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いつかまた、この花が咲く時に  作者: 月ヶ瀬明。
第一章 『魔女の洗礼』
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第一章10 『昼食』


しばらく道を歩いていると、屋敷の目の前へと到着した。遠目から見た時も、美しい建物だと思ったが、間近で見ると、美しいというか、なんとも言えないというか。

無駄に装飾の派手な屋敷であり、ルイの身の丈に合っていない感じがする。入るのが謙遜されるほどだ。


「す…すげぇ…」


「だね…」


ルイとシエナは、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

ちなみに、シエナは肉串を食べた影響か、すっかり元気になっていて、今は普通に歩いている。なんなんだこいつは。


「入りましょうか」


そう言いながら、ディアナは、屋敷の入口に佇む大きな扉に手をかけて、ゆっくりと扉が開かれていく。


「うおぉ、これはすごいな」


「確かに、すごいね」


扉が開かれると、まず見えたのが、大きな階段だ。横に10人ぐらい並べそうな感じの、大きな階段だ。

大きな階段の前の、広間的な場所には、赤い絨毯が引かれている。赤い絨毯には、紋章のようなものも、描かれている、


他にも、見るからに高そうな彫刻や、花瓶、壺、絵画などが、無数に置かれている。

一体どれだけ金を持っていれば、こんな屋敷が建てられるのだろうか。

恐らく、ルイが一生働いたとしても無理だろう。


そして、何より───、


「お帰りなさいませ、ディアナ様」


「えぇ、ただいま」


「メ…メ…メイドがいるのか!?」


扉を開けると、目の前には、二人のメイドが立っており、ディアナ達を見ると、頭を下げた。

二人とも、顔が非常に綺麗に整っており、とても美人だ。


「着いてきてください」


ディアナがそう言うと、軽い足で、大きな階段を登っていく。

本当は、もう少しメイドさんのことを見ていたいのだが、やめておこう。一度見続けたら止まらなくなる。

ルイたちも、ディアナを追って、階段をゆっくり登っていく。


階段を登りきると、ディアナは右側の通路に向かったので、ルイたちも着いていく。


通路が広く、長い廊下だった。廊下の右側には、等間隔に花瓶が置かれ、美しい雰囲気を醸し出している。

大きな窓からは、心の奥まで温められるほどに温かく、眩しい日光が、照らし出されている。

窓の上から眺める街並みは、とても綺麗であり、少しながら優越感が味わえる。


「ここが部屋です、今日はここに泊まってください」


窓の外をぼんやりと眺めながら、廊下を歩いていると、ディアナが声をかけてきた。

ディアナが言った方向を見てみると、そこには、二つの部屋があった。ルイとシエナの分だろうか。


大体予想はしていたが、やはり扉も無駄に豪華だ。

扉には、絨毯にも描かれていた、紋章のようなものが描かれており、宝石が埋め込まれている。


右の部屋の扉を開けてみる。

部屋の内装は、窓沿いに大きなベットがあり、机や椅子、棚などが置かれている。

家具の一つ一つが、如何にも高価な感じがする。


「なあ、ディアナ、さっきから見ていて思うんだけどさ、お前の家豪華過ぎないか?」


「だよね、ディアナちゃんの家って、どんだけお金持ちなの?」


ずっと思っていたことが、遂に口に出た。

ディアナの家系は一体どれほど金を持っているのか。

一体どんな思考だったら、こんな派手な屋敷を作れるのか。相当な変態思考でないと、こんなものは絶対に造らない。

ルイの貧乏人思考が、シエナにも理解出来たようだ、シエナもディアナに疑問をぶつける。


「この屋敷は、私の父親が造ったんですけど…まぁ、やっぱり豪華だと思いますよね、これに関しては、私も理解できません、お金の無駄だと思うんですけどね」


「お前は変態思考に侵食されていなかったか…」


ディアナがこの発言に対して、疑問の感情を抱いて、首を傾げたが、どうでもいい。

ディアナにもこの変態思考は理解出来ていないようだったので、少し安心した。


それにしても、ディアナの父親が、この屋敷の元凶だったのか。

こんな変態思考を持っている、ディアナの父親には、心底驚愕させられる。

これだけお金を持っているのなら、少しぐらい分けてくれないだろうか。


「とりあえず、今日は、ルイさんは右の部屋、シエナちゃんは左の部屋に泊まってください。あと、着替えもらっていいですか?そんなに汚い姿で、屋敷をあまり歩き回られたくないので、特にルイさん、すごく汚いです」


「はいっ」


ルイの姿を、上から下まで、鋭い目でじろりと直視されるが、それを振り切って、急いで部屋の中に入る。


すぐさま、後ろを振り向いて、扉をいち早く閉める。


「ふぅ……」


ディアナの目から逃げて、部屋の中に入り込む。一安心して、深呼吸をする。


とりあえず、ディアナに早く着替えろと言われたので、ベットの上に置いてある、着替えをとる。


「まぁ、これもだろうな」


着替えは、至ってシンプルな感じなのだが、質感がいいと言うか、触り心地がいいと言うか、やはり、これも高級品なのだろう。

そんな感想を零しつつ、ルイは着ている服を脱ぎ始める。

早くしないと、また何かか言われてしまうかもしれない。


それにしても、やっぱりディアナは何かがおかしいような気がする。

ディアナの父親は、見た感じ、思考が狂っているようだが、やはり、ディアナも思考狂っているのだろうか。

さっきから、ルイに酷く辛辣な声をかけている気がする。


「親子揃ってかよ」


そんな感想を漏らしながら、ズボンを脱いでいると───、


「まだなの?遅いんだけど?早くしてくれませんか?」


「ぎゃあああああああああ」


扉が猛烈な勢いで開かれ、ディアナがこちらを、鋭く、細い目で見据えてくる。

そしてルイは、いきなりのことに驚き、脱いでいる途中のズボンにつっかえて、地面に倒れてしまう。


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」


倒れた衝撃で、腰を強く打ち、必死に腰を抑えて、痛みに悶える。


「あの…女の子にそんな姿を見せるって人間としてどうなんですか?気持ち悪いですよ?とりあえず、早く着替えてもらっていいですか?すごく遅いですよ」


「そんなすぐに着替えれねぇよ!早すぎんだよ!あとお前が開けてくるからだろうが!」


ディアナの軽蔑する物言いに、声を荒らげて反論するが、それは直ぐに打ち砕かれた。だって───、


「ルイくん遅いよ?」


「え?」


既に着替え終わったシエナが、非常に恥ずかしい姿のルイを、ディアナの横から見ていたからである。


軽蔑の顔を見せるディアナに対して、シエナは、笑顔で、パンツ姿のルイを見据えてくる。

ディアナはまだしも、シエナは、ルイのみっともない姿を、笑顔で見据えてくる。


「いいから早く閉めろぉぉぉぉおお!」


ルイのパンツ姿を、軽蔑の顔と、笑顔で見られる、混沌した空間が、まるで地獄のように感じたので、ルイは声を荒らげて、扉を閉めるように言う。


「仕方がないなぁ、もう」


微笑を交えながら、ディアナの横にいたシエナが、ゆっくりと扉を閉めてくる。


早く閉めろと言ったはずなのに、ゆっくりと扉を閉めてきた。

非常に腹立たしい。ディアナに復讐を決意したのだか、ディアナの優しさの部分が垣間見えて、復讐するのを辞めようと思っていたのだが、前言撤回だ。

こいつら二人とも、地獄を味合わせてやる。


そんなことを思いながら、ルイは、途中で止まっていた着替えを再開していた。


急いで脱いでいる途中だったズボンをちゃんと脱いで、着替えのズボンに履き替える。

そして、上着も脱いで、着替えの上着を着る。


本当だったら、服はいつも脱ぎ捨てているのだが、絢爛豪華な雰囲気が、服を脱ぎ捨てるのを拒んだ。

なので、渋々、服を綺麗に畳んだ。

他の人が見ると、到底綺麗とは言い難い程の出来だったが。


着替えが済んだので、ルイは、ゆっくりと扉を開ける。

そこには、先程と変わらぬ表情をした二人が出待ちしていた。


「やっとですか、ほんとに遅いんですけど」


「そんなに遅かったか!?ってか全然時間経ってないと思うんですけど!ディアナさん時間に厳しすぎないですか!?」


扉を開けられた際、体感では、扉を閉めてから、十秒程しか経過していない気がする。

今だって、ディアナに遅いと叱咤されたので、急いで着替えたのだが、それでもディアナは、遅いという。

もしかしたら、自分の時間の感覚がおかしくなっているんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。

それに、さっきから、ディアナはルイに、強くものを言い過ぎているような気がする。


「何か俺に恨み言でもあんのかよ…」


そんな、小さな愚痴を零すと、シエナがルイの目の前に出てきて───、


「ねぇ、早くお昼ご飯食べに行こうよ!ディアナちゃんが、私たちの分まで用意してくれたって!絶対美味しいよね?高級料理とか沢山出てくるのかな?」


「はい、いい料理をいっぱい用意してますよ」


シエナには、ルイに見せた鋭い目ではなく、どこからか、優しさを感じさせるような丸い目をして、笑顔を見せている。


「えっ?昼ご飯?」


「うん、だって今、12時だよ?」


どうやら今は、昼の12時らしい。丁度、皆がお昼ご飯を食べる頃だ。


「早く早く!絶対美味しいって!ルイくんも食べたら驚いて腰抜かしちゃうかもよ!」


シエナは、目を黄金に輝かせて、ディアナはそれを見て、微笑している。

肉串の時もそうだったのだが、シエナは、食べ物に愛着がありすぎるようだ。

食べ物に、愛着がありすぎるので、食べ物の話になった時には、口がものすごく達者になっている。


「――残したら絶対殺されるじゃん」


「うん!殺す!」


元気よくそう返答されたので、驚きのあまり、反射的に筋肉に力が入り、体がビクッと浮いてしまう。


「じゃあ行きましょうか」


ディアナがそう言うと、ルイたちに背中を向けて、長い廊下を再び歩いていく。


「ねぇねぇルイくん、一体どんな料理が出てくるのかな?絶対美味しいよね?ね!」


ディアナの後ろを着いていきながら、シエナが、期待に目を光らせて、料理のことについてルイに聞いてくる。


「だよな、絶対とんでもなくやばいものが出てくるだろうな」


こんなお金持ちの屋敷だ、料理も、相当な高級品が出てくるのだろう。是非とも早く食べてみたいのだ。

ルイも、シエナと同じように、料理に期待を膨らます。


「そういえばシエナさ、昼ご飯食べれるの?さっき屋台でめっちゃ食ってなかったっけ?」


ディアナの屋敷に行く道中、シエナが匂いに引き寄せられて、肉串の屋台に行った。

そして、ディアナが奢ってくれるのをいいことに、肉串を十本も購入して、全部食べたのだ。

しかも、肉串は、結構な厚みがあり、胃袋の満腹ゲージが、効率よく上げられそうなものなのだ。

そんなものを、沢山食べた後に、昼飯を食べるのは、きついと思うが。

そんな疑問を、シエナにぶつけると。


「大丈夫!昼ごはんは別腹だから!」


「いや、それを言うならデザートだろ」


意味不明な答えが返ってきたので、自然と口が動いてしまった。

やっぱりシエナの言うことは、全然意味がわからない。


そう思っている間に、長い廊下をぬけて、広間に着き、広間にあった、大きな階段を降りる。

そして、階段を降りて左手の部屋、両開きになっている扉に入る。そこには──、


「まあ、だよな……」


そこには、広い部屋があり、部屋の真ん中には、大きい縦長のテーブルが置かれていて、テーブルに備え付けられた椅子が、沢山並べられている。十人以上は軽く座れるぐらいに沢山ある。


部屋の奥には、暖炉が置かれており、天井には、シャンデリアのようなものが吊るされてある。


なんだろう、もう、こんなことで驚かなくなってきた。

むしろ、こんなことで驚かなくなってきた、自分に驚くという、意味がわからない状態に至っている。


「こことここの席に座ってください」


ディアナが椅子を指さしながら、そう言うので、指に刺された席に着席する。

そして、ディアナも椅子に座った。


ルイとシエナが隣の椅子で、ディアナは、向こうの椅子に座っている。机を隔てて対面している形だ。

テーブルには、既にナイフとフォークが置かれている。


「持ってきてください」


ディアナが横を振り抜いて、食堂の奥にある扉に向かってそう言う。


すると、その扉が開かれて、中から料理人らしき人達が出てくる。

それぞれ、クローシュが被せられた皿を持っており、次々と皿が運ばれてくる。


シエナとルイは、皿が運ばれてくるのを、まじまじと眺めている。

次々と皿が運ばれて、遂に最後のひとつが運ばれた。

クローシュで、料理が塞がれているのにも関わらず、蓋の隙間からいい匂いが漏れだしている。

この匂いだけでご飯10杯はいける。


すると、料理人が、ルイたちの隣にやってきて、クローシュの蓋の取っ手部分を手に取り、一気に開かれる。そこには───、


「えげつねぇな、これは」


皿の上には、肉、魚、野菜、スープなど、とにかく色んな種類の食べ物が並べられている。

ルイはこの景色を見て、パッと目を見開かせる。

隣を見ると、シエナは、相変わらず、目を大きく見開いて、黄金のように輝かせている。

口を大きく開き、料理を食べる前から頬が落ちていた。 食べた瞬間に昇天してしまいそうな程だ。


「では、みんなで手を合して」


ディアナがそう言うので、ルイも両手を合わせる。シエナも両手を合わせていた。


「いただきます」


「「いただきます」」


合掌して、いただきますと言うのは、すごく久しぶりだった気がする。

普段、いただきますは言うのだが、合掌することは、そうそうない。

食べ物に感謝を表すいい機会だった。まあ、今回は、食べ物だけではなく、ディアナにも感謝しているが。


こんな俺たちを、泊まらせてくれるだけではなく、こんな料理まで振舞ってくれる。

やはり、ディアナは良い奴なのかもしれない。さっきのパンツの件も許してやろう。


───ん?俺ってチョロくないか?


そんなことを思っていると、鼻からいい匂いがしてくる。

目の前には、数多く並べられた料理が置かれている。

考え事をしていたのだが、この料理を目の前だと、思考が強制的に奪われる。


「考え事は、食うもんを食った後だな」


手元にあった、ナイフとフォークを両手に取り、まずは、一番香ばしい匂いを漂わせている、ステーキを目にやる。


左手に持っているフォークで、肉を刺して固定し、右手のナイフで、一気に切り落とす。

肉を切るために、少しばかり右手に力を込めたが、その必要性はなかったようだ。

何故かと言うと、肉が、すごく柔らかいだ。力を込めなくとも切れてしまう。

流石高級品だ、素晴らしい。


そのまま、肉を一口分に切っていく。そして、全部切り終わった後に、一口分に切った肉をフォークを刺して、一気に口へと運ぶ。


肉をひと噛みすると、一気に口の中に、肉汁が溢れ出てきた。

美味しいという言葉では、到底言い表せない程だった。

噛めば噛むほど、肉の旨みが口全体に広がっていき、口も喉を胃袋も、全て蕩けてしまいそうだ。

満足感が湧き出てきて、幸せな気分が満ち溢れる。


それほど、絶品な料理を食べたシエナはんな反応をしているのだろうかと、横を見ると───、


「───」


無事昇天していた。


「シエナー!シエナー!おーい!シエナー!」


「はへっ!?え?どうしたのルイくん」


大声で名前を呼ぶと、シエナが正気を取り戻した。なんとも間抜けな顔だ。


「シエナ、お前気絶してたぞ」


「えっ!?嘘っ!また!?」


「またって……」


またと言うことは、美味しいものを食べたら気絶してしまうことが、何回もこういうことがあるのだろうか。なんともめんどくさいものなのなんだ。


「まあいいや」


気絶していたシエナのことは放っておいて、再び料理に目を向けて、肉を手につける。

口に旨みが広がって、頬が落ちてくる。再び、幸せな気分が満ち溢れる。


「シエナちゃん美味しい?」


「うん!うん!とっても美味しい!」


ディアナが疑問を口にすると、シエナは二つ返事でそう答える。

シエナは、目の前の料理を、ナイフとフォークを巧みに扱い、尋常じゃない速さで食べていく。


「お前は暴食という名を冠しているか!?」


お昼ご飯は別腹と言っていたが、本当にそうだったようだ。

みるみるする内に、料理が無くなっていく。料理を、一口食べる度に、顔が幸せに満ちていた。


「ふっ───」


そんなシエナの様子を見て、含み笑いする。ディアナも笑っているようだった。


そんな、幸せに満ちた空間が過ぎていった。





ღ ღ ღ





幸せな昼食が終わったあとは、街の観光の時間だ。

これからサントエレシアを観光しに行く。

なぜ観光しに行くのかというと。


「ディアナちゃん!これからこの街を観光でもしに行っていい?」


昼食が終わった際に、シエナがこう言い出したからだ。


「別にいいんだけど、シエナちゃん身体大丈夫なの?」


ディアナが、心配するように、シエナの顔を覗いているが、「大丈夫!食べたから治った」と、大きく首を振りながらそう答えたので、街を観光することになった。


「ディアナちゃんも一緒に来る?」


「いや、私は色々仕事があるから行けないんですよ、ごめんなさい。あ、そうだ、シエナちゃん、これでなんか買ったりしてもいいですよ」


ディアナに誘いを断られて、少し残念そうな顔をしている。

ディアナは、申し訳なさそうな顔をしつつ、お金を渡してきた。


「えっ!?こんなにくれるの?」


「うん、これでなんでも買っていいよ」


シエナの手にお金を渡して、笑顔でそう答える。見ると、シエナの手には、金貨が10枚握られていた。


「夕方までには帰ってきてくださいね」


「はーい!」


まあ、とりあえず、そんなことがあって、シエナと一緒に街の観光に行くことになった。


「で、どこ行くの」


「んーっとね、それは自然のままにだね」


「ねぇのかよ」


シエナが、観光したいと言うので、てっきり行きたい場所でもあるのかと思っていたが、そんなものは一つも無かったようだ。ぶらり旅みたいなものだ。


行くあてもないまま、のんびりと街中を歩く。

さっきまで、ボロボロで、汚かった兵士の礼服を着ていたので、街ゆく人に怪しい目で見られていたこともあったのだが、今は、着替えたので、もう安心だ。


「ねぇルイくん、あれ見て!」


「ん?」


二人で街を散策している途中で、シエナが前方を指さした。

ルイは、シエナが指さした前方を見ると。


「なんだこの建物」


目の前には、明らかに、他の建物とは違う、とても異質な雰囲気を漂わている建物があった。

建物の入口は、ウェスタンドアになっている。酒場か何かなのだろうか。


「ギャンブルだよ」


「え?」


「今からギャンブルしに行くんだよ」


「ギャ…ギャンブル?」


またいきなり、意味不明なことを言い出したので、困惑する。


「いや、ギャンブルって…そんなことに使ったら無駄なんじゃない、大丈夫?」


ルイ自身は、あまりギャンブルを好ましくは思っていない。

勝ったとしたら、ものすごい大金を手に入れられる可能性があるが、負けた時はものすごい痛手になってしまう。

それに、勝負に勝つ確率より、負ける数の方が圧倒的に高い。

故に、所持金を、一瞬で溶かしてしまいそうなギャンブルは、あまり好ましく思っていないのだったが、シエナは、鼻を高くし、胸を張り、その胸に手を当てて───、


「大丈夫、私に任せておくれ」


自信満々げにそう言った。


「私に任せてって、本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だとも、きっと何十倍にもお金を増やして見せるさ。まぁ、その時にはルイくんにも少しはあげてもいいんだよ?」


表面では、心配したが、本当と気持ちとしては、シエナを信用している部分もある。

ここに転移してから、シエナに頼ってばかりだ。

崖の時も、シエナが何かしらして、無傷で降りられて、魔獣の時も、見たこともないような、凄い武器で、魔獣を全員倒せてみせた。

絶対に無理だと思っていたが、シエナはどうにかして見せたのだ。

だったら今回のギャンブルも絶対にいける。シエナなら、何とかしてくれる。と、正直、シエナに期待に胸を膨らましている。


「あぁ、そうだな、シエナに任せるよ」


「ふっ、ルイくんもやっと私の凄さがわかったか」


任せると言った途端に、調子に乗ってきた、どれだけお調子者なやつなんだコイツは。


「それじゃあ、私のギャンブル姿を後ろからでも眺めといてください、私の華麗なギャンブルの腕前で、きっと、あなたを虜にしてみせますよ」


「あー、はいはい」


大きな声で、そう宣言するシエナに対して、適当に返事する。


「じゃあ、開戦!」


パッと目を見開き、胸の張って進み、ウェスタンドアが開かれる。

シエナの掛け声に、「おー」と棒読みで応答しつつ、シエナの後ろを着いていく。


シエナのギャンブルで、ボロ儲け大作戦、ここに開始。

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