懊悩
薔薇の君の退位はすぐに、国民に報された。といっても、式典もある、次の薔薇の君の即位もある。まだ薔薇の君は、その座を完全にはおりていない。
なので、その間、俺は薔薇の君についてまわるか、薔薇乙女達に頼んで、いろんなことを教えてもらった。宗教行事についてもだし、この国の歴史、地理、貴族達のパワーバランス、みっつの王家の内情、経済的なことなど、覚えられるものは覚えて、無理なものはメモした。
国の決まりで、俺は薔薇の君になるしかない。逃げることはできない。なら、まわりに迷惑をかけないように、きちんと勉強をしないといけない。でないと、俺がへたを打ったら、黒ばらの家族のような一般市民が割をくう。それは避けたい。そういう気持ちだった。
でも……薔薇の君は、大公を選ばないといけない。夫になるひとを。ルーは女の子だからだめだ。トレ・ショーなら……ううん、そんなの、トレ・ショーに悪いし……。
査問がすべて終わったのは、二週間後だった。
青ばらは、東の魔境近くで労役を課され、青ばらの実家は領地を半減させられた。青ばらは治癒の魔法をつかえるので、兵達の治療にあたるらしい。
青ばら自筆の謝罪の手紙が届いたが、ルーも危険にさらされたのだと思うと、減刑嘆願はできなかった。
黄ばらは一族揃って、財産没収ののち国外追放になった。彼女と彼女の家族がなにをしたか――畑を焼いて、他国から輸入したものを大公へ献上し、恩を売ろうとしていた――は、敵対状態にある国にさえもきちんと伝えてある。この状態で彼女達をまともに入国させる国があるか、俺には判断できない。
ただ、ある意味温情でもあると思う。もし黄ばらも労役を課せられていたとしたら、そこで私刑にされていたかもしれない。
黄ばらからも謝罪の手紙は来たらしいが、俺は見てもいない。ルーが、そんなものを黒ばらに見せたら見せた者を罰すると、そんなふうに命じたからだそうだ。
緋ばらは、青ばらとは別の地域で労役につくことになった。やはり、負傷兵の治療などをするそうだ。家族は莫大な罰金を払いきれず、家土地だけでなく本や美術品なども売り払い、都を去った。
緋ばらからは謝罪の手紙は来なかった。緋ばらの両親からそういうものが届いたが、娘の減刑嘆願をしてほしいと訴えるもので、俺はどうしようもなくて薔薇乙女にそれを預けた。