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遠征






 ルーは言葉どおり、週末の遠征にかならず一緒に来てくれた。最初のほうこそルーの持ち出しがほとんどだった遠征費用も、薔薇の君のご褒美を毎回もらえるようになったので、その必要もなくなっていった。

 民衆達も、俺にさしいれしてくれたり、なかには商会単位でお仕えさせてくださいなんてひとも居て、その辺りはルーの秘書に任せて問題がないようにしてもらっている。ルーはフリュニエのお姫さまなので、秘書くらい何人も居るのだ。

 ルーは王子達によほど可愛がられているのだろう。トレ・ショーとは、ルーも一緒になってたまにお茶をしたり、ルーも含めて一緒に遠征をしたりするようになっていたのだが、ルーが黒ばらを気にいっていると王子達も把握して、俺には不用意に話しかけたりしないと、内々で協定が結ばれたらしい。

 その話をするトレ・ショーは、なんだか気が晴れたような顔をしていて、いまいち気持ちが読めなかった。




 そんなふうに、遠征は何度も積み重なった。青ばら達も、今では俺をばかにしたような言動はない。ただ、距離はある。


 薔薇の君がかわることはないだろう、と俺は思っていた。だって、薔薇の君は大公と一緒に、ポータルをつかって国中を飛びまわり、怪物退治やなにかに精を出しているのだ。昔の、都から出ない薔薇の君の時代ではない。


 薔薇の君が発表されるひと月前、俺はルーとトレ・ショーと、遠征に来ていた。最初に遠征した、フェルム穀倉地帯だ。

 怪物が大量発生したから来てほしい、と救援要請があったので、いつもは金曜日の午后に宮廷を出るのだけれど、予定を繰り上げて木曜日の昼に移動した。薔薇の君の許可はとっている。

 怪物が多いと聴いたので、ある程度駆除するまでは侍女達には来ないでもらおうと、俺達三人に、儀仗兵がふたりだけだ。突然の出発だったので、儀仗兵達は少ない。あとから一部隊が来てくれるらしい。


「怪物……あんまり居ないね」

 ルーが不思議そうに、俺を振り返った。ポータルのある場所から、怪物の姿はほとんど見えない。シーニュという一番弱い怪物、綿毛の塊みたいなやつが数匹、うごめいているだけだ。

 トレ・ショーがそちらへ行って、さっくりと聖なる剣で切ると、シーニュは消えてしまった。「怪物も居ないが、ひとの気配もないぞ」

 俺とルーは周囲を見る。ここのポータルは、農地のどまんなかにある。グランという、一年に二回とれる穀物の畑が、青々とひろがっている。その周囲は、背の高いブレという穀物だ。こちらはもう実がついていて、金色に熟していた。

 そのブレの間に、なにかきらりと光るものが見えた。俺はそれを、手庇して見る。

「ルーさま、あれ、なんですかね」

「え? ……黒ばらちゃん、危ない!」

 ルーが俺を突き飛ばした。転んだ俺の頭上を、なにかがとんでいった。






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