表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
2/35

第一章1 『サボり魔』

文字数 2982→3708


とりあえず新しく出来た3話分だけ再投稿しときます


「あぁーあ…今日もだるいな。」


そんな愚痴を吐きながら、城壁塔から、目の前に広がっている無駄にだだっ広い草原を眺めていた。

西の方から微かに吹くそよ風が、草原に広がる草木を靡いている。


ボーッと草原を眺めていると、街の方から子供たちの笑い声が聞こえてきた。

後ろを振り向いて、塔の上から街を見下ろすと、子供たちが追いかけっこをしているようだった。

とても楽しそうにはしゃいでいて、羨ましいと思えた。


「それに比べて俺はというと…」


情けないといったらそうではないが、不遇というかなんと言うか。

子供たちが楽しくはしゃいでいるのに対して、自分はというと、先程から何も考えないでずっと、無の感情に浸りながら、何もない草原を眺めていた。


「それにしてもいい街だな…」


遊んでいる子供たちから目を離し、更に街の奥へと目をやる。

ここ、テレミア帝国の西南にある、七大都市の一つ、城郭都市リーカナは、人口約三十万人の大都市である。

街の建物は、一つ一つが繊細な作りであり、異常に煌びやかであり、ずっと眺めていても全然飽きない。


都市の中心には、六角形に広がる広場があり、真ん中には大きな噴水があり、その広場から、大通りが六方向に広がっている。

そして、広場の近くには大きな建物が建てられている。


あれがテレミア軍基地だ。いつもあそこで寝泊まりしている。

正直、あの建物には嫌な思い出しかない。毎日地獄の雑用ばかりさせられている。

本当に自分が不遇で仕方がないと思う。誰か優遇に扱ってくれ。


「それにしてもあれだな……綺麗だ」


街を眺めていると、無意識にそんな言葉が零れてしまうほどに綺麗な街だ。

今すぐにでも、この場から飛び出して、街に遊びに行きたいのが本音なのだが、それは出来ない。


何故かと言うと、今は衛兵の仕事の真っ最中であるからである。

衛兵とは、街の安全を守る仕事であり、今は城外から、何者かがこの都市に襲撃してこないのかを見張っているところだ。

外から何者かが襲撃してこないのかを見張る。

極めて重要な仕事だとは思うのだが──。


「―――暇すぎる」


そう、暇すぎるのだ。

ルイは昔から落ち着きがないと言われていた。自分ではそうだと思わないのだが、今まで色んな人に言われたので、まあそうなのだろう。

とにかく、自分は落ち着きがないようなので、ただ無駄にだだっ広い草原を見るだけの仕事は非常に退屈だ。

毎日辛い中、何とか耐えている日々だ。


「あーあ。巡回の仕事やりたかったなぁ」


リーカナに配属された時、自分の役職である新兵は、各々役目を与えられたのだが、その時ルイは、城外の見張りの仕事を任せられた。


最初、見張りの仕事は、ただ城外を眺めているだけの楽な仕事だと認識していた。

まあ、あってはいるのだが、見張るだけなので、仕事自体は楽なのだが、暇すぎて辛いのだ。

仕事はある程度、忙しい方がいいのかもしれない。


「はぁ…早くやめてぇよ…」


そもそも、ルイが帝国兵になった理由は、自分ならいけるであろうという、軽い理由が発端だ。

小さい頃から、帝国兵に憧れていた部分もある。そんな、軽い理由で兵士になってしまったのが、今の現状だ。

今すぐにでも帝国兵をやめて、地元の村でのびのびと暮らしていたい。

だが、帝国兵は最低三年経過するまで、やめなれないのだ。こんな規則を作った人物を呪いたい。

兵士になって本当に後悔した。選択は慎重にせねばと深々に感じた。


「はぁ…暇だ…」


退屈のあまり、溜息をつき、下を俯く。

とにかく暇すぎる。暇すぎて辛い。暇すぎてどうにかなってしまいそうだ。



なので―――



「よし!」


右手を高らかに天に上げて、決意する。


「第四十六回!サボサボ大作戦を開始する!」


サボサボ大作戦。簡単に内容を説明すると、見張りの仕事を放棄して、街へ遊びに行くことだ。

まずは、自分の身代わりとなるカカシを城外側に向け、いかにもしっかり仕事をしている感じの雰囲気を醸し出す。

そして、こっそり塔の階段を駆け下りて、街の中心部へと爆速で向かうという作戦である。


一見簡単そうに見えるこの作戦だが、実は、一回も成功したことがない。今のところ四十五連敗中だ。


なぜこんなに連敗を続けているのかというと―――


塔から壁の上を見下ろすと、そこには自分の他にも見張りの兵がいるが、中でも比較的特徴的なあの男。

無駄に筋肉がついており、目つきが悪く、頭から毛が消し飛んでいるあの男。オーガス・アリンガムだ。

奴がこの作戦の関門となる男だ。


ルイが仕事をサボろうとすると、やつは必ずルイの行動をすぐさま察知して、仕事をサボろうとするのを阻止してくる。


城外ではなく、俺を見張っているのではないだろうかとも思えるほどだ。


「今はあいつは…」


寝ていてくれたらいいなという微かな希望を抱きつつ、オーガスの様子を伺う。

すると───、


「も…も…もしかして!?」


オーガスは立ちながら顔を俯けていた。

しばらく様子を伺ってみるが、顔を一向に上げない。もしかしたら、立ったまま寝ているのではないのだろうか。立ったまま寝れるのかどうかは知らないが、悩んでいる暇はない。


「よし、チャンスだ!」


千載一遇のチャンスだ。すぐさま自分に似せたカカシ(全然似てない)を設置し、塔を降りようとすると――。


「おい!お前!」


いきなり後ろから怒号を浴びせられ、体が硬直してしまう。恐る恐る後ろを振り向くと、鬼の形相をしたオーガスがいた。


「ば…ば…化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」


「違ぇよ!人間じゃ!ボケぇぇぇぇ!」


怒号を浴びせられながら、ルイの頭上に向けて、正義の鉄槌が、勢いよく振り落とされる。


「うぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」


正義の鉄槌をモロに受けてしまい、あまりの痛さに地面に倒れてしまう。頭を必死に抑えながら、情けない声で唸っていると、胸ぐらを掴まれ、強制的に立ち上がらされる。


「ルイ!てめぇ何サボろうとしてんだこの野郎!」


胸ぐらを掴まれたまま引き寄せられ、オーガスの大きい顔面が、間近に迫る。

オーガスの息が吹きかかってしまうほどの距離だ。そんな距離から鬼のような形相で睨まれる。否、鬼だ。

その瞳には、殺意の意思が宿っている。それがあまりにも恐ろしくて。


「す…す…すいませんでした!」


思わず謝ってしまう。本当は謝りたくは無かったのだが、脳が強制的に命令してくるので、仕方がなく。


「すいませんじゃねぇだろこの野郎!何回目だ!」


「四十六回目です。」


小さく震えた声でそう言った。

なぜ声が震えているのだろう。決して、オーガスが怖いというわけではないのに、なぜ。


「四十六回もサボろうとしやがってこの野郎!」


「ご…ごめんなさい!もうしません!」


「嘘つけ!それ言うのも何回目だこの野郎!前も言ったよな?なんなら前の前も言ったよな?なんなら前の前の前も言ったよな?なんなら前の前の前の――」


胸ぐらを前後に力いっぱい揺らされる。オーガスの顔には太い血管が無数に浮き出でいた。


───これは、マジでマズい。


「あぁぁぁぁぁ!分かりました!分かりましたから!もうほんとに!ほんとに!金輪際サボることは辞めます!今後からはしっかりと衛兵としての責務をまっとうします!本当にすみませんでした!」


流石にこれはマズいと思い、必死に謝り続けているとオーガスは「チッ」と舌打ちをして。


「てめぇ次はねぇからな。次もしサボろうとしたら叩きのめしてやるからな。」


低く冷たい声でそう言い放つと、ずっと力強く胸ぐらを掴んでいた手を外して、塔の階段へと降りていった。


「あぁ…危なかった。」


危機的状況から逃れ、安堵し、ため息を着く。流石に今回はマズかった。否、毎回マズいのだが。


「あんなに血管って浮き出るものなんだな」


何回もオーガスを怒らせているのだが、今回のは特別凄かったと思う。

オーガスの大きな顔と、丸太のように太い腕には、太い血管が無数に浮き出ていた。

オーガスに怒られることは何回もあるのだが、あんなにも血管が浮き出ていたことはなかったと思う。

もし、あのままオーガスが怒り続けていたのなら、血管がはち切れていたのではないかと思う。


オーガスの怒りパラメーターが、ほぼMAXになっているであろう今、もし次サボろうとしたら、一体どうなってしまうのだろう。

先程、オーガスは「次サボろうとしたら叩きのめす」と言っていたが、叩きのめすどころではないのだろ。恐らく殺されてしまう。


オーガスに殺されてしまうのだけはごめんだ。死ぬんだったら、美女たちに囲まれたまま死にたい。そんな願いを達成するにはここで死ぬ訳にはいかないのだ。


だから、金輪際サボることは辞めようと思う。このまま真面目に仕事を全うして、ちゃんとした兵士になり、昇格を重ねて、最高位の大将となり、地位と名誉を獲得し、たくさんの美女たちに囲まれて──────。


「そんなわけねぇだろ。」


「こんなところで!俺は絶対に諦めない!俺は俺の責務を全うするのだ!」


何としてもオーガスの目から逃れて仕事をサボる。それがルイに課せられた兵士としての責務なのだ。

だから絶対に諦めない。何としても、からなず成功される。というわけなので。


「第47回!サボサボ大作戦を開始する!」


そう高らかに宣言したのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ