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いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
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第一章17 『お礼』

タイトルが思いつかない( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )

途中誤字脱字があるかもしれません。


「あー、気持ちよかったぁ、ほんと最高だった」


先程風呂場に入ったルイだったが、丁度お風呂にはシエナとディアナの二人が入ってたようで、入れなかったのだ。


あの後、ルイは部屋に戻って、シエナたちが風呂から上がってくるのを待っていた。そしてしばらくすると、扉がノックされ、風呂から出たと報告が入ったので、早速風呂場に向かった。


風呂場の中は、案の定無駄に広い作りとなっており、風呂場の真ん中には、まるで池のような広さの浴槽があり、そこから発せされる湯気が、視界を真っ白に染めていた。

内装は白一色で染められているため、落ち着いた雰囲気を醸し出している。最初は黄金を想像したのだが、それだと派手すぎて落ち着いていられないと思うので、白が一番合っていると感じた。


風呂場の中は、浴槽を中心にして、何本もの柱が立っており、風呂場の壁には、様々な彫刻が飾られていた。飾られていた彫刻は、素人目から見ても、とんでもない技術で作られたのであろうと感じさせる。


一度シャワーで体を洗い、浴槽の中に入る。湯が熱かったので、最初に足を入れてから、ゆっくりと体をお湯に沈める。

湯の中に入ると、ルイの身体は程よい温かさに包まれて、次第にその温かさは身体の内部にまで染み渡る。ルイの身体に積もりに積もった疲労が、全て浄化されていくような感覚がして、非常に気持ちが良かった。


しばらく風呂を堪能したあと、適当に髪を拭いて、自室にへと戻ったというのが、先程までの出来事だ。


現在ルイは、ベットに横になりながら、感慨に浸っている最中だ。


「それにしてもこのベットも、やっぱり最高だなぁ、もう一生ここで乞食になってたい」


ふかふかのベットに体を預けながら、そう呟いた。豪華な室内、豪華な料理、なんでも揃っているこの屋敷で、乞食として一生怠惰に過ごしていたい。そんなことは夢のまた夢なのだが、


「すみませんルイ、入ってもよろしいでしょうか?」


突然扉がノックされ、部屋の入室の許可を求められる。この声の正体はディアナのものだろう。


「無理ー!」


ルイは軽い冗談を言ったつもりなのだが、部屋の扉を開いてきたディアナの手には、何故か長剣が持たれており、冷たい眼差しでこちらを見据えていた。


「ナ…なんのつもリでありマしょうカ…ディアナ様」


何故ディアナが剣を抜いているのか、恐る恐る尋ねてみるとら


「いえ…ただルイの八つ裂きにしておこうかなって思っただけです」


淡々とした口調でそう答えた。平気で恐ろしい発言をするディアナに、心底戦慄する。

そのまま、ルイに向かって歩み寄ってくる。


「エ……ちょ…ディアナさん…?一体どうされたんですか…?」


ベットから飛び起きて、ディアナを見張り、心情を問うが、完全に無視されてしまう。

そして、等々にルイの目の前にへと辿り着く。


「え……ちょ……どういうおつもりなんですか?」


ルイの上目遣いに、ディアナの冷たい眼差しが答える。そして、片手に持っている長剣が振り上げられる。


「ちょっ!ちょ…ディアナ様すみません、申し訳ございません!許してください!命だけはーー!」


ルイの必死の命乞いも、ディアナの耳には入らずに、そのまま振りかざされた長剣が、ルイを八つ裂きにせんと振り下ろされて────、


ルイに向かって長剣が振り下ろされたと思い、目を瞑りながら手を前に突き出して、痛みから身を守ろうとしたが、いくらたっても痛みはやってこなかった。

恐る恐るルイは目を見開くと、振り下ろされた剣が、ルイの顔寸前で止められていた。


「ひっ─────」


そんな怯えたルイの反応に、ディアナは鼻を鳴らしてから、


「ん?一体どうしたんですか。これはほんの冗談ではありませんか。本気にしないでもらえますか?」


「冗談でもこんなことすんじゃねぇよ…怖すぎるだろ…」


冗談と言えどもやって良い事と悪い事がある。今までルイのやってきたことは、ディアナを少々からかうと言ったものであって、そんな度を越したことは行っていない。それに対してディアナは───、


「今までルイがやってきた分のお返しです。悪いことをしたら自分に返ってくるってやつです。ちゃんと反省してくださいね」


ここでやっとディアナは剣を手に戻して、腰に下げている鞘に剣を収めた。


「今までやってきた分のお返しって…デカすぎるだろ、十倍ぐらいで返ってきてる気がするんですが」


「物事の捉え方は人によって違います。私にとっては、これでも結構妥協した方なんですよ?」


「妥協したって…最初は何する予定だったんだよ」


「ルイを全裸にして手錠を付けて、街中を歩かせて、住民達にその醜態を見せつけてやろうと思ったんですが、色々妥協してこうなりました」


「ひぇっ…」


想像の百倍以上の答えに、ルイは思わず戦慄してしまう。もしディアナが妥協していなかったら、ルイのメンタルは崩壊していたところだった。それにしても────、


「あの…ディアナさん。なんで妥協なさったんでしょうか」


何故ディアナがルイに対して妥協したのが謎だ。短い付き合いだが、今まで見てきた感じ、ディアナは何事にも一切妥協しないタイプだと思うのだが。


「私は一切妥協するつもりはなかったんですが、シエナちゃんがもうちょっと妥協してあげてもいいんじゃないって言ったので妥協してあげました」


「シエナが…?」


「はい、シエナちゃんのおかけで、こうしてルイは公開処刑にならなくて済んでるんですよ。なのでシエナちゃんには一生頭が上がりませんね」


シエナが説得してくれたおかげで、こうしてルイは普通に過ごしていられているのだとディアナは言った。

ならば、シエナには感謝しかない。今までのシエナの行いは、これで無しにしてやろう。ルイの心情の変化が激しいような気がするが、今はどうでもいい。とりあえず、シエナには感謝しなければいけない。


「そうですね、しっかり感謝してもらわないと困りますねぇ〜」


「ん?」


ルイが心の中でシエナに感謝の言葉を送ろうと決意していると、扉の方から声が聞こえてきた。ルイは声が聞こえてきた扉の方を見るとそこには───、


「あ…シエナさんでしたか」


シエナは鼻を高くして、腕を組みながら扉の前に佇んでいた。何故か、シエナはニヤつき顔になっていた。

そのまま、ルイの方にへとゆっくり歩み寄りながら、


「いやぁ〜にしてもねぇ、私ってルイくんにものすごい感謝されることをしたと思うんだけどぉ〜」


足音を大きく立てて、ルイに言い聞かせるように、一語一句全てを強調しながら言葉を発した。

そして、ルイの目の前まで辿り着くと。


「ね?」


片目をつむりながら、顔を近付けて圧を掛けてきた。恐らく、シエナはルイに感謝の言葉を求めているのだろう。

そのあからさまな態度に、ルイは心の中で苦笑しつつ、シエナに感謝の気持ちを述べた。


「シエナさんありがとうございました」


「んん?なんだい?よく聞こえないなぁ〜?」


絶対に聞こえているのにも関わらず、シエナは聞き耳を立て、再度感謝の言葉を求めようとする。それに内心イラつきながらも、再び感謝の気持ちを述べた。


「シエナ様。此度は私を助けて頂き、誠に感謝申し上げます」


懇切丁寧に感謝の気持ちを述べると、シエナは目をつむり、うんうんと唸って頷いて、


「どういたしまして」


と、ルイの顔を覗きながら、いたずらっ子のような目つきでそう答えた。


「─────で、なんの用だよ」


一通り茶番劇終わったところで、ルイは気になっていたことをについて話を切り出した。

話が変な方向へとズレてしまい、ディアナが部屋にやってきた理由が分からずにいたので、ルイはその事について訊くと、ディアナは「あぁ」と思い出したかのように言うと、


「お父様が呼んでるんですよ」


「え、お父様?」


予想外の答えに、ルイは聞き返したが、ディアナは「えぇ」と言い、続けて───、


「城塞都市リーカナでの件について話したいことがあるそうです」


「あぁ、そういうことね」


城塞都市リーカナの襲撃。それに居合わせたルイは、傍から見たら貴重な目撃者と言えるだろうが、ルイは常に恐怖で怯えていたので、正直なところあまり覚えていないのだ。

なので、役に立てるかどうか不安なのだが。


「で、シエナもなの?」


「うん、なんか私も呼ばれたらしいよ」


「そうなのか」


シエナも、城塞都市リーカナの襲撃に居合わせていた人物だ。ルイが初めてシエナと会った時は、既に瀕死の状態であったが、その前の出来事なら何か知っているはずだ。そういうことなら、シエナの方がよっぽど良い目撃者と言えるだろう。

それにしても───、


「呼ばれてるんだったら、こんな話してる場合じゃないんじゃね?」


「ルイが余計な真似をしたせいでこうなってるんです。自覚してください」


「あぁ〜もう、分かったよ。悪かったよ」


ディアナの冷たい眼差しを受けるが、それを適当に流して、ベットから立ち上がった。


「じゃあ行きましょうか。着いてきてください」


そう言うと、ディアナは背中を向けて、扉の方へと歩いて行った。それを見て、ルイとシエナは、ディアナの背中を追っていった。



ღ ღ ღ



ディアナの背中を追い、屋敷の中を歩き回ると、執務室の前に着いた。執務室に辿り着くと、ディアナは扉をノックしてから、扉の奥にいる人物に向かって声を掛ける。


「連れてきましたよ」


「連れてきたか、入ってくれ」


すると、扉の奥から男の低い声が聞こえてきた。その声が聞こえた瞬間、ディアナは扉の取っ手を捻り、奥に押した。執務室の中が明らかになる。


執務室の中は派手な装飾品などはなく、比較的落ち着いた雰囲気であった。仕事用の机、書棚や、応接用の机やソファ程しか無く、質素な感じなのだが、その一つ一つが高価な物だと強調するように、謎の存在感を示している。


そして、部屋の奥にある仕事用の椅子に腰掛けている男。あの人がディアナの父親なのだろう。

白い髪に白い髭、肌には少々皺が出来ており、目は常に細められている。

一件ただの老人のようにも見えるが、ただならぬ雰囲気を醸し出している。領主としての立場の存在感であろう。


ルイは、老人の存在に気付くと、すぐに挨拶をした。


「あ、どうも。こんばんは」


「こんばんは」


ルイが挨拶をすると、老人はニッコリと笑顔を見せてから、優しい口調で挨拶を返した。


「こんばんはー!」


「おい」


そのやり取りも見て、シエナも便乗して、挨拶の声を掛けたのだが、その挨拶が失礼極まりないものであった。

そんな失礼な挨拶だが、老人は再びニッコリと笑顔を見せてから、


「どうも、こんばんは」


優しい口調で挨拶を返した。ルイとシエナの二人が執務室の中に入ると、老人は立ち上がり、応接用のソファに座るよう促してきた。


「さ、どうぞ、ここにお座りください」


「どうも」


そんな気遣いに感謝しつつ、ルイとシエナの二人は隣合う形でソファに座った。そして、対面しているのはディアナとディアナの父親の老人だ。

親子ということもあって、目元の部分は似ている。だが、似ているのはそこだけであって、性格は真逆だ。何故ディアナは、あんな性格になってしまったのだろうか。


「なんですか?」


「いや、なんでもないです」


自然とディアナの顔を凝視してしまっていたようで、ディアナに不快に思われ、顔を顰められたが、すぐに目線を逸らした。


「ルイさん。シエナさん。改めまして、どうもこんばんは。この街の領主を務めている、ディアナの父親のアルドス・サントエレシアと申します」


ルイたちに向かって深々と頭を下げながら、老人はアルドスと名乗った。


「どうも、ルイ・ミラネスって言います」


ルイの自己紹介に続けて、シエナも自己紹介を始める。


「シエナ・ユリアーネって言います。どうかお見知り置きを」


シエナの自己紹介を受けると、アルドスが微かに笑って、


「えぇ、お二人とも存じておりますよ。なんにせ、街で起きた事件を解決して下さったお方たちでありますから」


当然、アルドスの耳にも事件の内容が伝わっていたようで、そのままアルドスは続けて───、


「この度は、この街の秩序を乱す悪党を撃退していたたぎ、安寧を取り戻して頂いたこと、誠に感謝申し上げます」


「ありがとうございました」


再び、アルドスは深々と頭を下げて、感謝の言葉を述べる。それに便乗して、ディアナも深々と頭を下げた。


「頭を上げてください。これは突然のことなので、感謝させる覚えはありませんよ」


アルドスに頭を下げられるのが気まづく、頭を下げるように言うと、アルドスは「ありがとうございます」と、再び感謝の言葉を述べて、顔を上げた。ディアナも下げていた頭をあげた。すると───、


「ルイはそんなに役に立っていないのにも関わらず、何故、如何にも自分がすべて成し遂げた風な言い方をしているんですか?勘違いしないでください」


いきなりディアナが急所を突いてきたことに驚愕し、思わず肩を跳ねさせてしまう。

それに、隣に父親がいるのにも関わらず、いつも通りルイに高圧的な態度を取ってくることに対しても、驚愕してしまう。


確かに、この事件を解決出来たのは、殆どシエナのおかげだ。シエナがいなければ、確実に事件は解決出来ていなかったのだが、一応ルイも活躍したので、男として、少々見栄を張りたい気持ちもあったのだ。そういう気持ちが生じて、あのような言い方になったのだ。


「まあまあ、ディアナちゃん。ルイくんはきっと見栄を張りたいんじゃないかな?誘拐犯のリーダーの男を倒した時はちょっと嬉しそうだったし」


シエナの言う通りだ。恐怖に打ち勝ち、見事誘拐犯の男を倒したことを、ルイは誇らしげに思っている。ルイの内心を完璧に言い当てられ、ルイの心に亀裂が入る。


「まあまあ、ディアナ、シエナさん。あまり、ルイさんの心を傷つけないようにしてあげてください」


同時に二人から直接心を攻撃され、心の中で苦しんでいるルイを見兼ねて、アルドスが二人を窘める。


「そうですね、少々口が過ぎました。一応謝っておきます」


「おいなんだよ一応って、謝るならちゃんと謝れよ」


矜恃か何かは知らないが、とにかくルイには謝りたくはないようだ。悪いことをしたのにも関わらず、素直に反省も出来ないディアナ。どっちが子供なんだか。


「すまねぇ、勘弁してくれ」


「なんだよその謝り方」


極限まで声を低くしながら謝ってきたシエナ。完全にふざけながら謝っているのだが、素直に謝れるだけマシだろう。

二人の謝罪を受けて、ルイは心を平常に戻したところで、アルドスが話し出した。


「話が逸れてしまいましたね。それで、誘拐事件の件なんですが。あなたたち二人にお礼がしたいと思いましてね」


「おぉ!それはなんと言いますか!」


事件解決の功績を称え、アルドスはルイたちにお礼がしたいと言い出してきた。それにシエナは、体を前に乗り出して、その話に、非常に食いついている様子だった。

シエナの瞳は、黄金のように輝いていた。


アルドスはシエナの反応を見て、微笑みを浮かべながら続けて───、


「お礼がしたいと思うんですが…ルイさんとシエナさんが一体何を望んでいるのかが分からないため、私からは何も…。なので、二人方が望まれるものをお礼としてお渡しするというのはいかがなものでしょうか」


「えぇ!?なんでもくれちゃうの!?」


「可能である限りは」


これが領主たる故の余裕なのか。シエナの猛烈な食いつきには、一切動揺を示していない。


「なんでもくれるのかぁ…」


顎に手を添えて、頭の中で考え出す。ルイの頭に出てきたのは、この世の誰もが絶対に出てくるであろう答え。金銭の要求だ。

この世は全て金で回っていると言っても過言ではないため、お礼に金銭を要求すると言うのは普遍的なものだ。

しかも、相手はとんでもない金持ちだと言うことが分かっている。金持ちならば、ちょっとやそっとの金銭ぐらいは、気安くくれるのだろう。


そう頭の中で考えていると、隣にいるシエナが、何か良案が思いついたかのように「あーー!」と叫んでから、アルドスに自身の要求を突きつけた。

その要求とは───、


「ディアナちゃんだー!」


「え?私ですか?」


予想外すぎた答えに、ルイは思わず瞠目してしまう。それはディアナも同じだったようで、驚きのあまり眉を上げ、目の見開きながら自身を指さして、再度要求を確認している。


「うん!ディアナちゃん。一緒にリーカナに行かない?こんな早くに離れ離れになっちゃうなんて寂しいよ…。だから、延長で!」


城塞都市リーカナへの帰還は、ルイとシエナの間で可決されたものだ。しかし、ディアナは一緒では無い。これまで話したことはなかったが、ルイたちがこの街を出発する時には、ディアナとの別れにもなるのだろう。


それは絶対に御免だと、まるで子供の我儘のような要求を、シエナはアルドスに叩きつけた。


「ディアナですか…」


アルドスも予想外の答えに驚いたのであろう。一瞬、アルドスは細められた目を見開いたが、すぐに元に戻した。

地面に目を伏せ、顎に手を添えて、考え込むような素振りを見せた。

しばらく考え込んだ後、アルドスは伏せていた目を上げて、正面のシエナを見た。

そして───、


「分かりました、シエナさん。いいでしょう。ディアナは連れて行っても構いませんよ」


「やったぁぁーーーー!」


同行の許可が下りたことに喜びを隠せず、シエナは万遍の笑みを浮かべていた。


「私は別にいいんですけど…本当にいいんですか?」


ディアナは隣にいる父親のアルドスに、疑問の声をぶつけた。

仕事を担っているであろうディアナに抜けられると、アルドスが非常に忙しくなるだろうと予測されるが、アルドスは口調を変えてこう答えた。


「あぁ、別に構わない。正直、ディアナがいなくても仕事は何とかなるからな。まぁ、いてくれた方が楽なのは間違いないが。それに、ディアナがいてくれた方が心強いし、何よりシエナさんはとても嬉しいだろうからね」


「そうですか、分かりました」


アルドスの返答を受け、ディアナはそれを咀嚼し、飲み込んだ。

確かに、ルイとシエナの二人より、三人の方がいいとは思うが───、


「ディアナか……」


正直なところ、ルイはディアナのことが苦手なので、あまり一緒に居たくないのが本音なのだがらそれはもう無理だろう。

なんにせ、既にディアナの同行は可決されたものであるからだ。ルイが反抗すればいいかと思われるが、それは出来ない。

隣に座っているシエナの万遍の笑みを、失わせるような酷いことは、流石に出来ないのだ。


「何か不満でもありますか?」


納得いっていない様子のルイを見据えて、いきなりディアナが確信を突いてくる。それに対してルイは、決してディアナが苦手だからという理由ではなく、正当な理由で答える。


「え?いや……ね…いやぁ…ディアナさんがいないと忙しそうだし……ね?だからやめといた方がいいと思───、」


絶対にディアナを同行させないように、正当な理由を述べて断ろうとしていた時、ルイの太ももに強烈な痛みが襲ってくる。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


強烈な痛みに襲われている中、痛みの原因となっている太ももを見ると、そこには、ルイの太ももをつねっているシエナの姿があった。


「あぁ、ちょ、ごめんってシエナ。まじで痛いからやめて!」


太ももの肉がちぎれてしまいそうな程の力で、つねってくるシエナ。そして何故か、シエナは万遍の笑みを保ったままだった。

太ももの強烈な痛みに、苦痛の声を漏らして悶えながらも、ルイは必死に辞めて欲しいと懇願する。

その懇願を受けて、シエナは等々口を開いた。


「ディアナちゃんが一緒に来てくれるんだから嬉しいに決まってるよね?ルイくん」


万遍の笑みを浮かべながら、冷たい声でそう言い放ったシエナ。そのシエナの笑みが、何故か狂気的に見えて、ルイは目を逸らして、再び小さな声で答える。


「はい、一緒に来てくれるなんてとても嬉しいことです」


シエナの強烈な圧と痛みに、等々ルイは根負けしてしまう。


「だよねー?そうだよねー?」


ルイの返答を受けて、ようやくシエナはルイの太ももをつねるのを辞めた。痛みから解放され、ルイはほっと一息着いた。

太ももを見ると、尋常ではない程赤くなっていた。


「よし!じゃあディアナちゃんが一緒に行くことは決定だね!」


先程の事は何も無かったかのように、シエナは話を進める。


「は…はい…それで決定と言うことで」


アルドスは目の前の光景に、少々困惑しながらも、ディアナが同行するということを決定づけた。

ルイの意見は一切聞いて貰えずに、勝手にディアナの同行が決められてしまった。それに関しては、もう終わったのでどうにでもなれという感じなのだが、ルイには心配な部分があった。


「でも大丈夫なのか?危険じゃないか?」


「何が危険なの?」


「何が危険って…危ないだろ。だって、リーカナの周辺にまだ襲撃者がいるかもしれないだろ?」


見知らぬ地に転移したルイ。なので、現在のリーカナの状況は一切不明なのだ。なので、まだ襲撃者がいる可能性があるかもしれない。そんなところにディアナを連れて行くのは相当危険だと思うが。


「私が危ないって…そんなこと言ったら対して力もないルイの方が危ないと思いますけどね」


「おい、最後の発言いらねぇぞ」


自分の弱さを、サラッと侮辱されたことに対して、突っかかるが、ディアナの考えは変わらず、


「いえ、絶対に入ります。弱すぎるということがルイの唯一の個性です」


自分の弱さは十分に自虐しているつもりだが、直接言われるのは流石に傷付く。


「え…?俺の事侮辱しすぎじゃない?もう泣くよ?」


「泣け」


ディアナの冷たい返答に愕然し、ルイはただ押し黙ることしか出来なかった。


「ルイさんはディアナのことを心配してくださっている用ですが、それは問題ありません」


ルイが押し黙っていると、アルドスがディアナの失礼な言動には、何故か一切触れず、話に介入してきた。

それに何故か、その言葉は自信に溢れていたようにも感じられた。


「問題ないって…その理由と言うのは?」


ルイが疑問をぶつけると、アルドスは一度隣のディアナを横目で見て、誇らしげに答えた。


「なぜなら私の娘のディアナは、剣の使い手であるからです。剣術の天才と言っても過言ではないですからね」


「剣術の天才か…」


自分の娘の凄さが誇らしいのだろう、ディアナのことを語っている時のアルドスの顔は、非常に幸せそうだった。

隣で自身の父親であるアルドスが、自分のことを意気揚々と話している姿に、ディアナは頬を赤らめて、恥ずかしそうに───、


「はい、私は天才です。ルイの絶対到達できない領域にいます」


しなかった。ディアナは一切謙遜せず、自信満々に自分の凄さを語っている。


「そこは謙遜するところだろ…」


「何故ですか?私は実際に凄いのだから、自分は凄いと誇らしげに言うのは当然なのでは?」


「やっぱ価値観合わねぇな…」


冗談の受け取り方や、普通の基準などが全然違っており、ディアナとは一切価値観が合わない。

それにディアナは「そうですね」と言いながら首肯する。


「ディアナちゃん凄いね。やっぱりディアナちゃんがいてくれた方が心強いよ!」


「えぇ、きっと役に立って見せますよ」


ディアナの発言を真に受け、シエナは非常に興奮している様子だった。ディアナはシエナの興奮具合に微笑しながら、役に立つと宣言した。


「剣術の天才か……天才と言ってもなぁ、その剣術を見ていないからな…」


ディアナは剣術の天才らしいが、その天才具合は一切不明だ。唯一ルイたちに剣術を見せる場面が、あの魔獣に襲われた時だったが、先にシエナが一掃してしまったので、ディアナの剣術は見れていないままだ。


「そうだったらルイ、私と決闘しませんか?億斬りにしてあげますよ」


「いえ、結構です」


アルドスの発言を信じきれていない様子のルイを見て、ディアナはその剣術を身に実感されるために、決闘しようと提案してきたが、ルイはすぐさま断った。

先程ディアナが言っていた通り、ルイは億斬りにされてしまい、この世から完全に消滅してしまう気がしたからだ。

ルイの返答を受けて、ディアナはため息をついて、残念そうに───、


「はぁ…ルイを斬れると思ったのに…」


ディアナの恐ろしすぎる発言に、ルイは戦慄する。

この発言が本当ならば、ディアナはルイを斬りたかったのかと思われる。今までのルイの態度に、ストレスが積もりに積もっていたのだろうか。とにかく、あまりディアナを刺激しないようにしないといけない。

ルイは、ディアナに対して態度を改めようと心の中で決意した。


「ルイさん。ディアナの剣術は本物です。きっとルイさんの役に立つと思いますので、ご安心してください」


「はい、信じます」


アルドスの説得に、ルイは素直に信じる。その反応を受けて、アルドスは「そうですか」と言い、ほっとしたような顔を見せた。


一通り会話が終わったところで、アルドスが話を切り出した。


「話の路線が随分と逸れてしまいましたね。本題に入りましょう。今回ルイさんとシエナさんをお呼びしたのは、お二人方に話しておきたいことがあったからです」


先程とは打って変わったアルドスの真摯な眼差しが、空気を緊張感で張り詰めさせる。

その前置きを受け、ルイはごくりと息を飲んだ。


「リーカナが何者かによって襲撃された件についてですが───、」


アルドスが一拍置いて、続けた。





「──魔女によるものだと思われます」


この世で最も恐ろしい存在の名を口に出したのだった。

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