蘇生魔法
頭に魔法が流れ込んできた。「ソヴァール……?」
ペンダント……あのペンダントだ! 薔薇の君に戴いたご褒美。肌身離さず身につけるようにといわれたもの。あれを、俺はいつも首にかけて、なくしたらいやだからドレスの下にいれていた。
あれ、魔法を封じ込めたものだったのか。だったらどうして、今まで弾けなかったんだ?
ルーが身動ぎした。
「くろばらちゃん?」
「る」
涙がこぼれる。
ルーの肩に刺さっていた矢が落ちた。
俺の泣き顔に、ルーは表情を険しくした。ルーは腰の剣を掴みながら立ち上がると、無言でどこかへ走っていく。今まで気を失っていたのが嘘みたいに。
儀仗兵達が呆然としていた。
端的にいうと、ルーとトレ・ショーは、傷だらけで戻ってきた。俺は怒りながらふたりを治療した。まだ、ルーの気絶のショックがぬけていなくて、泣いていたので、ふたりともにやにやしていた。こんな時のルーは可愛くない。
「無茶はよしてください」
「それは君もだろう、黒ばら。まあ、そのおかげで、穀物はほとんどなにもなくてすんだのだが」
トレ・ショーはそういいながら、足許で伸びている覆面の連中を見た。「儀仗兵達、一番近くの村へ走ってもらえるか? こやつらを運ぶ荷車が要る」
儀仗兵達が怯えきった農民達をつれて戻ってきた。荷車も一緒だ。
トレ・ショーとルーは、襲撃者達の覆面をはぎ、持ちものをあらためているところだ。その半分は騎士で、半分は傭兵のようだ、とのこと。そのうちひとりが持っているカードのようなものを見て、トレ・ショーはしばらくかたまっていた。
俺も手伝おうとしたが、黒ばらちゃんはだめ、とルーに停められた。男のひとに触ったらだめなんだよ、とむくれていたのが可愛い。
「殿下」
「ああ、ご苦労だった」トレ・ショーが男を踏んだ格好で振り向く。「なんだ、手伝ってくれるのか、民達よ。しかし今は、大事な刈りいれの時期だろう。くだらぬ争いでお前達の手を煩わすつもりはないぞ」
農民達が這いつくばった。トレ・ショーはぽかんとし、ルーは首を傾げる。
儀仗兵達が説明した。
「この者達は、そやつらに脅され、家に閉じこめられていました。殿下がたにご注進せぬように」
「なに?」
「ひどい」
ルーが近場の襲撃者の頭をぱちんとはたく。「農民達をこわがらせるなんて! トレにーさま」
「ああ」
トレ・ショーが拳をつくった。「農民達よ、お前達を脅かした者はこうなる。お前達が怯えて縮こまる必要はない。いつだってわたしやルーや、王子達が、こういう愚か者どもを捕らえ、鉄槌を下すからな。よく見て覚えておくといい」
トレ・ショーはそういって、襲撃者のひとりをぶん殴った。
荷車に襲撃者達をのせ、トレ・ショーと儀仗兵が運んだ。農民達は手伝いを申し出たが、トレ・ショーは王子の矜持がそれをゆるさないと断った。
「お前達は丹精していた畑を荒らされたのだ。その分は我が家がなんとか補填しよう。こわい思いをした女や子どもにもなにもないように、薔薇乙女達も要請する。都へ戻ってそのように手配する故、しばし、待っていてくれ」
トレ・ショーのどこまでも礼儀を重んじる態度に、農民達は目をまるくしている。トレ・ショーは凄くいいやつなのだ。もし俺がローズプリンセスをプレイしていたら、トレ・ショーを攻略したかもしれない。
その晩は、一番近くの村へ泊めてもらった。その間に、侍女達と儀仗兵達がやってきて、トレ・ショーとルーが経緯を説明した。
そこから、ポータルのある村は、なかなか遠い。これで、最初の遠征から帰るのが遅れ、中間発表に遅刻してしまったのだ。
次の日になって、俺達はポータルをつかい、荷車ごと宮廷のまん前へ戻った。