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乙女ゲーとしての世界観の話






 ローズプリンセス。1990年代後期の乙女ゲー。乙女ゲームとしては古典の部類にはいる。当時はそれなりに売れたし、数本続編も出たが、世界観や設定、ゲームシステムはローズプリンセス2のものがその後の続編でもつかわれていて、無印はまったく違うゲーム……らしい。


 俺はしがない男子高校生だった。生まれたのはローズプリンセスよりもあと。乙女ゲー含む恋愛シミュレーションゲームには興味なし。FPSが好きだ。

 その俺がどうして自分よりも歳上のローズプリンセスを知っているのか、というと、妹がやっていたからだ。


 妹は所謂「ヲタク」である。特に声優が好きで、なかでもあるひとの熱心なファンだった。

 で、ローズプリンセスだが、その声優のデビュー作なのだ。

 その声優のファンの間では巡回すべき作品として位置づけられているそうで、妹はソフトどころかゲーム機本体まで中古屋巡りして手にいれ、毎日のように居間でやっていた。

 夕食をもの凄い勢いでかきこんで、歯も磨かずにゲームを始めるのだ。暢気に飯をくっている俺は、いやでもそれを見ることになる。しかも、このキャラが喋る時は静かにしてねっ、という厳命付きだ。妹がローズプリンセスをやりはじめて以来、我が家の夕食は静かなものになった。


 はじめると風呂にはいる時間までみっちり二時間やっているので、俺が食後に居間でごろごろしている時間とかぶる。好きとか嫌いとかではなく、どうしてもローズプリンセスの内容が頭にはいってしまった。




 舞台はヨーロッパふうの、ジャルディニエ公国。剣と魔法の異世界である。

 ジャルディニエ公国には変な決まりがあって、それがローズプリンセス。作中では「薔薇の君」と表記される。

 ジャルディニエの大公は、薔薇の君が選ぶのだ。




 妹が何周もしていたので、スキップできない導入部分を何度も聴くことになり、頭にこびりついている。

 ジャルディニエ公国は王家がみっつある。そこから、大公になるひとが選ばれる。

 昔はもちまわりだったが、当人達で決めていると殺し合いに発展してしまうので(勿論この辺りはもっと婉曲に表現)、神さまに祈ってご神託をもらった。


 あたらしき薔薇の君に選ばれし男児その者を娶りて大公とならん――と。


 そもそもそれ以前から、薔薇乙女、薔薇の君というのはあったらしい。

 要するに宗教的なアイコンである。条件を充たした娘達を都のお城へつれてきて、宗教的なしきたりを覚えさせ、地方へ送って伝導というか、正しい信仰を教える、みたいな、まあこの国のひと達は基本的に国教を信じているので伝道でもないんだが。

 説教をする尼さんを養成する機関みたいなのが、そもそもジャルディニエ公国にはあった。で、その尼さん=薔薇乙女達のなかで一番「徳が高い」人物が、薔薇の君に選ばれる。徳が高いっていうのは、ボランティアに精を出してるとか、怪物退治を頑張ったとか、細かい審査基準があって決まる。神託ではない。


 薔薇の君は基本的に都を動かず、薔薇乙女達を統制し、大公の補佐をするのが、それまでのジャルディニエ公国のあたりまえだった。

 薔薇乙女達は任期があって、四十歳を超えると辞める。怪物退治などもある激務だからだ。尼さんだが、神さまと結婚する訳ではないので、薔薇乙女期間中も結婚は自由にできる。

 ただし、薔薇の君だけは、薔薇の君を辞めないと結婚できない。普通は三十歳を過ぎると「得点」がさがって、ただの薔薇乙女に逆戻りするものらしいが。

 だから、その薔薇の君と結婚したら大公、というご神託は、意外なものだった。


 といっても、誰が大公になるかでもめていたからご神託をうけたのだ。それに神を信じているひと達である。そのとおりにした。

 まず、薔薇乙女の基準を充たす者を集めた。その子達を都につれてきて、魔法のつかいかたを教えたり、読み書きを教えたりする。その後、薔薇の君を選出する期間にはいる。


 都につれてきたところで、各家、もしくは大公候補者は、「見込みがありそう」な子を選び、援助をはじめていい。

 例えば、勉強に必要なものを用意してあげるとか、気晴らしに買いものへつれていくとか、おいしいものをさしいれする、など。なかにはぽんと大金を渡す人物も居る。単純にいえばスポンサーだ。

 お金があればワープで地方まで遠征して怪物退治し、田舎の村に防壁をつくって安全にする、なんていうボランティアもできる。なので、「得点」がたまっていく。

 その得点が、その年の間に現在の薔薇の君の得点を超えれば、次の薔薇の君の誕生だ。

 そして、その薔薇の君が選んだ人物が大公になる。




 薔薇の君はかわりやすいものだったのだが、大公の后になれば話は別だ。怪物退治にかかるお金を捻出しやすくなる。なので、薔薇の君の座をなかなか降りることはなく、薔薇乙女のような定年もないので、最初の大公の后兼薔薇の君は、随分長く薔薇の君をやっていた。

 なので、大公もずっとその座に居た。その間、政治的な争いはあるものの、「神託によって決まった大公」を物理的に傷付けようとする者はなく、平和な時期が続いた。

 それで、この方法で大公を選ぶのは間違いもなくその後のもめごとも少ないというので、それ以来ジャルディニエでは薔薇の君が大公を選ぶようになったのである。






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