3、告白
あの日のバスのアレは、社交辞令だろうとは思いつつ、
晴夏は、何となく一冊だけ『伊達政宗』とタイトルの書かれた本を鞄に忍ばせた。
何か言われたら、自分が読むためだと言い訳が出来るように、一冊だけ・・・。
そうして、帰りのバスに乗ると
間もなく、千尋も乗ってきた。
何となく、またその席は前後になった。
「早乙女さん」
ビクッ、やばい反応し過ぎたことに、晴夏は慌てた。
「・・・何?松本君」
それに、千尋はふっと笑って
「本持ってきてくれた?」
と尋ねた。晴夏はおずおずと
「・・・一応、気に入らなかったら・・・ごめんね。」
そういうと、千尋はまた、晴夏の隣の席に座った。
「『伊達政宗』・・・一応、徳川家光繋がり・・・。」
「へえ、そっか実在の人物だから、そういう事もあるのか・・・。」
そう言い、本を受け取った。
「じゃあ、はいコレ。」
そう言って今度は千尋が晴夏に渡してきた。
「・・・なに?」
「写真集。俺、綺麗なもの眺めるの好きなんだよね。」
「そうなんだ。」
そう言って受け取ったものは・・・
『元女子アナの全て・・・一糸纏わぬ神秘的美身』
と銘打たれた。ヘアヌード写真集だった。
「・・・・・・・・・・。」
「おすすめは42Pだよ?」
晴夏は思わず半眼で千尋を見ながら
「・・・ごめん・・・いらない。」
と、断った。
「え、絶対早乙女さん興味あると思ったのに!!」
「何故!?」
いったいホントにぜんたい何故!?
「じゃあ、こっちはほんとに気に入ると思う。」
晴夏は今度は警戒しながら、もう一冊を受け取った。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「世界の廃墟の写真集だよ。」
晴夏はパラパラとページを捲ってみた。
それは、晴夏の知らない世界だったが・・・確かに美しかった。
「廃れたからこそ、人の手が入らない清潔さが綺麗だよね・・・。」
そう、千尋は言った。・・・確かに、その通りだった。
「・・・ありがとう。こっちは借りてもいい?」
それに、千尋はにっこりと笑い。
「いいよ。どうぞ。」
と答えた。
晴夏は早速ページを一枚一枚捲ってみる。
・・・それは、不思議な世界だった。
「こんな所がほんとにあるんだ。お伽噺みたい。」
「・・・お伽噺も好きなの?」
「嫌いじゃないけど、なんだろう?現実的じゃなくて幻想的と言いたかったの。」
それに、千尋は頷くでもなく、晴夏をじっと見た。
「な、・・・何?」
思わず尋ねた。
「・・・じゃあ、俺にとって、早乙女さんは『お伽噺』みたいだ。」
「え・・・?」
「・・・うちの学校、進学校だけど結構自由な校風じゃん?」
「うん、そうだね。」
「なのに、早乙女さんは、本来の決まり道理に制服を着て、髪も染めてなくて。眉は整えてるみたいだけど
化粧もしてなくて、リップくらいでしょう?」
「うん・・・」
何だろう?何を言われるのだろうと、晴夏はハラハラとその先を待った。
「清潔感があって、清らかで、まるで、神社の境内に入った時みたいに、その周りの空気が澄んでて・・・
すごい。幻想的だ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「だから、凄い際立って見えて、思わず、このバスで声を掛けたんだ。」
これは、どう、捉えたらいいのだろう?おそらく褒めてもらっているのだろうけど・・・。
「・・・ありがとう?が、正しいのかな?」
晴夏は、言ってみた。すると千尋は
「じゃあ、付き合ってくれるってこと?」
そう言われ、晴夏は千尋を振り返った。
「え、え、・・・それ、どうゆう??」
それに、千尋はふっと笑い。
「好きだなあ・・・って言ったつもりだったんだけど。『ありがとう』ってことは、付き合ってくれるってことで良い?」
そう言われ、思わず、晴夏は・・・
「うん、付き合おう。」
と、応えていた。
2人は無事付き合いました。