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目標決定!






 妹がいつも攻略していたのは、「スリジエ」「フリュニエ」「ペッシェ」という大公になれる家柄のうち、ペッシェ家のやつだった。高身長でイケメンだが、威圧的でぶっきらぼう、というなにがいいのかわからんキャラである。

 ゲームは、薔薇の君候補で薔薇乙女である主人公が、お城のなかにある薔薇乙女用の宿舎で説明をうけるところからはじまる。


 その説明をしてくれるのが、黒ワンピースの侍女達だ。彼女達は熱心な信徒の家の子達で(勿論、そうはいっても一般市民ではなく貴族出身がほとんどだ)、薔薇乙女の生活をサポートする。身のまわりの世話をしてくれる、のである。


 その後、あたらしい薔薇乙女達は広間へ集められ、親睦会を兼ねた食事をする。薔薇乙女達は、魔法の適性が高い女の子達なので、人数は多くない。全部で四人だ。次の薔薇の君になるかもしれないということで、それぞれあだなで呼ばれ、丁重に扱われる。

 ひとりは貴族出身の、サフィール・シエル。空色の髪の美少女で、あだなは「青ばら」。

 次が商人の娘で、アンブル・ジョーヌ。淡い黄色の瞳で、あだ名は「黄ばら」。

 三人目は学者の娘の、グルナ・エキャルロット。あだ名は「緋ばら」。

 そして四人目が俺、黒く豊かなロングヘアをふたつお団子にした、一般市民の娘、「黒ばら」だ。


 実は、その食事会は、大公候補達の下見の場でもある。壁に細工がされていて、悪趣味なことに覗けるようになっているのだ。気にいった子が居れば、広間に乱入してその子を捕まえ、早速遠征へ、なんてこともある。まあ、妹が攻略してたキャラがそういうタイプなんだが。

 その場では選択肢が出て、それを選んでいく。薔薇乙女らしい選択肢を選び続けると、ペッシェ家の王子さまが来て、都の周囲の怪物を退治しにいくぞ! となるのだ。

 反対に、薔薇乙女なんてなりたくなかった、みたいな発言を続けると、ペッシェ家の王子の印象は最悪になり、別ルートへはいる。

 ということで、俺はそのふたつのはじまりしか知らない。


 俺が都に来て、ふた月くらい……だろうか。なので、もう親睦会は終わっている。緋ばらと青ばらは食事会終わりに王子達と庭の散歩へ行ったし、黄ばらはどちらかというと実家の商会を王子達に売り込むことを信条としていて、その為に大公候補全員と均等に付き合いしている。


 俺はそういうのはなにもなかった。


 きちんと聖典を読み、聖堂に参ってお祈りし、週末の怪物退治にも欠かさず参加しているのだが、王子達は後ろ盾(貴族出身の青ばらには強力な人脈がある)も、財力(黄ばらの実家は公国で一・二を争う大商会だ)も、知識(緋ばらは学者の娘で、魔法の力が顕現するまでは彼女自身も学者を目指していた)もない、逆さにして振っても単なる一般市民の娘でしかない俺に、あまり興味を持っていないようだ。

 ゲームだとだめなのだろうが、俺はこの情況には満足している。だって、外側が美少女といっても、中身は男子高校生である。イケメンに口説かれても嬉しくない。


「黒ばらさま、ご気分はいかがですか?」

 侍女のひとりが、ベッドサイドテーブルの上の花をかえながら訊いてきた。俺は微笑む。「大丈夫です。あの、なにがあったんでしょう」

「覚えてらっしゃらないのですか」

 侍女は気の毒そうにいい、頬に手をあてた。侍女達は服装が同じ、体格もほぼ同じ、髪の色も同じで、見分けがつかない。スチルのつかいまわしである。

「お気の毒に……森の外れの廃墟にすくった怪物を退治する際に、こうもりに襲われて、階段から落ちて仕舞われたのですよ」

「まあ」

「ルーさまがとりみだしてしまって……」

 うん?

 ルーちゃん、一緒に居たんだ!


 各家の王子達と付き合いをしていく上で重要になるキャラ、それが、フリュニエ家の女の子、ルーだ。

 ルーはジャルディニエの友好国である、遠く離れた国で生まれ育った。父親が特使というやつだったらしい。三人居る、雰囲気の違う格好のキャラのひとりだ。

 南方で生まれ育ち、しかもそちらのひととの混血で、肌は浅黒い。赤みの強い長い茶髪をふたつに分けて、肩のところでゆるくくくっている。銀色のきらきらうるうるした大きな目の、小柄で華奢な美少女である。

 南方の国で生まれ育ったので、ほかのキャラが大体ヨーロッパの貴族や王族、もしくは軍人のような格好をしているなか、ルーはけしからんことに生足を大胆にさらした丈の短いワンピースにいろいろぎりぎりなショートパンツだ。しかもうすい胸が見えそうな襟許である。


 そのルーも、一緒に遠征へ行ったりできるし、デートもできる。

 どうして女の子が居るのかと思っていたが、妹に拠れば乙女ゲームというのはそういうものらしい。女の子との友情エンドもあるんだそうだ。ライバルである青ばら達との友情イベント、友情エンドもある。隠しルートで、薔薇の君兼大公になる、なんてものもあるそうだ


 それにルーは、当然だけれど美少女だから王子達から可愛がられている。王子達にくわしいのだ。なんでもない時にルーを尋ねてお喋りすると、攻略したいキャラクターについて情報を仕入れることができる。

 主人公が一番親しくしているキャラクターについての話になり、リオンにーさまはお菓子がお好きなんだよ、とか、リオンにーさまは今頃川辺でお散歩しておいでじゃないかなあ、とか、そういうことをいってくれるのだ。それが攻略のヒントになる。ルーから仕入れた情報は情報画面で表示されるので、いちいち攻略本を開くのが手間と、妹は最初の頃にルーのところへ通って推しキャラの情報を埋めていた。


 ルーと怪物退治かあ。かすかに覚えている気がする。俺、というか黒ばらは、真面目に頑張っていたけれどスポンサーは居ないし、ほかの薔薇乙女達にかなり水をあけられているのだ。選考期間はまだまだあるのだが、すでに王子達からは見放されている。

 勿論、将来大公になるかもしれないひと達なので、俺に対して態度が悪いなんてことはない。薔薇の君になれないとしても俺はもう薔薇乙女だし、薔薇乙女達は軍とは別の、武力をもった組織なのだ。怪物退治にかならずかりだされるひと達でもあり、おろそかにはできない。

 だから、王子達はあくまで紳士的……ふたりくらい舐めた態度をとってくるやつが居るがそれはキャラ設定的に仕方ないとして、まあ理性的である。

 ただ、遠征に一緒に来てください、というのは、親しくないと断られる。黒ばらは今まで、誰からも断られていて、この間たまたま、植物園で虫取りをしていたルーに会い、それならルーが一緒に行ってあげるよと優しい言葉をもらったのだ。


「ルーさまには、謝らないといけないですね」

「そのような……ルーさまは、黒ばらさまに怪我をさせてしまったと、しょげておいでですから、あまりそのことはおっしゃらないほうが」

 それもそうか。ルーは元気な子だが、黒ばらが怪我をしたりすると相当心配するのだ。それはゲーム画面で見た。


 うん……友情エンドか。いいな。


 さいわい、といったら変だけど、俺の成績はよくない。薔薇の君にはなれないと思う。なら、王子達と無理に付き合いをする必要もない。

 ルーちゃんとなかよくしよう! 黒ばらよりもちっちゃくて可愛いし、美少女だし、優しいし、親友になれそうだ。そして、できたらそれ以上も……。

 幾ら体が女になったからって、気持ちはまだ男である。可愛い女の子とお近付きになる機会があるなら、頑張って当然だろう。






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