瑠璃色の彼女
本編がないのに番外編とはコレいかに。
私の幼なじみは、頭が良い。
授業中の先生から振りられる質問に答えられない姿を、私は10年間一切見たことがない。
定期試験では、彼女はいつも掲示板のトップに名前が載っている。私はもちろん平均点ギリギリである。
勉強に関しては彼女に頭が上がらない。もし彼女がいなかったら私は今頃、彼女の後輩になっていただろう。
私の幼なじみは、美しい。
神に愛されてるんじゃねぇかってぐらいの美形である。人類は臓器の位置とかの関係で、左右対象にできていないってテレビで聞いたことがあるけれど、我が幼なじみ様はそんなこと知ったこっちゃねえと言わんばかりの左右対象さを誇っている。一緒にお風呂に入ったときに、脳細胞数千個の死を犠牲に調べ上げた私が言うのだから間違いない。
私の幼なじみは、モテる。
しかし、ツヤッツヤなロングの黒髪、プルップルな白い肌、そして抜群なスタイルを常に纏っているクール系美女な彼女は今、なんとフリーである。世の男どもは何をやっているのか。
彼女にそのことを聞いたところ、
「今は恋愛に興味がないし、恋だなんだと煩わしい男どもなんかよりも、貴女との時間の方が大事よ」
とのこと。
フハハハッ!世の男ども、彼女が欲しけりゃ私を倒していくんだな!
私の幼なじみは、クールな見た目に反して好奇心が旺盛である。
私は普通のJKらしいスイーツやらイケメン俳優への興味はなくはないが、それよりもゲームや推しキャラの絵を描くことの方が好きである。他にも今流行のVtuberは有名どころはチェックしているし、好きな声優さんのアニメは必ず見ている。こんな感じにそれなりに充実したオタクライフを送っているのだが、彼女は私がしていることにいつも付き合ってくれる。いくら全部今や有名になっている作品、人ばかりとはいえ、人の好みは人それぞれなので、それとなく彼女に付き合わなくて良いことは伝えたのだが、
彼女曰く、
「貴女のしていることは、なんでも知りたいの」
……幼なじみの親友が、オタク趣味に理解どころか興味まである絶世の美少女だなんて、前世の私はどんな徳を積んでいたのか。
ちょっとメンヘラっぽいのは気のせいである。必ず毎日会いにくるし、会えない日は必ず夜中に電話してくるが気のせいである。
そんな彼女だったが、最近は気になる人ができたらしい。
私には隠しているようであったが、会わない日ができたということだけで何かあったことは簡単に察せられた。いつもは必ず一緒だった下校も、最近は週3日ぐらいである。
何か用事があるとのことだったので、気になって後をつけてみると、なんとクラスの男子と喫茶店で逢引していた。
しかも、その男子は私が勝手に彼女の彼氏像として想像していたようなイケメン男ではなく、クラス内ではいつも教室の端で本を読んでいる暗めの男子だった。前髪長い眼鏡の中肉中背なんていう“らしい”人がこの世に本当に居ることに驚いたことで覚えていた。名前までは覚えていなかったが。
なるほど、確かにその関係を公にしたら、彼女の非公式ファンクラブの過激派連中が黙ってはいないであろう。そう考えた私は、その場を足早に去った。
しかし、昔からいつも一緒にいた彼女が一歩先を行ってしまったような気がして少し寂しい。
そんな感情が顔に出てしまったのか、その後、我が家の玄関口で彼女にいきなり抱きしめられてしまった。
困惑している私を、彼女は何も言わずに抱きしめ続けていた。この時もう秋になっていたことが幸いである。なにがとは言わないが、暖かくてやわらかくて良い匂いがしてまさに天国だった。身長が小さいことに感謝した数少ない経験の一つである。
このような幼なじみ様に対して、私はとても平凡である。というか、彼女と比べたら全人類平凡と言っても過言ではないが、そうではなく。とっても普通なJKだ。
スイーツとイケメンを愛し、勉学よりも友達との遊びを優先する、ちょっとオタクなJKである。
そんな私にも、彼女に勝る特技がある。私は、流行りそうなものを見つけることが得意なのだ。
私が目をつけたとある漫画は、アニメ化してから爆発的にヒットした。私がデビュー時から推していた声優さんは、今や様々な作品に引っ張りだこな超売れっ子声優である。他にも、私が好きになった作品、人、ものは、ほぼ有名になっている。
決して私の趣味趣向が極めて大衆的とかそんなことはない。ないったらないのだ。
……もしそうでも、実際得意なことは変わりないからいいもん。
そんな私は今現在、12月25日の23時半、クリスマスと思いっきりかぶっている私の誕生日があと30分で終わろうとしているこの時。
「瑠璃、ごめんね」
「はぇ、ちょ、今何飲んだ⁉︎ま、まっt」
「ふぁふぁはい(待たない)」
「んんんんっー⁉︎」
なんで自室で幼なじみにベットに押し倒された挙句キスされてるんですかねぇっ⁉︎
☆★
私の幼なじみは、可愛い。
背が低いことを気にしているみたいだけれど、その小さな体は何をしていてもどこか愛らしさを醸し出している。特に何か食べている姿が、まるでハムスターみたいだという私の意見は、あの子の友人達と共通のものである。他にも、抱きしめたときに私の腕の中にすっぽりとハマることとか、その時に不思議そうな顔でこっちを見た後のフニャッとした笑顔とか、言い出せばキリがないほどあの子は可愛い。
私の幼なじみは、賢い。
成績はあまりよろしくないけれど、それは授業を寝ててろくに聞かずにテスト直前になって私を頼るからであって、普段から真面目に授業を受けていたら、学年50位以内は堅いだろう。
それに、勉強以外ではその賢さは顕著に現れている。
チャレンジ精神が旺盛なためか、趣味では何か一つのジャンルにとどまることはなく、常に新しい分野に飛び出していく。勉強以外。勉強以外に対する努力は欠かさない。物事への計画性が高く、また、場の空気を読んで行動することがとても上手なので、学校の彼女のグループの裏の支配者はあの子となっている。おそらくあの子自身は無自覚だが。ちなみに勉強への計画性は皆無である。あの子は勉強以外にステータスを振り切っているのだろう。
私の幼なじみは、優しい。
幼少期、私は、人より優れた容姿や先生に従順だった私の態度が気に入らなかったらしい同級生からいじめを受けていた。奴らはクラスの中心だったので、そのことを先生に伝えるクラスメイトはいなかった。その時の私は10歳ながら子供らしくなく、どこか冷めた思考をしていたので、いじめに関しては何も感じていなかった。今思うと恥ずかしいが、あの時の私は、くだらないことをする奴らと同い年というだけで、同級生全員を見下していた。
そんな中、いつものように下駄箱に何か細工をしようとしたらしい奴らが、別クラスのあの子によって泣かされている現場に遭遇した。その時はあの子と面識はなかったので、見下していた存在がなんで私を助けたのか気になり、泣き喚きながら去っていく奴らに舌を出していたあの子に聞いた。
すると彼女はこう言った。
『だって、私の目の前でそんなことされるなんて、私がやだもん』
その時のあの子の、上から目線で慰めるわけでもない、でも優しさと気遣いが隠し切れていないそのセリフを聞いた私は、その瞬間に堕ちてしまったんだろう。
そこから私たちは、親友になった。
そんなあの子には、あの子自身は知らない秘密がある。
あの子自身はただの特技だと思っているチカラ。
それはただ流行りそうなものを見つけるのではなく、“気にしたものを流行らせる”チカラ。
そんなチカラを知った裏の人間が、あの子を放っておくわけがなかった。
ある夏の日の夜、そいつらは、私の目の前であの子を襲った。その時私は、目の前が真っ赤になって、意識がとんだ。
次に意識が戻った時、奴らは体から煙を出しながら全員地に伏していた。
訳がわからなかった。わからなかったが、とにかく気絶している彼女を抱えてその場から逃げようとした時、初めて彼に出会った。
彼はクラスメイトだった。そして、変な格好をしていた。
とにかく警戒していた私は、さっさと逃げようとして、そこで彼にいろんなことを一方的に教えられた。超能力というものが実在していること、その力を持つ者を自分達の利益のために利用しようとする存在がいること、彼自身が表社会に生きる超能力者を陰から守る組織に所属していること、今彼らを気絶させたのは私自身の能力であること。
そして、私とあの子が能力者であり、あの子のチカラはその社会に絶大な影響を与えるチカラゆえに、様々な組織、個人から狙われていること。私が彼の組織に協力することであの子を守れる確率が格段に上がること。
さまざまなことを一気に言われて脳のキャパシティがオーバーした私を見て、彼は後日会うことを提案した。
次の日、私は自分を鍛えることを条件に彼の組織に協力することを伝え、そこから私の非日常は始まった。毎日一緒だった下校は週3日となり、平日の残り2日は訓練と任務に明け暮れた。たまに休日までも犠牲とした。
全ては私のため。私の愛するあの子が、卑劣な輩に汚されることが我慢ならない私のため。
そうして私は戦ってきたが、とある秋の日、彼に呼び出されて行った喫茶店で明かされた事実は、私を絶望に叩き落とした。
『先日捕らえられた死を宣告するチカラの能力者によって、あの子に死が宣告された』
チカラには、強力であればあるほど制約がある。例えば、あの子の場合は身体の成長が制約となっている可能性が高いらしい。あの子は人としての最低限の成長しかできないのだ。
その例に漏れずそいつのチカラにも制約があり、効果が出るまでに50日かかるようだが、そんなことはどうでもよかった。目の前で彼が何かを話していたが、何も聞こえない。
その日はそのままお開きとなり、私は絶望を抱えたまま帰りにあの子の家に向かった。
あの子の家。インターフォンからはいつものあの子の声が聞こえた。
ドアが開けられる。彼女が先祖返りだのなんだの言って自慢していた碧色の瞳が私を貫いた瞬間、私は思わず彼女を抱きしめた。
そして、改めて決意した。絶対に、この子を死なせない、と。
タイムリミットは、12月31日。それが分かってから私は、ひたすらに宣告を解く方法を探した。
例の能力者を尋問して情報を聞き出し、例の能力者自身が宣告を解けないことへの鬱憤を晴らすべく、得られた情報から分かった多くの組織を襲撃、壊滅させ、その中で非合法的に能力を解析していた奴らを見つけ出し、半殺しにして例の能力者を調べさせ、遂に宣告の効果を解く薬を生み出したのが、12月24日のクリスマスイブだった。
私は、25日のあの子の誕生日パーティの時に飲ませることにした。したのはよかったが、飲ませ方が思い付かなかった。研究者曰く、何かに混ぜると効果が十全に発揮されない恐れがあるとのこと。なので飲み物や食べ物に混ぜることができない。かといって、いくら私から渡すとはいえ、得体の知らない液体をなんの疑いを持たずに飲むほど、あの子は馬鹿ではない。無理やり小瓶から飲ませようにも、たくさん溢してしまったら効果がない上に、この薬は作るのにわりと時間と希少な材料がかかるので、なるべく無駄にはできない。よってなるべく避けたい。
こうして、何も思い付かずに25日を迎え、そして飲ませる機会がないまま夜になった。
私は焦った。このままではあの子が死んでしまう。
そんな焦りに満ちた私の脳細胞は、一つの結論を導き出した。
「瑠璃、ごめんね」
こんな形で親友のファーストキスを奪うのは心苦しいが、彼女の命には変えられないのだ。
「はぇ、ちょ、今何飲んだ⁉︎ま、まっt」
そもそも、前から薄々考えていたが、やはり有無現象どもにこの子のファーストキスなんてやりたくなかった。
「ふぁふぁはい(待たない)」
今から私がこの子の初めての相手になる。そう考えると、私は謎の高揚感に包まれた。
あぁ、なるほど。つまり私は昔から、
「んんんんっー⁉︎」
貴女を愛していたんだ。
☆★
あのあと私は、顔を真っ赤にしながらどういうことかを聞いてくるあの子の追求から逃れることができなかった。今よく考えると、あんなことをしたら必ず追求されるであろうことは想像に難くない。
結局、超能力のこと、今私が何をしたのか、その他のことも洗いざらい吐くことになった。
自分が殺されそうになったことを知った彼女は、まず最初に私を殴った。非戦闘員の彼女の拳はそんなに痛くなかったが、
『なんで教えてくれなかったの!私はあなたに守られるだけの存在になんかなりたくない!』
これを聞いた時、私は殴られたところがひどく痛んだように感じた。
そのことを謝ると、今度は私を抱きしめながら、震えている声を隠すように小さな声で、
『でも、ありがとう』
と言いながら、目に浮かんだ涙を私のシャツに押し付けていた。
その間、私はずっと彼女のことを抱きしめていた。
次の日の朝、
『そ、そういえば、私のファーストキスを奪った責任、とってくれるの?』
という彼女の言葉で二度寝という名の気絶をしたことは、墓まで持っていこうと思う。
群青瑠璃(主人公その1)
本人曰く平凡。しかし黒髪碧眼のオタクJKロリという、属性が渋滞を起こしている状態である。
恋愛対象は男、だった。あの後勢いで口走った責任を幼なじみに本気にされ、猛アプローチを仕掛け得られ、その際満更でもなかった自分に驚き、恋愛とは何か分からなくなった。
流行を作るという、社会的チート能力が無自覚に常時発動している。彼女の碧い目が関係しているらしいが、詳しいことはここでは述べない。書くかわからん本編になら書くかも。
赤羽紅葉(主人公その2)
瑠璃曰く、神に愛された子。容姿やらの描写はカットします。
彼女の力は焔を生み出し、操る。制約が少なく、応用が効く最強格のチカラ。
味方(主に瑠璃)には甘く、敵には容赦がない。ちなみに、彼女に尋問されるまで死の宣告の能力者は、尋問されても一切口を開いていなかったらしい。
山吹杏(存在しない本編の主人公)
女っぽい名前がコンプレックスな男の子。
本編は彼が所属している組織と、様々な裏の組織との対立の中での彼の戦闘、出会い、成長がメインの内容となっている。能力は重力を操るチカラ。能力がシンプルであればあるほど厄介となるこの世界においては、上の下ぐらいに位置付けされるチカラだが、主人公らしく、本編では何回も進化を遂げている。予定。
組織のトップが父親なため、幼少の頃から能力を知りながら生きてきたが、そのため価値観がずれており、友達が少ない。
裏社会
能力者を飼い殺し、利益を我が物としようとしている奴ら VS 能力者を守護している組織(in主人公)で日々対立している。異能力バトルの舞台。