あたらしい薔薇乙女達
「おお、薔薇乙女達よ」
トレ・ショーが機嫌よくいった。
宮廷前のポータルは、転移につかえるものだ。薔薇乙女達はここから地方へ遠征に行き、戻ってくる。
だからか、青ばら達がそれぞれ懇意にしている王子達と一緒に立っていた。儀仗兵や、それぞれの侍女の姿も見える。
黄ばらがポータルをつかおうとしていたようだが、俺達が居るのでできない。俺ひとりなら黄ばらはいやみのひとつもいっただろうが、大公候補のなかで一番偉いトレ・ショーに、みんなに可愛がられているルーが居るのだ。なにもいわずに、数歩さがった。
「トレ、はやかったな?」
長い金髪に虎のような目付きの、たくましい王子、リオンが、低い声でいった。あいつが我が妹の最愛のキャラクターだ。
リオンは荷車に気付き、顔をしかめる。「なんだ、そいつらは」
トレ・ショーはにっこりした。
「怪物が大量発生したというのは虚偽の報告だった。こいつらが村をふたつ、脅して、そういう報告をさせたんだ。黒ばらを傷付ける為に」
え、そうだったの? ……あ、そうだ、ルーは俺を庇って怪我したんだ。
トレ・ショーはカードのようなものをぽいっとした。「ジョーヌ商会の者も居たが、なにか申し開きはあるか、黄ばら?」
え?
黄ばらが怒りに顔をゆがめ、まっかになった。隣に居たルカン王子がぎょっとして黄ばらを見る。「アンブル、君は……」
「あたくしはなにも存じません!」
黄ばらは大きな声でいい、顔を覆った。泣き声でいう。「酷いわ! 黒ばらがあたくしをおとしいれようとしているのね! トレ・ショーさまとルーさまは騙されておいでですわ!」
「そうかな」
トレ・ショーはにやにやしていた。黄ばらが喚く。
「当然ですわ! あたくしには黒ばらを害する理由など」
「黄ばらのお家がよその国から食べものを仕入れてるのは知ってるよ。特に、沢山のブレをね」
ルーがひややかにいう。リオンが眉をひそめた。
「ルー、どういう意味だ」
「こいつらは黒ばらちゃんを襲って、畑に火をつけた。黒ばらちゃんが急いでなんとかしてくれたの。黒ばらちゃんが居なかったら、ブレは今年、国民の半分にも行き渡らなかったよ」
リオンの顎がさがった。その隣で青ばらがいう。
「トレ・ショーさま、黄ばらを疑うのにはあかしが足りないのではないですか? 黒ばらが黄ばらをおとしいれようとしているかもしれないではないですか。自分の功績とする為に、畑に火をかけるふりをしたのかも」
「そうです、殿下」緋ばらも追随した。「黒ばらが自分のいいところを見せようとして」
「黙れ!」
俺はびくっとして、かたまった。
ルーの髪を縛っていた紐がゆるみ、はらりと地面に落ちる。ルーの髪の毛がぶわっとふくらんだ。
ルーは三人を睨んでいる。銀色の目がらんらんと光っていた。額と頬に、赤い模様のようなものがうきだしている。
ルーはひび割れた声でいった。
「黄ばらが関係しているあかしがないというなら、黒ばらが企んだというあかしなどひとつとしてない! 薔薇乙女の仲間をおとしめるような発言をしているのはお前達だ! はじをしれ!」
ルーの豹変に、黄ばらが本当に泣き出した。青ばらも、緋ばらも。
俺は呆然としていた。