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優しいルー






 俺はお辞儀した。「ルーさま」

「まだ、どこか痛いの? 青ばらちゃん達を呼ぼうか」

 ルーは心配そうに小首を傾げた。両手で大事そうに持っているのはもぐらだ。ルーはいきものが大好きなのだ。

 俺は頭を振った。

「大丈夫です」

「でも、溜め息吐いてた……」

 ルーの目がうるうるしはじめた。俺もつられて目が潤んでくる。もぐらが鼻をひくひくさせている。

「お散歩しない? ルー、景色がいいとこ、見付けたんだよ。鳥さん達が沢山来るんだ」

 俺をはげまそうとしてくれているらしい。侍女達が前のめりになった。「黒ばらさま、少し歩いたほうが宜しいですわ」

「気が塞いでいるのもよくなります」

 侍女達には普段、肩身のせまい思いをさせているし、俺はルーと親しくしたい。なので、ルーの申し出をうけた。


 ルーはお散歩といったが、宮廷の端にある天文台まで行って、しかもその長ーい螺旋階段をのぼりきる、という、それなりに体力をつかうお散歩だった。でも、ルーは道々、動物や海の話(ルーは幾つもの小島からなる国で生まれ育ったので、海が好きだ)をしてくれて、黄ばらとのやりとりをその間は忘れられた。

 天文台の一番上には、鳥の巣が幾つもできていた。離れたところにあるので、それぞれの縄張りを侵犯してはいないらしい。喧嘩は起こっていない。

 俺達はあまり近寄らずに、親鳥が小鳥に餌をあげるのを見ていた。「みんな、邪魔だからって鳥さんのお家を別のところへ移すっていうんだよ。でもね、お父さんとお母さんは、どちらかは食べものをとりに行ってるから、その間にお家の場所がかわったらわからなくなっちゃうでしょ。そういって、ここに残してもらったの」

「ルーさま、優しいんですね」

 ルーは嬉しそうににっこりした。小さくてやわらかい手が俺の手を掴む。「黒ばらちゃん、どうして元気がないのか、ルーに教えて。ルー、黒ばらちゃんのこと好きだから、応援したいの」


 ルーの率直な言葉に、俺は黄ばらに借金を申し込んで断られたことを明かした。ルーはむっとしている。

「黄ばらちゃんは、優しくないね」

「いえ、わたしもよくないんです。将来のお金をあてにして借金を申し込んだんですから、断られても仕方ないです」

 だからって、家族のことまでいわれる筋合いはないのだが、それに関しても俺は聴かなかったことにした。ルーにも喋っていない。侍女達だって、口にはしないだろう。

 ルーは口を尖らせていたが、不意に俺に抱き付いてきた。「ルーさま?」

 ルーはすぐに離れていった。にっこり笑っている。ポケットからもぐらが顔を覗かせた。

「それじゃあ、ルーが黒ばらちゃんに、お金、かしてあげるよ。ルー、お金持ってるから」

「え? でも……」

「ルー、黒ばらちゃんの応援する」ルーはぴょんと跳ねる。「黒ばらちゃん、怪物と戦うのこわいんだと思ってたから、今まで応援しなかったの。でも、戦うなら、ルーが応援したい。黄ばらちゃんみたいに意地悪いう子からもまもってあげるよ。いいよね?」

 悪い訳がない。俺は頷いてから、ルーに頭を下げ、ありがとうございますといった。


 その週末、俺はルーが用立ててくれた銀貨で買った聖なるドレスを着て、聖なる杖を持ち、ルーにも聖なる装備品を身につけてもらって、怪物退治に出た。初めての、地方への遠征だ。

 そもそも、ルーは強いらしい。実際、戦っているのを見ると、それはわかった。かわった形の剣? を持って、怪物達を簡単に切り裂いていく。

 侍女達は戦えないので、キャンプ地みたいなところでじっとしている。勿論、俺とルーがふたりきりではなく、儀仗兵達が一緒だ。侍女達も彼らがまもっている。

 治癒魔法を持っていないので、傷薬を持ってきた。ルーは強いが、敵に接近して戦うので、怪我はどうしてもある。傷薬は小さな怪我ならすぐに治してしまうので、俺はちまちま、ルーの怪我を治した。

 一応、俺は攻撃魔法をつかえるので、それをつかって怪物を倒した。結構醜悪な外見で、人間を見ると襲いかかってくるので、動物好きのルーも躊躇なく倒している。怪物は災害の一種という認識だ。


 ルーも俺も、大きな怪我なく、ふつかにわたる遠征を終了した。誰ひとり欠けることなく、ポータルをつかって宮廷へ戻ると、現薔薇の君から呼び出しがあった。そうだ……今日は、二ヶ月に一度の、中間発表の日じゃないか。






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