ペナルティー
第5章 ステディ
鉄拳制裁が自衛隊では禁止されていた事は、既に述べたがその伝統は、"課業"として残っている事も、述べた。この"課業"こそ、幹部候補生達を苦しめるものであった。
海野自身も連帯責任での"課業"に苦しめられていた内の一人であった。"課業"は、基本的に連帯責任である。海上では、一人の落ち度で艦が危機にさらされる事は、誰でも分かる。艦の上では一蓮托生。その意識を幹部候補生学校では、徹底的に叩き込まれる。一見すると理不尽に思われるかもしれないが、部隊に配置されれば、そこには沢山の部下がいる。部下がミスをすれば、その責任を取らなくてはならない。これはどんな組織でも、当たり前に行われている事だ。
そうした事の耐性に慣れさせておく為のペナルティー(課業)である。部下が失敗しない組織など存在しない。だからこそ小さな事でも見逃さずにストイックにならなければ、多くの部下を抱える立派な幹部自衛官にはなれないのである。体も鍛えられて、一石二鳥ではないか。上官として幹部自衛官たる者、自覚と責任は重く、その双肩にかかるプレッシャーは半端なものではない。
"課業"も立派な幹部候補生教育の一貫なのである。これをせずに幹部自衛官になると、現場で困る。幹部自衛官とは、百々のつまりどこまでも部下の失敗を被れるかと言う部分が大きい。上官として部下を守るためにも必要な要素である。
連帯責任を取る事によって、問題を起こした人間のみならず、問題を起こしていない人間の意識をも喚起させる事が出来るのが"課業"(ペナルティー)制度の良い所ではある。戦場では、一人のミスで乗っている艦船を失う事も有り得る。そして何よりも、一人のミスで勝敗が決する可能性もある。
そうした中にあって、まず幹部自衛官にそういった危機意識がなければ、どうしようもない。それは、現場に行って直ぐに身に付くものではない。こういう物であると言う教育が為される事によって、幹部自衛官としての自覚と誇りが生まれていて行き、一人前になって行く。
人間として成長すると言うよりは、幹部自衛官として一つもミスを起こさない姿勢が大切なのである。赤レンガでは、この様な風習もあるのだ。




