山登り
カッター訓練は海上自衛隊幹部候補生らしいものだが、基礎体力の向上として、これ等の他に幹部候補生には、山登りが課せられる。
第16部古鷹山でも紹介した通り、赤レンガの近くにある標高392メートルの古鷹山をダッシュで登るのだ。海野にとっては、カッター訓練よりも、山登り以上にタフで嫌いだった。海野は元々、学業では非の打ち所はないのだが、肉体面では、他の幹部候補生より劣っていた。
その為、自分自身でも嫌だと言う気持ちはあっても、基礎体力の向上が課題であると言う自覚はあった。それでも海野は座学の勉強と基礎体力の向上の違いにより物凄く苦しんでいた。
勉強は分からない事、出来ない事があっても自己修正が可能である。ところが体力や肉体はやればやっただけの効果が必ずしも保証されていない。つまり、体力の無い者はいくら努力しても、元来体力のある者には勝てない上に、人によって個人差がある。と言う事に気付いていてもおかしくはない年齢である。
最も部隊の中でも、幹部自衛官が体力バカである必要は、必ずしも無い。部下の曹士隊員が補ってくれるからだ。しかし、幹部自衛官と言う者が曹士隊員より体力で劣っているのは、何処か体裁が悪い。海野の様に、体力的に不安を抱える幹部候補生は少なくはない。
そうとは言え、毎日毎日やっていればそれなりの体力はつく。基礎体力の底上げは、赤鬼と青鬼の仕事だ。年齢的にもまだ諦めるには早い延び盛り。まぁ、色々と苦しいがこれも幹部自衛官になる為のハードルだと思えば、頑張れるはず。海野は、そんな苦しい中でも、唯一達成感を味わえた瞬間があった。
山登りを終えた時に見える横須賀の町並みである。あの景色を見たいが為、苦しい山登りにも耐えられる。そして、大声で同期の桜を熱唱する。それだけで、疲れも飛んでいく。
体力と言うのは、自衛官にとって必須スキルである。少々の事ではへこたれない、丈夫で屈強な自衛官になる様な教育が、赤レンガでも施されている。




