「拙速」
「拙速」とは、多少出来が悪くても、期限に間に合ってこそ意味があると言う意味の言葉で、この「拙速」は日本海軍でも重要視された。今の自衛隊はやっていないだろうが、軍艦を作るにも戦闘機を作るにも戦いの期日に間に合わねば意味がない。そもそも、戦いにならない。だが、多少出来が悪くても、納期に間に合っていれば、どうにかなるのである。
帝国海軍が納期に間に合わせる事を重視した背景には、仮想敵国であったロシアや米国に比べて戦力が圧倒的に不足している事にもあった。ロンドン海軍軍縮条約など数多くの軍縮条約に調印してきた大日本帝国だったが、当時の日本にあっては、発注した軍艦や航空機の完成が遅れる事は、直接国防上の脅威に成り得た。
だからこそ、たとえ少し位の不出来でも、納期に間に合わせる事を重視した。無論、ポンコツや欠陥品は例外であるが…。日本の造船技術は明治の開国より、常に世界トップクラスのものがあった。その造船技術は、海上自衛隊にも脈々と受け継がれている。その日本の造船技術を持ってしても、「拙速」を求めるのであるから、帝国海軍の注文は、無茶ぶりも良いところであった。
しかしながら、造船職人にもプライドがあるから、何とか納期に間に合わせ様とする。造船業というのは、船を作ってナンボの世界である。多少の不出来が許されるとは言え、それは職人のプライドが許さないであろう。造船と言うのは、恐ろしく時間のかかる仕事であり、本来なら「拙速」など求めずに、余裕分を持っておく事が大前提となる。
戦時中の様に緊急を擁する場合においては、その限りでは無いのかもしれないが、基本的には長いスパンと行程を経て、良い船を作る。帝国海軍としても、良質な艦船の方が戦力は、上昇していく。現場で手直しを加えなければならない様な艦船は、戦力のダウンにつながる。
とは言え、期限に間に合ってこそ意味がある。日本海軍の造船技術を持ってすればこそ、「拙速」は、可能な荒業であったのかもしれないだろう。




