トップランカー襲来
「先を急ぐわよ」
「なんか、いかにも戦闘狂ってかんじだな……」
「現実ではこうはいかないからね。ゲーム世界の中でくらい凶暴でいさせてよ」
「人間の考えることはよく分からんな」
「さっきも言ったけど、あなたも人間なの! 人のこと言えないからね!」
何度言われても、俺が人間だという実感は持てない。燐の気持ちはよく理解できなかった。
それにしても「外の人間」たちは、そんなにストレスのたまるような日常を過ごしているのだろうか? 決まったセリフを聞かされ続け、プレイヤーたちの前ではNPCのふりをしていた俺には、よく分からなかった。
暫く突き進むと、海が見えた。
「さ、こっから船で向こうの大陸に渡る。そうすればログアウトできる場所に行けるから」
「いや、俺はプレイヤーじゃないんだぞ。ログアウトなんて行為、できるはずがない」
「できるようにしてあるの! じゃなきゃわざわざ助けになんか来ない」
「……それもそうか」
どういうからくりかは知らんが、本当に俺を外の世界に連れて行けるらしい。
外の世界に憧れはある。自分と同じように自我を持った存在と、堂々と接してみたいという欲求はあったからだ。
運営に消されることを恐れて、NPCを演じるような日々には、もう戻りたくない。
だが、本当に、この北川燐という少女を信用してしまってよいのだろうか?
「あんた、一体なんで俺のことを助けようと……」
「伏せて!」
頭を押さえつけられ屈むと、ワイヤー付きの巨大な銛のようなものが燐の肩を貫いていた。
「チッ、失敗か。そこの男に刺さっていれば、俺も億万長者になれたんだがなぁ」
若い男の声がする。次いで、黒いマントを羽織った男が海面から顔を出し、こちらに向かってきていた。
「くっ、あなた、運営側の人間ではないわね?」
「そうさ。こんな貴重なAIをみすみすバグとして消去させるわけにはいかない。運営のAWF社のサーバーは既に我々が掌握済みだ」
「金が目的なの?」
燐は痛みを堪えるようにして問いかける。
おかしい。プレイヤーはゲーム内で痛みなど感じないはずだが……
「その通り。そこのオルクとかいうNPC。賞金が懸かってるんだよ。二千万。だから稼がせてもらうぜ」
男は背中の鞘から漆黒の長剣を抜き放つ。
「それは……魔剣アルマース? 確か、この前の第三回バトルロワイヤルで一位を獲った者にしか与えられないはずじゃ?」
「そう。俺こそがこの《ファンタジック・オラトリオ・オンライン》の世界ランク三位。《ジャンヴィエ》だ」
ジャンヴィエ……プレイヤー同士の噂話にもよく上がるトップランカーだ。そんな奴に燐が勝てるとは思えない。