イケメン王子とのお茶会
青ばら達は不満そうだったが、それ以上薔薇の君に文句をいう者もなく、俺は魔法を沢山もらった。
得点に応じてもらえるものもだし、穀倉地帯であるフェルムの安全を、一時とはいえ確保したというので、治癒魔法をみっつ、物質を変化させる魔法をひとつ、物質を生成する魔法もひとつもらえた。それに、綺麗なペンダントも。ご褒美だって。黒い、荒くけずられた水晶がトップで揺れている。
「肌身離さず身につけているように」
「はい、陛下……」
薔薇の君に誉められ、沢山のご褒美をもらったので、王子達のなかで今まで様子見をしていたやつらが、俺に目をつけた。
「黒ばら、今週末は是非わたしと遠征に」
スリジエ家の王子のひとりであるトレ・ショーから呼び出され、お茶会へ行くと、そんなことをいわれた。俺は食べていたケーキが咽に詰まりそうになって、咳をする。
本当は来たくなかったのだが、侍女達が断ったら無礼だというので、渋々来たのだ。トレ・ショーは、大公候補のなかで一番偉いらしい。わからんがそうなのだ。
俺は咳をなんとかおさめ、お茶をすすった。
「殿下、あの、わたしは殿下のご期待には添えません」
「何故? わたしでは不満か?」
頭を振った。そうじゃない。
あの……きらきらのイケメンなのだ。肝が冷える。合わない。俺は男だから、可愛い女の子となら遠征に行ってもいいけど、こんなイケメンとキャンプなんて心臓が持たない。いつ間違いが起こるか。
トレ・ショーはむっとしている。
「では、どうして?」
「あの……わたし……あの……殿下のようなたくましいかたと一緒だと、あの、緊張してしまいます」
なんとかしぼりだした。トレ・ショーは、たくましいと誉められてちょっと嬉しそうだ。
「そうか。だが、なにも緊張することはない。あなたが薔薇の君になれば、わたしと結婚するかもしれないではないか?」
むせそうになった。思わず自信過剰かよとつっこみそうになったところで、廊下が騒がしくなる。
「なんだ? 儀仗兵?」
トレ・ショーが扉のほうを向くと、ばんと開いて、ルーがのりこんできた。
「トレにーさま、酷いよ! 黒ばらちゃんはルーのなの!」
「る。ルー」
「黒ばらちゃんも、トレにーさまよりもルーが好きだよね?」
ルーが涙目でいった。俺は思わず、頷く。
ルーは途端に、にっこり笑う。
「ほら。トレにーさま、諦めて」
「ルー、お前」
「今週も、来週も、その次も、黒ばらちゃんと遠征に行くのはルーだから! わかった?」
トレ・ショーも、勢いにおされたのだろう。こっくり頷いた。それから、発作的にくすくす笑う。「お前がそんなに黒ばらを気にいっているとはな。知らなかったんだ。わかった、お前の黒ばらは手折らない。ごめんよ、ルー」
「そうだよ、ごめんなさいしなきゃだよ」
ルーが口を尖らせていい、トレ・ショーは大きな声で笑った。どうやら、イケメンとフラグを立てることはなかったようだ。ほっとした。