていく一方だ。早くルイたちが攻略法を考え出さねばならないのだが───、


「ほんと何も思いつかねぇ…」


「ほんと、使えない兵士ですね」


腕を組んでため息をつき、ディアナは心底呆れた様子でルイに嫌味を言い放つ。


「お前も考えろよ!?」


「うるさい、不快なんで黙っててくれません?ルイの声が不快なのでこっちも考えたくても考えれないんです」


「はぁ…分かったよ。ごめん」


透かさずルイは言い返したが、侮蔑を込めた返答が返ってきたので、ルイはディアナに考えさせる事を諦めた。


魔獣を相手に一人で戦うシエナは非常に心強く、魔獣がルイたちに接近する前に斬り殺してしまう。


「うおりゃぁぁ!」


戦場にはそぐわない声を出しながら、シエナは縦横無尽に剣を振りかざし、魔獣を斬殺していく。

正面から飛び掛ってくる魔獣を、シエナは剣を振り上げて真っ二つにする。続いて、左右から迫る魔獣を快く剣で受け入れ、目を斬り、足を斬り、胴を斬っていく。

剣術だけではなく格闘術を駆使し、魔獣を殴り倒し、蹴り殺していく。骨がひしゃげる音と魔獣の悲鳴が重なり、その場にひれ伏せていくが、直ぐに体が再生していき、再びシエナ目掛けて襲いかかろうとしてくる。


「まだ思いつかないの?」


「ごめん、何も思いつかないわ」


魔獣と戦っている最中、急かすようにそう投げかけてきたが、ルイは申し訳なさそうに返答すると───、


「もう疲れたぁぁぁぁ…」


剣を振り回し続けていたのもあり、シエナは疲労を重ね続けていた。振り方も大雑把となり、傷が浅く、一度で斬り殺せない魔獣も出てきた。


「シエナも限界か…よしディアナ変わってやれ」


「は?お前が変われよ」


「いや…その…俺だけだったら対処しきれないから…ね?」


軽い気持ちが発した言葉がディアナの逆鱗に触れ、真っ向から侮蔑を宿した眼光を浴びせられ、ルイは恐縮しながら言い分を伝えると───、


「本当に使えないですね。ただのお荷物じゃないですか」


「それに関しては本当に申し訳ございません」


こうして存在意義を求められると、ルイは謝るしか選択肢はない。力も劣り、知能も劣っているので、二人からすればただの足枷にしか思えないのだろう。

一応ルイは貴重とされている治癒魔法を使えるのだが、二人が強すぎる為、使う機会が一切無く、ルイの存在意義は無くなってしまっているのだ。


女性二人に任せっきりの事実に対して、ルイは自責の念に駆られていた。


「思いつけ、思いつけ、思いつけ───」


少しでも二人の役に立とうと、必死で頭を働かせるが、やはり何一つ思いついてこない。


「えぇ!?なんで生きてんの!?」


魔獣の足を四本斬り、夥しい量の血が流れ、出血多量で死亡したかと思われたが生きており、残った二本の足で、地面を這いつくばりながらも、背後からシエナを襲おうとしていた。

驚愕しながらも、シエナは背後からの奇襲に瞬時に対応し、魔獣の大きな目玉を突き刺してトドメを刺した。

だが、魔獣の脅威は収まらない。トドメを刺された魔獣は瞬時に再生していき、元通りの姿に戻った。


「──────あれ?」


そんな光景を眺めていたルイの頭の中に、ふと何かが薄らと浮かび上がってきた気がした。だが、その何かは非常に薄く、具現化するまでには到底至らない。


その薄い何かに希望を見出し、具現化させるために、ルイは全力で頭を張り巡らせた。



思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ。思いつけ───。



──────ぁ。



「シエナちゃんをあまり無理させる訳にはいきませんね」


魔獣との戦闘で疲労しているシエナの様子を見兼ねて、ディアナは加勢に行こうと、足を踏み出そうとするが、その直前に───、


「おいディアナ」


「はい?無駄話なら後にしてもらえますか?というか二度としないでもらえますか?」


自信に満ち溢れた声音で名前を呼ばれ、ディアナは目を細め、不愉快げにルイを見据えたが、尚もルイの心はへし折れなかった。

何故ならば───、


「思いついたぞ!殺しても復活する魔獣の倒し方を!」


漸く一つの可能性を導き出し、ルイは興奮を抑えきれなかったからである。


「で、なんですかその倒し方って言うのは」


「待て待て待て」


ディアナはルイの発言が戯言だと切り捨てずに、食いついてきたが、それをルイは手のひらを向けて牽制する。


「教えてやってもいいが、一つ条件がある」


「は?」


再度侮蔑を宿した眼光を浴びせられるが、ルイはそれを華麗に無視し、一歩詰め寄った。そして条件を叩きつける。


「おいディアナ!この案教えてあげたお礼に、今までの非礼全部詫び───」


ディアナに対する怒りの感情を胸に、ルイは怒り任せに言葉をまくし立てていたが、急に言葉を止めた。何故ならば───、


「───ずびばぜん……」


ディアナの長剣がルイの顎へ向けられていたからである。否、向けられているのではない。刺さっているというのが正確だ。

顎に浅く剣が突き刺さり、そこからじんわりと寒気が全身をよぎり、微々たる痛みが更に寒気を加速させる。

調子に乗ったつけが返ってきた。ルイは咄嗟に両手を上げて、全身全霊で謝罪すると───、


「早く話してください」


「はい…ありがとうございます」


一度ため息をついてから、突き立てた剣を地面に下げた。その事にルイは感謝を告げてから話し始めた。


「シエナが戦ってるのを傍から見て引っかかった部分があったんだけどさ」


魔獣を殺しても瞬時にに体は再生していき、無限に蘇ってくる。だが、シエナの戦闘を見て引っかかる部分があった。

先程、シエナは魔獣の足を四本斬り落としたが、魔獣はまだ生きており、再びシエナに襲いかかろうとする前に殺された。そして殺された魔獣は体を再生し始めて、やがて元通りの姿になった。


ルイが引っかかったのは魔獣の体が再生していくタイミングだ。魔獣はトドメを刺されてから体を再生し始めた。つまり───、


「こいつら、死んだら体が再生するんじゃないかってね」


今まで魔獣を瞬殺していたので気付かなかったが、先程の魔獣の様子を見る限り、魔獣は死んでから体を再生し始めた。

単なる偶然の可能性も低くはないが、ディアナはそれを聞くと、シエナの背後から襲いかかろうとしていた魔獣に近寄り───、


「試してみましょうか」


そう言うと同時に、ディアナは魔獣の前足二本を瞬時に切断した。

大量の血が噴き出し、前足の支えを無くした魔獣は、硬い地面に前から力なくして倒れた。後ろの四本足で何とか立ち上がろうとするが、前足が無いせいか、上手くバランスを取れずにいる。


「再生…しませんね」


前足を切断された魔獣の様子を暫く見てみるが、一向に前足を再生する気配がない。


「まだ可能性は低いな…」


これが偶然の出来事かもしれないので、早く確証を持ちたかった。なので───、


「シエナ!魔獣の殺さない程度にいたぶってくれ!」


「え?なんで?殺さないの?」


「いい考え思いついたんだ。その為にも一回試してみてほしいんだ」


絶賛魔獣と戦闘中のシエナに声を掛け、死なない程度に魔獣を痛ぶり、その経過を確かめたい念を伝えると───、


「よっしゃ!任せとけ!」


希望の糸が見えて嬉しかったのか、シエナはそう笑顔で返事すると、再び魔獣を斬り始めた。


「てりゃぁぁぁぁ!」


その剣術は繊細であり、確実に死には至らない程度の力で魔獣を斬っている。足を斬られ、目を突き刺され、体を滅多刺しにされているが、それでも魔獣は死に至らず、再び立ち上がろうとしている。

魔獣の体は再生していかず、瀕死の状態のまま戦闘を続けようとしていた。


「よしシエナ、どいつでもいいからトドメを刺せ!」


「あいよっ!」


元気よく返事すると同時に、近くにいた魔獣の胴を真っ二つにする。殻が破られたせいで、血と臓物がぶちまけられて、そのまま死に至った。そして肝心の結果は───、


「よし!ビンゴだ!」


トドメを刺された魔獣だけ体が再生していき、ルイの立てた仮説が確証に変わった。さの嬉しさが隠せず、ルイはガッツポーズをした。


「で、魔獣の体は死んでから再生していくと分かって、一体何をしようと言うんですか?」


その事実が分かったとこで、魔獣の脅威自体は消えない。故に、ディアナは疑問を投げかける。それを受け、ルイは淡々と説明し始めた。


「魔獣が脅威になるのってあれだろ?こんな鋭い足とか口を持ってくからだろ?だから口は無理だけどさ、足を全部斬ったら魔獣としての脅威は無くなるんじゃない?」


魔獣の脅威となる部分を排除してしまえば、それは脅威として機能しなくなる。

この魔獣の場合は、口は無理なので、六本の足さえ全部斬ってしまえば良い話なのだ。


「だけどそれあれじゃない?全部の足斬ったら出血多量で死ぬんじゃない?」


「そうですよね、死んでしまえば意味はありませんね」


戦闘を一時放棄してこちらに近寄り、シエナは口を挟むと、ディアナがそれに賛同する。確かに、足を全部斬ってしまうと、出血多量になり死んでしまう。

だが、ルイはその問題を解決出来る技を所持しているのだ。それは───、


「一応俺火魔法使えるんだよ。つまり、足の切断面を焼いて止血する─── 焼灼止血法が出来るんだよ」


焼灼止血法───出血面を焼くことによって止血する方法である。

火傷や苦痛などの影響を伴うので、人間に対しては絶対に行われない。だが、相手は魔獣あり、尚且つ耐久値が人間より高いであるからこそ、有効な手段なのだ。

耐久値が高いため、流石に永続とはいかないが、暫くの間は安心出来るだろう。

仮に、その止血が失敗したとしても、魔獣を殺して体を再生させればいい話だ。


「その方法で止血して、生きたまま魔獣の脅威を無くしてしまえばいいんだよ」


これがルイが思いついた無限に復活する魔獣に対しての打倒作だ。ルイは自信満々に概要を説明すると───、


「まぁ、ほんの少しだけは見直しました」


「冴えてるねぇ」


各々ルイの名案に賛同しているが、ディアナは余計な言葉を発してくる。本音としてはここで煽りたいのだが、ディアナ怒りを買って面倒臭い事になるので気持ちを抑えることにした。

それに対してシエナは、素直にルイの考えを褒めている。調子に乗りたいものだが、そんな事している暇はない。

シエナが戦闘を辞めた事により、再生した魔獣が周囲を囲み、ジリジリとルイたちに詰め寄って来ている。


「──────ッッ」


刹那、魔獣が咆哮し、ルイたち目掛けて襲いかかろとしてくる。それが開戦の合図だ。


「魔獣の足だけ斬ってくれ!俺は頑張って魔法撃ちまくって止血するから!」


戦闘自体は二人に全部任せて、ルイは止血することに専念する。号令を受けた二人は、各々剣を構えて魔獣に突進していく。

シエナとディアナが共闘すると、魔獣の脅威は微塵も感じられなく、安心感が溢れている。


ルイは全ての足を失い、地面にひれ伏した魔獣の傍に近寄り、足の切断面に向けて火魔法をぶつける。



「フレム・ロート」


そう詠唱したと同時に、手のひらから炎が吹き出し、出血面を炎で焼き付くし、やがて凝固作用により、切断面から溢れ出ている血が止血される。


「よっしゃ!」


止血が成功した事に喜ぶが、まだ安心してはならない。残った足の切断面を爆速で止血しなければならない。なので───、


「フレム・ロート」


再び詠唱を口にすると、炎が切断面を焼き付くし、溢れ出す血が凝固され、止血される。ここからは体力勝負だ。


「フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!」


そう全力で詠唱し続けて、やがて魔獣の足の切断面から溢れ出している血が全て止血される。

魔獣の足を全て止血しきり、一旦傍を離れて様子を見てみる。


「───成功だ」


足を全て失った魔獣は止血された事により、出血多量で死ぬ事が出来ず、その場で停止していた。

足を失った魔獣の見た目は非常にグロテスクだが、気にしている暇はない。

早く次の魔獣を止血しに行かなけれならないので、次なる魔獣を求めてルイは周囲を見渡すと───、


「───早すぎないっすか…?」


「ルイくん早くしてー!復活しちゃうよー!」


「遅すぎます。早くしてください」


周囲にいる魔獣の足は全て二人の手によって切断されており、完全に止血待ちの状態だった。


「そっちが早すぎるんだよ!?」


大声でディアナに言い返しながら、ルイは近くにいる魔獣の止血を開始する。

だが、止血している合間にも他の魔獣の体からは血が溢れだしており───、


「ルイくんもう再生し始めちゃったよ?早くしてよね!」


止血が遅れているせいで、出血多量により魔獣は次々と死んでいっており、体を再生し始めていた。

既に何体かの魔獣は完全に再生しており、再びシエナやディアナに襲いかかろうとするが、瞬時に足を斬られて地面にひれ伏せてしまう。


「早くしてー!」


「ちょっ!待て待て待て待て待て!だから早すぎるんだって!」


そうシエナが急かしてくるが、既にルイの手は埋まっている。

急いでいるつもりなのだが、シエナ達は何倍もそれを上回っている。その事について不満を口にするが───、


「ルイが遅い。これ以上私達に無駄な労力を押し付けないでください」


「はい」


身の毛もよだつ鋭い眼光を浴びせられ、ルイは本能に従って、ディアナの言うことを素直に聞くことにした。


「フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!フレム・ロート!」


焦燥感に駆られて、ルイは全力で詠唱し続けるが、次から次へと魔獣がやってくるので、手紙追いつかない。


「ルイくん早くー!」


「遅すぎます!早くしてください。のろまですか?」


そう二人に急かされ続けて、終いにはディアナに罵声を浴びせられる。ルイは涙目になりながらも詠唱し続けた。

そして魔獣を止血し続けて、そして───。


「はぁ…はぁ…はぁ…………」


ルイは息を荒らげて、地面に手を着いていた。周囲には止血された魔獣が地面に倒れており、ルイはその真ん中にいた。


「いやぁ…やっと終わったねぇ…」


「ほんとですね、ルイが私たちに無駄に労力を押し付けたせいで苦労しましたよ」


「ごめんって…」


言い返す気力も無く、ルイは小さな声で謝罪を口にしてから立ち上がり、額に滲む汗を腕で拭った。そして肩を落としてから、一息ついた。


「にしてもほんとこいつらなんなんでしょうね。殺しても復活する魔獣なんて今まで見たことも聞いたこともないですよ」


「だよね、私も聞いたことないよ」


通常生命は一度死すと蘇ることはまず有り得ない。だが、この魔獣は死しても尚、何度も蘇ってきたのだ。異変と言う他に何があるのだろう。


「何か分からないけどとりあえず異変が起きてるってことだよね」


「異変が起きてるのは間違いないですが、シエナちゃんが考える必要はないですよ」


シエナは顎に手を当てて、魔獣の異変について考え込むが、ディアナがそれを辞めさせる。


「今回の魔獣の異変についてはこちらで色々対処するので大丈夫です」


シエナに微笑みを見せてからディアナは「ですので」と言葉を紡ぎ───、


「安心してください。それより、既にリーカナ行きへの馬車は用意していますので、そっちを優先した方がいいんじゃないですか?」


「そうだね、そっちの方がいいね」


「だな」


出発が遅れている為、そちらを急ぐようにディアナは言う。それにシエナとルイは共に共感する。


「そう、シエナちゃん付き合ってくれてありがとうございまいました。それに無理言ってすいませんでした」


ディアナはシエナに軽く頭を下げて敬礼すると同時に謝罪も行った。シエナはここに来る必要はなく、ほぼ半強制的に連れてこられたのだ。

その事について謝罪すると、シエナは徐々に笑みを浮かべて───、


「大丈夫だよ。最終的に行くって決めたのは私だし。それに、ディアナちゃんのお願いなんだから全然大丈夫だよ」


そう優しい声で謝罪を突っぱねた。それにディアナは再度「ありがとうございまいます」と感謝を述べてから───、


「では、馬車の用意も出来てますので早く街へ戻りましょうか」


「おう!」


そう言いながらディアナは背を向けて街の方法へと進み出した。それに元気よく返事してシエナも後を着いていったので、ルイも後を着いていく。


「いやぁ、疲れたからどっか屋台行きたいなぁ」


「分かりました。いくらでも買ってあげますよ」


「やったぁ、ありがとう!」


「いえいえ」


そんなたわいもない話がされている中、ルイはチラリを後ろを振り返った。


「──────」


今回の魔獣の異変に、ルイは違和感を覚えていた。そしてこう思った。何かが狂い始めていると。

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