古鷹山
「赤レンガ」の近くには、古鷹山(標高392m)と言う小さな山があり、海軍兵学校の時代から江田島で学ぶ生徒達が、鍛練の為に幾度となく登っている山である。
普通に登ると、頂上まで約1時間程かかるが、幹部候補生の早い者では、約18分でかけ上がる猛者もいると言う。頂上に立つと学校のグラウンドが見下ろせる。ここで、「同期の桜」などの、軍歌を歌い上げ、その声が聞こえると教官達が、旗を振って応えると言う伝統的な鍛練も行われている。
自衛官の基礎は体力である。まぁ、言ってしまえばどこの国の軍隊も体力が基礎となる。その基本は変わらない。仮にも多くの下士官・兵を率いる幹部候補生が、体力面で下の者にひけを取るわけにはいかないだろう。古鷹山は、決して標高の高い山ではないが、体力向上の為には最も適した高さと言えるかもしれない。
海軍兵学校を建設する際に、この山があったのは計算されたものだったのかもしれない。偶然山があったとはどうしても考えづらい。帝国海軍士官を養成する為には、きちんとした環境を用意してやる必要があったと言う事実があったとするならば、それも納得出来る。
山登りは陸軍の専売特許ではなかった。海軍士官を目指した兵学校の生徒達が一番山登りをしてきた。何度も何度も駆け上がる事で、海の防人として、必要な体力をつけていたからである。
良き海軍士官とは、座学の知識だけでは駄目である。心技体全てのバランスを取る必要がある。それが最も重要であり、高いレベルで維持されている必要がある。求められるレベルは低くはない。今でこそ、艦船を扱うのは労働力の少ないものであるが、その昔は航海と言うのは、労苦との戦いであった。木造船がマストにセールを張って進んでいた時代では無いものの、今もその頃の体力錬成術が名残を残している。
海軍士官たる者、体力においては誰にも負けないと言う事は、それ即ち生き残れる可能性が高くなると言う事でもある。海上で水中に投げ出されて生き残れるポイントは2つしかない。浮力のある物が周囲にあるか?と言う事と、基礎体力があるか?この2つである。それほど、海軍士官には体力が必要な事が分かる。




