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いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
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第一章16 「帰宅」

この物語の一話や二話などの、始めの部分が、少々適当すぎたので、徐々に書き直していきます。


空は夕焼しており、流れゆく雲や、広大な大地を、炎が燃えているが如く、真っ赤に染めている。

前方に見えるディアナの屋敷も、真っ赤に染まっており、屋敷の装飾が、夕焼けの赤と交わって、より美しいものにへと昇華されている。


時刻は夕方。夕方までには屋敷に帰って来るように言われたので、現在ルイたちは、屋敷に向かって歩いているのだが。


「ほんと疲れた…」


疲れたとしかいいようがない。夕方になるまで、街の観光を沢山して回ったのだが、散々シエナに振り回されたおかげで、ルイは、疲労に疲労を重ねていた。


「なんで?めちゃくちゃ楽しかったじゃん。もうほんとサイコーだったよ。これくらいで疲れちゃうなんて、全然体力ないんだね。ちゃんと鍛えといた方がいいんじゃない?」


シエナは、ルイの横顔を見詰めて、心配げな表情を顔に醸し出しながら助言するが、助言される筋合いは微塵もない。


「シエナが異常なんだよ…」


屋敷を帰る途中の二人だが、それ以外は、正に真逆と言ったところだ。街の観光を楽しみ尽くして、満足気な表情を顔に映し出しながら感慨に浸っているシエナ。足取りは非常に軽く、一切の疲れを感じさせない様子とは全く違って、ルイはまるで、疲労の沼に溺れているような感覚になっており、絶賛沼に足を取られている最中だ。


前に進む際に生じる足の動作が、非常に重く感じる。それに、重さは足だけではなく、身体全体にまで行き渡っている。真っ直ぐに立っていることすら不可能で、酷い猫背になりながら、何とか歩いているという状況だ。


「っていうか、なんでそんなに元気なんだよ…」


「楽しいことばっかりだったら、疲れなんて感じなくない?」


「感じるわ…今現在俺が感じてるんだからな」


「それはさぁ、ルイくんの体力が全然ないからじゃん」


「なわけねぇよ…」


シエナは悪魔で、ルイ自身の体力が全然無いのだと主張するが、それは全くのお門違いだ。誘拐事件を解決した時から、現在まで、街の観光をしてきたのだが、振り回され続けた記憶しかない。


最初の内は、楽しい気持ちもあったのだが、時間が立ってくると、次第に体力の限界が来てしまい、歩くのが辛くなってきた。

なので、ルイは休憩しようとするのだが、シエナに腕を引っ張られて、無理やり連れていかれてしまう。一切の休憩無しに、ぶっ通しで街を散策し続ける。そんな辛い時間が続いたが、それももう終わりだ。

その事に一安心して、ルイは、重い足を懸命に動かしながら、たどたどしい足取りで、屋敷へと帰還している。


「いやぁ、それにしても夕ご飯が楽しみだねぇ〜」


「楽しみって…シエナまだ食えんの?あんだけ食ってたのに」


街を観光し回っている最中、シエナは屋台を漁り回っていた。暴飲暴食を繰り返したシエナ。そのおかげで、ルイが持っていた金貨一枚は、早くに消し飛んでしまった。

ちなみにルイは、昼食以来何も食べていなかった。何かを食べようとしたら、全部横取りにされてしまっていた。

それだけ、沢山食べていたシエナなのだが、まだ食べるつもりなのか。

その事について問うと、シエナは、


「別腹だと思えば別腹になるんだよ」


名言のように聞こえるかもしれないが、言葉を咀嚼すると、意味が分からないことに気付く。つまり、これは名言ではなく迷言だ。


「意味わかんね」


迷言を、自信満々に言い放ったシエナ。その迷言に、ルイは意味不明だという感想を零したが、シエナはそれを聞いて、言葉を続ける。


「分かっていないようだから、この頭のいいシエナちゃんが、しっかりと教えてあげようじゃないか」


「いや、大丈夫です」


「お腹がすいていないって思い込みをずっとしていたらさ、本当にそう思えてくるんだよ」


シエナのご教授の誘いに、ルイはキッパリと断るが、それを無視して、自称天才のシエナはご教授を始めた。やはり自称と言うだけあって、話の内容が薄い。


「────ん?」


シエナの教授を聞き流すルイだったが、途中で引っかかる部分があった。


「ねぇシエナ」


「ん?どうしたの?」


「別腹と思えば別腹になるとか言ってたけどさ、もしかしてシエナお腹いっぱいなの?」


途中からではなく、最初から変だなと薄々感じてはいたのだが、別腹だと自己暗示するのが大切だとシエナは言っている。つまり、シエナは既にお腹が限界なのであるが、夕食を食べるため、別腹なのだと自分に言い聞かせていると思い、シエナに訊いてみる。


「ん?ソンなことないヨ?」


すると、シエナは体をビクッと震わせて、片言になりながら否定した。完全に図星だったようだ。当然の結果だろう。あれだけ暴飲暴食を繰り返していたシエナが、まだ食べれるわけが無い。


「シエナ…あれだろ、夕食のこと考えてなかっただろ」


「うぅ…」


後ろめたそうな表情をしながら、顔を地面に伏せた。


「シエナ、夕食食えんのかよ」


「だ…大丈夫だから、さっきも言ったけど、別腹だと思えば別腹になるんだから」


「別にそんな無理して食べなくてもいいだろ」


既に満腹状態なら、無理して夕食を食べる必要は無いと思うが、シエナはそれに反発して、


「それはダメ!昼ごはんすんごい美味しかったから、また絶対食べたいの!だから頑張って食べる」


確かに、屋敷で食べた昼食は、今まで食べたものの中で、一番美味しかったと言っても過言ではないだろう。再び食べたい気持ちも分かるが、無理して食べる必要もない。


「ま…頑張れよ」


適当に声援をかけた。

そんなことを話しているうちに、屋敷の目の前へと着いた。


「たっだいまー!」


シエナは大きな声を出しながら、勢いよく扉を開けた。目の前に見えたのは、相変わらず無駄に豪華な室内だ。何度見てもなれない場所だ。

そして、豪華な室内が見えるだけではなく、目の前には人影があった。

その人影の正体は────、


「あー!ディアナちゃーん!」


目の前に立っていたのは、ディアナだった。シエナの存在に気がつくと、段々と表情が明るくなっていき、


「シエナちゃん、お帰りなさい。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも──、」


「わ・た・し?」


「は?」


その流れで来られると、反射的に口が出てしまう。ディアナの言葉を遮ると、シエナに対して見せていた明るい表情が消え去っていき、不快げに眉を顰めた。


「あの…ルイ、何言ってるんですか?きもいですよ?一回死んだ方がいいですよ」


そう言いながら、腰に下げた剣の鞘に手を当てながら、細められた眼光でこちらを睨む。


「一回死んだらもう人生終わりなんだよ!あと、そんな怒ることでもねぇだろ!」


軽い冗談のつもりの発言だったのだが、ディアナの逆鱗に触れてしまった。ディアナの沸点が分からない。そのうち、ルイがこの世に存在していることにも怒ってしまうかもしれない。いや、流石にそれは無いか。


「その流れで来たら、わ・た・し、しかないだろ普通!逆に何言おうとしたんだよ」


「ルイの普通なんて知りません、自分の価値観を他人に押し付けないでください。私は、あなた達が街の観光で少々疲れたかと思ったんで、一旦休みますかって言おうとしただけなんですけど」


「言い方があるだろ!あの流れで来たら全人類共通で同じこと思うだろ!」


「全人類の考えを、ルイの勝手な思考で決めつけないでください。私はそう思っていませんので」


「なんだとぉ?」


「まあまあ、二人とも喧嘩しちゃダメだよ」


ルイとディアナが言い合いになっているところに、シエナが両者の肩を軽く叩きながら仲介に入る。すると、ディアナは冷静さを取り戻して、


「そうですね、シエナちゃんの言う通りですね。なので、直ちにルイは謝ってください」


「なんで俺なんだよ」


「ルイが最初に変なことを言い出したからこうなったんでしょ?なら早く謝ってくれませんか?せっかくシエナちゃんが仲介に入ってくれたんだから、ルイが謝らないとシエナちゃんの労力が無駄になってしまうので、さあ、早く謝ってください」


途中でルイは口を挟もうとしたが、凄まじい剣幕と、ものすごい勢いで言葉を連ねるので、それは出来なかった。


「シエナはどう思う?」


ディアナの圧力に押し負けて、そばにいるシエナに助けを求めるが、


「んーとね、よく分かんないけど、とりあえずルイくんは謝った方がいいんじゃない?」


「なんでだよ!?」


「だってさ、ディアナちゃんが謝れって言ってるんだから謝った方がいいんじゃない?」


「なんだよ…お前もかよ…」


「───お前?」


そう言い捨てると、シエナは顔を顰めた。恐らく、シエナのことを名前で呼ばず、お前と略称してしまったことが、不愉快極まりないのだろう。

シエナとディアナ、二人の眼光が、ルイを追い詰めて、逃げ場を潰してくる。とんでもなく気まずい空気感。それに耐えきれず、等々ルイは負けを認めた。


「はぁ……シエナさん、ディアナさん、誠に申し訳ございませんでした」


シエナとディアナに、軽く頭を下げて謝罪する。謝罪するとは言っても、一切誠意の篭っていない空謝りなのだが。ルイの謝罪を受けたシエナとディアナの二人は────、


「もー、全くもー、仕方がないなー、今度からは気をつけるんだよ?次やったら地獄のそこに突き落とすからね」


「そうですね、次からは変な発言をしないでください、もし次した時には、命は無いと思っていてください」


この二人の返答には、癇に障る部分が幾度もあったが、これ以上反論すると、一生言い争いが終わらない予感がするので、辞めておくことにした。これが大人の対応と言うやつだ。


「さぁ…ルイとか言う人のせいで話がズレてしまったので、話を戻しましょう」


ディアナはルイという部分を無駄に強調しながら、話の路線を元に戻そうとする。


「そうだね、で、何話してたっけ」


「ご飯にしますか、お風呂にしますか、それとも部屋に戻って一旦休みますか?」


ディアナは、ルイが遮った言葉を最後まで続けた。本当に思うが、これはディアナの言い方が悪い。誰だって、この流れで来たら私と答えてしまう。

これは全てディアナの言い方が悪かったせいなんだ。

実際に言ったら面倒臭いことになるので、そう心の中で愚痴を零す。


「んー、どうしよっかな…」


シエナは、顎に手を当てて考え込む。こう選択肢を出させると、本当に困るものだ。

時刻は夕方で、ルイは昼食の時から何も食べていないので、非常にお腹が空いている。そのため、すぐにでも夕食を食べたいのだが、シエナに散々振り回されたせいで、身体が疲弊しすぎているので、一旦休みたい気持ちもある。ならば、疲れを癒すため、お風呂という選択肢もあるが、


「よし、じゃあご飯にしよー!」


シエナの出した結論は、夕食を食べることだった。


「シエナほんと腹大丈夫なのか?一旦時間を置いてからの方がいいんじゃないのか?」


シエナは、屋台の食べ物を食い漁り過ぎたせいで、満腹になっている。それを、別腹だと思い込むことによって乗り切るつもりだが、そんなことは出来るはずない。もしそれが出来たらどれだけいいことか。


「大丈夫、大丈夫、何とかなるから」


ルイが心配の声をかけたが、それをシエナは軽くあしらう。


「分かった、ご飯にしましょうか。シエナちゃん、何を食べたいですか?」


「でっかいステーキ!」


まるで子どものような語彙力で、考え込むこともなく即答した。


「でっかいって…子どもみたいな言い方がな…」


「は?ルイの方が子どもじゃないですか?大体ルイは何歳なんですか?」


自然と心の声が漏れてしまっていたのを、ディアナは決して聞き逃さなかった。目を細めてこちらを見据える。眉間には皺が寄っていた。シエナを侮辱されたことが癇に障ったのだろうか。


「何歳って、今十七歳だけど」


「私は十九歳です。ですのでこれからは敬語を使ってください」


「へっ、誰がお前なんかに敬語を使うか!」


ディアナの方が年齢が上なので、年下のルイは敬語を使えと言ってきたが、それにすぐさま反発する。

すると、ディアナは腰に下げた鞘から剣を抜き出した。そして、剣の先端をルイに向けて────、


「やっぱりルイ、一回死んどきますか」


「はいはーい、だから喧嘩しないのー!ほらほら、早くご飯食べに行こ」


ディアナの凄まじい剣幕に、空気がピリつき、ルイの命の危機が迫った瞬間、再びシエナが割り込んできて、夕食を食べようと急かしてくる。


「そうですね、悪かったです。では、夕食を食べに行きましょうか」


ディアナは、ルイに責任を押し付けず、今回は自分自身が悪かったのだと反省する。どうやら、シエナの言うことならなんでも聞くらしい。なんなんだこの違いは。


「よし、じゃあ早く食べよー!」


「ですね」


そう言い捨て、シエナとディアナの二人は、食堂の中にへと入っていった。


「あー、全く…恐ろしいやつらだな…」


頭を掻きながらルイもそう言い捨て、食堂の中にへと入った。



ღ ღ ღ



各々椅子に座ってたルイたち。ステーキということなので、しばらく時間がかかると思っていたのだが、案外すぐに出てきた。


「うわぁ、すんごい美味しそう」


シエナは目の前に広がるステーキに、感銘を受けている。肉の焼ける香ばしい匂いが、鼻の奥いっぱいに広がり、食欲がそそってくる。

ちなみに、シエナのステーキだけ、ルイとディアナのより少しだけ大きい。シエナが大きいステーキを食べたいと要望したからだ。

満腹状態らしいが、本当に大丈夫なのだろうか。


「やっぱディアナちゃんのとこの料理美味しー!」


ナイフとフォークを巧みに扱い、ステーキに食いついた。シエナの頬が落ちているのが目に分かる。


「うめぇな」


シエナに便乗して、ルイもステーキを食べる。やはり美味しい。肉の旨味が口の中に広がり、満足感が湧いて出てくる。


ディアナも食べ始めて、各々が食事に夢中になっている中、ディアナが切り出した。


「そうそう、お二人とも、誘拐事件の方はありがとうございました」


エリナが誘拐された件についてだが、ルイは感謝されるほど役に経っていない。なんにせ、誘拐犯達の居場所を突き止め、その大半を蹴散らしたのはシエナなのだから。


「えへへ、どういたしまして」


シエナは照れくさそうに頭を掻きながらそう答える。もっと誇ってもいいと思うのだが、謙虚なやつだ。


「それにしても凄かっですよ、犯人たち。ものすごい怪我でしたよ」


「まあ、だろうな…」


武器を持った男たちを、意図も簡単に撃破したシエナ。その戦闘技術はとんでもないもので、人間の骨など容易く砕く破壊力を持ち合わせている。まさに化け物だ。兵士であるルイの何百倍も強いだろう。


「──いやぁ、本当にあいつら弱すぎたよね、ルイくん」


「まぁ、シエナにとっては弱かっただろうけどな」


こんなことを話しながらも、シエナはステーキを頬張っていた。少々顔が辛そうにも見えたが、見間違いかと思い、気にしないことにした。


「ところでルイ、あなた何かしましたか?全部シエナちゃんに任せっきりなんてことはないよね?」


「それに関しては大丈夫だ。俺が誘拐犯のリーダーを倒したんだからな」


「へぇ……………そうなんですか」


「嘘じゃねぇよ!?」


自信満々に、自分も功績を残したことを言うと、ディアナは糸のように目を細めて、ルイの目を凝視した。まるで信用されてないかのような目つきに、ルイは慌てて反発する。

すると、ディアナはルイから机の方に目を向けて、


「まあ知ってますけど、あの男。ルイにやられたって言ってましたからね」


「知ってんのなら疑うような眼差しを向けないでもらえますか!?」


「ルイが勝手にそう思ったんでしょう。私のせいにしないでください」


「───そうだな、悪かったよ」


確かに、ディアナが糸のように目を細めてルイの瞳を凝視したので、てっきりルイの功績を疑っているのでは無いかと思ったが、勝手な思い込みだったらしい。その点についてはルイが悪いので、素直に反省する。


「あーそう、それでさ、あいつ何か変なこと言ってなかった?」


「変なことって何?」


「あいつさ、何かエリナちゃんを連れ去らないと自分の命が危ないとか何とか言ってなかった?」


あの男がルイたちに追い詰められた時、涙を流して、血を吐くような声で誘拐させてくれと懇願してきたのだ。戯言だとは思うが、やはり気になる。

その疑問にディアナは「そうなんですよ」と前置きし、ルイと同じように、気になっていることについて話し始めた。


「誘拐犯達に事情を聞き出しているんですけど、全員同じこと言うんですよ」


「全員?」


「うん、全員あの子を連れ去らないと俺の命が危ないとか言っているですよ」


ディアナの話だと、エリナを誘拐しないと、自分の命が危ないと犯人の全員が言っているらしい。そのことを踏まえて、ルイは一つ思ったことがある。それは───、


「なぁディアナ、もしかしてさ、そいつら誰かに命令されている説とかない?」


恐らく、あの誘拐犯達は、誰かにエリナを誘拐するように言われて、もしそれが出来なかったら殺すと脅されているのではないか。そうでもなければ、自分の命が危ないということはあるはずない。

どうやら、ルイの考えはディアナと同じだったようで────、


「多分、その可能性が高い気がするね。でもあいつら、何も吐いてくれないですよね」


ディアナは机に肘をつき、手に顎を乗せて困った表情を見せた。


「そりゃあそうだろうよ、自分の親玉の正体なんか言ったら絶対自分の命はないからな」


「ちゃんと牢屋に入れてあるんで大丈夫だと思うんですけどね。もし親玉が直々にこの街に来たとしたら、私がそいつのことを微塵切りにするんですけどね」


顔つきを一つも変えないまま、サラッと恐ろしい発言をするディアナ。彼女の剣捌きは見たことないが、平気で微塵切りとか言う辺り、相当凄いものなのだろう。


「まあ…いつか絶対に吐き出させますんで、少々痛み目にあってもらいますが」


「こ…怖いな…」


「ルイも一回牢屋に入ってもらって痛い目にあいますか?私がとことんやってあげますよ」


「無理だわ!そんな怖いこと言うなよ!」


ディアナの拷問の様子は容易に想像できる。少し考えるだけでも、背筋が震えてしまう。そんなルイの反応に、ディアナはまるで魔女のように笑った。


「ま…今は特に進展はなしってところか」


「ですね」


「それにしても、あれだな、シエナ大丈夫か?」


ルイの隣の席に座っているシエナ。お喋りなのにも関わらず、全然喋っていなかったので、様子が気になり、隣を見てみると、そこには顔が青ざめており、如何にも吐きそうな様子のシエナがいた。


「おいシエナ、俺言ったろ、一旦時間を置いてからの方がいいって」


「ぃ…ぃけるもぉもったもん…」


拙く、弱々しい声でそう答えた。机を見ると、シエナはステーキを完食していた。幾ら吐きそうになっているとはいえ、屋台であれだけ食べた後に、ステーキを平らげるなんて、とんでもない容量の胃袋だ。


「シエナちゃん大丈夫?」


ディアナは机に体を乗り出して、心配げな目をしながら声をかける。だが、シエナは俯いたまま、何の反応も示さなかった。喋ることすらままならないのだろう。


「ねぇルイ、シエナちゃんどうしちゃったの?」


「あぁ、シエナは屋台で色々と食いすぎて、夕食なる前にはもう腹いっぱいになってたらしいよ」


「そうだったんですか?なら言ってくれれば良かったのに」


ルイの報告を受け、ディアナは心底驚いたような表情を見せた。それにルイは続けて───、


「俺も何回もそう言ったんだけど聞いてくれなくてさ、ここの料理めっちゃ美味しいからって、無理に食ってたんだよ」


「そうなんですか、ならちゃんと言わなかったルイが全て悪いですね」


「なんで俺なんだよ!?」


ルイは何度もシエナに忠告したのだが、どうやらちゃんと言い聞かせなかったルイが悪いらしい。意味が分からないが、追求しないことにした。


「それで、シエナどうする?」


深々を息を吐いて、隣で俯いているシエナに、今後の経緯を問う。その問いに、シエナは一拍置いてから、


「───部屋に、戻ります」


少しは気分がマシになったのか、先程よりも少しだけ大きな声音でそう答えた。すると、ディアナはシエナの方にやってきて、


「じゃあ、私がシエナちゃんを部屋に連れていくんで、ルイも部屋で休んでてください。あ、そういえばお風呂の準備も出来てますんで、いつでも入って大丈夫ですよ。お風呂は西館の二階にあるんで」


「分かった。ありがとう」


そう言い捨てて、シエナと肩を組みながら、ゆっくり食堂から出ていった。


「あいつ本当に馬鹿だな…」


誰もいなくなった空間で、シエナに対しての愚痴を漏らしつつ、喋ることに夢中になっていたせいで、全然食べられていなかったステーキを再び味わった。



ღ ღ ღ



あの後、ルイは夕食を食べ終えて、貸し与えられた自室でのんびりと過ごしていた。

シエナのせいで、身体中に蓄積した疲労を癒すためだ。


「あー、疲れた……だる…」


ルイは今、手足の投げ出して、ベットで大の字になっている。どうにかして、この身体の疲労を無くしたいものなのだが、


「あ!そうだ!お風呂があるんだった!」


ディアナがお風呂の準備が出来ていると言っていたのを思い出した。


「風呂場全部に金とか使ってんのかな」


こんな豪華な屋敷のお風呂だ。さぞかし素晴らしいものなのだろう。お風呂場の内装が全て黄金で出来ていそうだ。そんな想像をしつつ、着替えを片手に持ち、期待に胸を寄せて部屋を出た。


「確か西館の二階だったっけか」


ディアナが食堂を出る際に言っていた言葉を思い出し、西館に向かって歩いていく。

西館に着くと、更に奥へと進んで行く。そして、お風呂場の前へと辿り着いた。


「楽しみだなぁ…」


そう思いながら、お風呂場の中にへと入っていく。中に入ると、無駄に広い脱衣所が広がっていた。


「脱衣所でこれなら、さぞかし風呂の中は広いんだろうな」


脱衣所の広さを受けて、風呂場の広さに更に期待を抱きつつ、服を脱ぐ。無駄に置かれた籠に、自分の服を入れつつ、バスタオルを手に取る。


「邪魔だな…巻いとくか」


バスタオルが邪魔だったので、自分の腰部分に巻き付ける。


「それじゃあ…」


膨れに膨れ上がった期待を胸に、ルイは浴槽の扉を勢いよく開けた。

そこには、黄金で作られた絶景が広がっており───、


「あー!ルイくーーーん!やっほー!」


「え?」


お風呂場の中は真っ白で、何本もの柱や、彫刻が飾られていた。真ん中には、大きすぎる浴槽があり、そこには何故かシエナがいた。

頭の上にバスタオルを乗せているシエナは、こちらに気づき、笑顔で手を振ってきているが、それだけならどれだけ良かったことか。

シエナがいるということは、当然、彼女もいるはず───、


「やはりお前は死にたいようですね」


「えっ、いやっ、違っ…」


シエナの隣で一緒にお風呂に浸かっているディアナがこちらを振り向き、まるでゴミを見るような目でルイを睨む。その残酷で冷淡な声音が、ルイの心を刻む。

そしてディアナは、何故か傍らにある剣を手に持ち、投槍のように剣をルイに向かって投げる。


「ぎゃあああああああああ!」


ルイに向かって投げられた剣は、まるで雷のような速度で迫ってくる。あまりの速さに、ルイは動き出すことが出来ず、等々剣がルイの体に突き刺さって────、


「警告です。今度からは気をつけてくださいね」


ルイに向かって投げられた剣は、真横を通り過ぎて、脱衣所の壁へと突き刺さった。


「あ…あっぶねぇ…」


「ルイには当たらないようにしたので大丈夫です」


「当たらないようにしたもなにも、怖すぎるだろ…」


当てないようにしたと言っても、危険すぎる行為だ。もしディアナの手が誤って、ルイに突き刺さったと思うと、考えるだけ恐ろしい。ちなみに、この光景をシエナはただ笑って見ているだけだった。


「それにしても、なんで私たちが入っているのに入ってきたんですか?」


「そんなん言ったって、脱いだ服とかなんにもなかったもん」


「いや、籠に私たちの服入ってませんでした?見てませんでしたか?」


「え?嘘っ!?」


「はい、ちゃんと入ってるはずですよ。そんなことはどうでもいいんで、早く出で行ってもらって結構ですか?非常に不愉快なんですけど」


「あ…すいません」


キッパリと不愉快と言われ、ルイはゆっくりと後ずさりしながらお風呂場を出る。しっかりと胸を目に焼き付けながら、浴槽の扉を閉めた。


「恐ろし…」


後ろに振り向くと、脱衣所の壁には剣が突き刺さっており、少し壁がひび割れている。あれをまともに食らったら、ルイの胸には風穴が空いていただらう。


「うわ…ほんとにあるじゃん」


籠に着替えが入っていると言われたので、よく見ると、二人分の脱いだ服が、本当に籠の中に入っていた。


「分かりにくいわ…」


籠は割と底があるので、まじかで見ないと分からなかった。完全なる罠にハマってしまったという訳だ。


「とりあえず、あいつら出るまで待つか」


シエナ達が入っているので仕方ない。ルイは再び服を着て、脱衣所から廊下に出て、自室へと戻って行った。

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