同期の桜
「貴様と俺とは…。」で始まる"同期の桜"は軍歌である。海野は防衛大学校出身の為知っていたが、赤レンガに来る幹部候補生の中には一般大学や大学院出身の人間もいる為、この赤レンガに来て初めて"同期の桜"を耳にするという人もいる。"同期の桜"は、帝国海軍の時代からある日本を代表する軍歌であり、この歌を知っている高齢者もいる。今日に至っては自衛官位しかこの歌を知っている人間はいないだろう。
"同期の桜"から分かるように、帝国海軍も海上自衛隊も、共通して同期との繋がりを大切にしようと言う風習がある。例えば、自衛隊入隊時期が同じであれば同期であるし、防衛大学校の同学年や、海上自衛隊幹部候補生学校入学時期が同じであっても同期である。
同期と言う言葉は、何も軍人だけの専売特許ではない。小学校、中学校、高校、大学、社会人でも、同期は存在するし、民間会社でも同期と言う言葉は使われている。事において軍隊での同期は戦友となりうるものであり、表面的なやり取りでは、お互いの命を預ける事など出来ない。
桜は日本の国花であり、国木であるから直ぐに分かる。"同期の桜"に込められた先人の想いを考える事も、自衛官としての教養を高める事に繋がるであろう。海野はこの古くさい歌が好きだった。仲間と共に肩を組み"同期の桜"を熱唱するのが、彼の楽しみでもある。
海野の様に防衛大学校を卒業して赤レンガに来た人間にとっては、青春を自衛官になるために捧げて来た様なものであり、一般大学を卒業してきた人間とは少し違うのだろう。無論、防衛大学校学生には、彼ら独特の青春がある。それを一般人が理解するのは容易ではない。将来の幹部自衛官の卵である彼らにはそれなりの過ごし方があるのは確かだ。
とは言え、防衛大学校学生も神様ではない。飯を食えば風呂にも入るし、便所にも行く。我々一般人と大して変わらない人間なのである。そんな防衛大学校学生の士気をあげる歌、また卒業すれば懐かしい歌が、"同期の桜"と言う歌なのである。




