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いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
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第一章20 『魂』


───ステラテアの森。


その森は、ルイとシエナが転移してきた森の名前だ。この森から抜け出すべく、ルイたちは崖の上のから見えたサントエレシアに向かった。その際、大量の魔獣達に襲われたのだ。


だが、魔獣達は襲った相手を見誤ってしまい、見事シエナの活躍によって、跡形も無く蹂躙されていったのだ。

森をも容易く破壊する攻撃を受けた魔獣達が死んでいく姿を、ルイはこの目で見たのだ。

だが、ディアナは魔獣が再度出現したと言ったのだ。


「あの六本足の魔獣なら、シエナが全員殺したと思うんだけど…?」


森の中でルイたちを襲った大きな目玉を持つ六本足の魔獣。そんな気持ち悪い魔獣だったが、シエナが一掃したはずだが────、


「はい、シエナちゃんが全員殺したはずなんですが…まだ生き残りがいたのかもしれません」


「───生き残りか…」


シエナが魔獣達を一掃したようにも見えたが、どうやら生き残りがいたらしい。そもそも、ルイたちを襲った魔獣が全員だという確証もない。

まだ他にも魔獣がいたのかもしれない。


「ごめんね、私がちゃんとしておけばのに…」


「いえ、シエナちゃんのせいじゃありません。私が綿密に確認しなかったのが問題です。謝らないでください」


自責の念に駆られたシエナが謝罪するが、ディアナはすぐさまその謝罪を否定し、自分が悪いのだと言った。

魔獣に襲われそうになったので、その魔獣を殺しただけだ。

シエナは決して悪くない。その後のことは考える必要もなく、自分を責めるのは筋違いだ。


ディアナもそうだ。あの惨状の周りには魔獣の気配が無かった。誰しもが魔獣を殲滅したと思ってしまうだろう。ルイもそうだったので、あまり自分を責めるのはやめてほしい。


「なぁ…その襲われた人って生きてるのか?」


ディアナは焦燥感をを隠し切れていないまま、領民が襲われたと言ったが、その領民の安否が心配だ。

誰しもが魔獣と対抗出来る力を持ち合わせている訳では無い。

最悪その領民が重症、もしくは死亡した可能性もあり、ルイは不安に思うが───、


「はい、大丈夫です。多少の怪我を負っているそうですが、全員命に別状はないそうです」


「全員って複数人いるのか?」


ディアナの発言に引っかかる部分があったので口を挟んだ。どうやら、魔獣に襲われたのは複数人いるらしい。


「はい、私兵を含めた五名です。多少の怪我は負ったものの、全員命には別状ないので良かったです」


「そうか…なら良かった」


ディアナのそこ言葉にルイは胸に手を当てて、一安心する。

これ以上人間が無慈悲に殺されるのは二度と見たくも聞きたくもない。

リーカナ襲撃のこともあり、ルイの心には死に対しての恐怖心が深く刻まれていた。


「ねぇ、なんでその襲われた人は森の中に入ったの?」


シエナと言う通り、ルイもその襲われた領民が、何故魔獣が蔓延る危険な森の中に足を踏み込んだのかが分からない。

あの森に入ると言うことは、自ら死ににいっているのと同じな気がするが。


「ステラテアの森には、ハルミナの花という薬草があるんです」


「ハルミナの花…?」


「あーね、分かるよ」


聞いたことがない薬草の名前に、ルイは首を傾げたが、そんな様子とは正反対に、シエナは理解出来たようで、相槌を打っていた。


「なんだハルミナの花って?」


ディアナは薬草だと言ったが、ルイはそんな医療の知識は微塵もないので、花の詳細を知っているらしいシエナに訊いた。


「ハルミナの花ってね、簡単に言うと病気を治す薬草なんだよ。すんごい貴重な薬草なんだよ」


「あの森の中にそんな貴重な薬草があるんだな…」


確かに、貴重な薬草があるというのならば、危険な森に足を踏み込んだ理由も納得出来る。


「───ですが、あの森には大量の魔獣が蔓延っています。私や私兵達が時折狩りに行っているのですが、無限に湧いて出てくるのでキリがないんです」


「魔獣か…」


魔獣とは、魔女の同様に世界から恐れられている存在であり、魔獣による人的被害も多発している。

そのため、帝国は軍を率いて日々魔獣と争いを続けているのだ。

だが、未だ殲滅には至らなく、無限に湧いて出てくるのが難点だ。

魔獣の正体が一体なんなのかも分かっていない。魔女が作り出した存在とも言われているらしいが、真実は不明だ。


「とにかく、森の中には魔獣が再出現しています。私兵に行かせるのも手ですが、他に負傷者も増やしたくはないので…シエナちゃん一緒に来て貰えますか?」


「えっ?私?」


ディアナは少し言葉を詰まらせてから、シエナに同行を願った。それを受けて、シエナは非常に驚いた様子で自分を指さしていた。

確かに、シエナを選択するのは正解と言えるだろう。何故ならば、シエナは魔獣に襲われた際、一切負傷することなく容易に魔獣を蹂躙していったのだ。


そんな強力な力を持ったシエナと同行するのは最適な案だが、ディアナはこれ以上負傷者を増やしたくないと言っていた。

幾らシエナが強いと言えども、魔獣が蔓延っている森に入る以上、シエナの身に危険が生じる可能性が高い。

なので、ディアナの言う負傷者を増やしたくない願いと反する形となってしまうが───、


「シエナちゃんなら絶対に大丈夫です」


ディアナは膨大な信頼感をシエナに浴びせた。そんな信頼を受けたシエナは、胸を手で叩いて、見るからに自信に満ちた様子で───、


「まあまあまあ、このシエナちゃんに任せてごらんあれ」


ディアナの信頼を受けたシエナは、案の定調子に乗ってしまった。だが、仮にルイが同じ立場なのならば、シエナと同じく調子に乗ってしまうだろう。相手が誰であろうと、頼られることは嬉しいことに違いない。


というか、そもそも何故ディアナがシエナに対して、こんなにも膨大な信頼感を寄せているのかが不明だ。

シエナとディアナと初めて会ったのはほんの一日前だ。なのにも関わらず、シエナとディアナの仲は深まり過ぎている。

何故こんな短時間で容易に信頼を預けるようになっているのか。理解するのは到底不可能だろう。


ここでふと思った。ルイとシエナとの関係性もほとんど同じだ。

ディアナと同じく、シエナとは一日前に初対面したばかりだ。それなのに、最初からシエナと気楽に話せており、信頼も預けていたりするのだ。

ただ単にシエナの性格が明るいと言うだけで、ここまでの関係性になるとは思えない。実に謎だ。シエナは異質の存在であるとしか言いようがない。


「本当は今頃街を出発している頃だと思うんだけど…色々と巻き込んじゃてごめんね。シエナちゃんありがとうね」


ディアナは非常に申し訳なさそうにしながら謝罪しつつ、シエナに心からの感謝の気持ちを伝えた。

ディアナ言う通り、サントエレシア領に転移してから、魔獣の件だったり、誘拐事件の件だったり、色々な出来事に巻き込まれてきた。だが───、


「そんな謝らなくていいんだよ?こっちも色々恩を受けてるからね。これぐらいのことだったらへっちゃらだよ」


そんなに謝られても困るだけだ。何にせ、ルイたちがディアナに受けている恩の方が大きいのだ。

突然現れた見知らぬ相手に、衣食住を提供したり、帰る用の馬車まで用意してくれているのだ。なので、この位の願いなどは許容出来るというか、こちらから申し出てもいいものだ。


シエナは柔らかな微笑みを顔に浮かべながら、ディアナの願いを了承した。それを受けて、ディアナは「ありがとう」と再度シエナに感謝の気持ちを伝えた。


「じゃあ決まりですね。シエナちゃん、部屋に戻ってすぐに身支度をして貰えませんか?」


「おう、任せておけ!パパっと終わらせるからね」


「ありがとうございます」


そんな諸々の話し合いを経て、シエナが同行することに決定された───。


「えっ!?俺は?」


森の中にシエナが同行することに決定したが、ルイの存在が忘れられているような気がして、思わず口を出してしまった。

魔獣が蔓延る森の中に自ら突入するという行為は自殺行為にも等しい。

だが───、


「俺の存在忘れてない?」


全く話の話題に出されなかったことに、ルイは存在を忘れられているのでは無いかと錯覚してしまう。

なので、これを張り上げて、指を顔に向けて必死に自分の存在をアピールする。


「はい、戦力にならないので一存在として認識していませんでした」


「酷すぎない!?」


これが言葉の暴力───否、言葉の殺人だ。軽く言われた言葉だが、ルイの心には深い傷が刻まれた。まるで、直接心臓を刺されたみたいに。


「ただ事実を述べただけです。もしルイの心が傷付いたのなら自分の無力さをしっかりと自負して修行でもしてください。というかなんですか、ルイって本当に兵士なんですか?兵士にしては弱すぎないですか?辞めた方がいいですよ?」


「はい、ずみまぜん……」


直接心臓を刺されたと言ったが、今回のは心臓ほどではなかった。

殺人というものは、対象の魂の拠り所を無くすと言うことだ。そうすれば、ルイの肉体に宿っていた魂は行き場所を無くし、やがて天にへと浄化されていく。


そう、本来は肉体が対象とされるが、今回は魂を対象とされている。

魂を直接ズタズタに切り刻まれ、等々ルイ・ミラネスという存在はこの世に必要ないのではないかと思えてきてしまった。


「まあまあ、ディアナちゃん。ルイくんは治癒魔法使えるんだから一緒に来てくれた方が助かるんじゃない?だからね?ほら?ルイくんは戦力って言うかね?まぁ、そんな感じたがらね?必要じゃないかな?」


シエナがディアナに必死の説得するのと同時に、ルイの心を励ますが、その励ましはルイの心には響かなかった。逆に、その励ましの言葉が侮辱のようにも聞こえてくるようになってしまった。


「そうですか…シエナちゃんがそう言うなら分かりました。ルイも同行させることにしましょう」


「はい…ありがとうございます」


ルイは震えに震えきった声で、森の中にへの同行を許可されたことに感謝する。

自分でも何がしたいのか分からなくなってきた。魔獣が蔓延る危険な森には、絶対に行きたくないというのが本音なのだが、何故か同行を許可されたディアナに感謝を伝えてしまった。

何がなんだか分からないが、とにかく良かった。


「じゃあルイ、部屋に戻ってとっとと準備してきてください」


「はい、分かりました」


というわけで、ルイも同行することになってしまった。

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