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5 つばさをもつユキヒョウ

そのうち、ポンバはサソリ熊がキャッチボールをしながらちらちらと、ある方向に視線を向けていることに気がついた。ポンバがそちらのほうを見ると、サソリ熊たちのキャッチボールを見ているひとたちの輪から少し離れて白い姿があった。かがやくような真っ白いつばさをもつユキヒョウだった。すらりとしたしなやかなからだに長い手足…。

サソリ熊は、気づかれていないつもりかユキヒョウのほうを時々横目で見ながら、ますますいきおいよく、ギビマルを投げた。ギザは「きゃー、すてきーっ、かっこいい!」と女の子のまねをし、ウフォは「プロ野球選手も真っ青だ」と声を張り上げた。ほかのひとたちもなかば仕方なさそうに、力なく手をぱちぱちさせたりしている。

だが、ユキヒョウは無表情のままだ。いやかすかに眉間にしわを寄せていた。ビーダンスケはあせったように、ますます力をこめて、ギビマルを放った。しばらくしてユキヒョウはぱっと白く輝く大きなつばさをひろげると、どこかへ飛んでいってしまった。

それでもギビマルのキャッチボールは続いた。

「やめろーっ!」ポンバは、また叫びだした。

心のなかではとても後悔していた。

(ああ、自分がここに連れてきさえしなければ、ギビマルがこんな目にあうことはなかった…)

「だれかたすけてーっ!」

ポンバは精いっぱいの声で叫んだ。

サソリ熊たちはそんなポンバの様子を完全に無視していた。

「肩慣らしはできたし、さあ、こんどはバッティングだ。バットをもってこいっ」とサソリ熊は大声で命令した。「はいっ」といってギザとウフォは走り出した。しばらくしてふたりはもどってきた。ふたりがかりで黒光りした長い棒をかかえている。そう、サソリ熊用の金属バットはひどく大きく重いのだった。

「よしっ、特大ホームランを見せてやるっ」

ビーダンスケは毛むくじゃらのふというでをまくった。

でも、ふと横を向いて、「え」という顔をした。

ユキヒョウの姿はなかった。とっくに飛び立っていたことに気づいていなかったのだった。

しばらくぽかんとしていたビーダンスケだったが、

「あっ、あっ」といって奇妙な動きをしだした。身をよじって、まるでへんてこなダンスでもしているみたいだった。

「いててててっ!」そのうち、サソリ熊は悲鳴をあげだした。倒れて地面をころがりまわる。おそるおそる、ポンバはもだえ苦しむサソリ熊に近寄った。

びっくりしてポンバがみているうち、熊の全身を覆う毛皮がもぞもぞと動いていることに気がついた。ポンバははっと息をのんだ。よく見ると、何百、いや何千というアリがサソリ熊の全身にたかっているのだった。サソリ熊の体がアリと同じ真っ黒なので気がつかなかったのだ。

「わああっ!」熊サソリは立ち上がると、大きなはさみの手でからだじゅうのアリをふりはらった。でもアリたちはすぐにまたはいのぼってきて、小さいけどするどい顎でかみつくのだった。アリたちはおろおろと見守る子分たちにもとりつき、かみはじめた。

「うぎゃあああ!」「きょいいいいいっ!!」子分たちの悲鳴がひびきわたった。

「あれ」ポンバは目を見開いた。

皆の先頭に立つようにサソリ熊ののどぶえにくらいついているアリの触覚は片方だけ長く、途中から曲がっていた。

「もしかして…」とポンバはつぶやいた。

「このまえのアリさん…」

ポンバは、チョコレートのかけらをもったアリを家まで運んであげたことを思い出していた。

「アリんこさん、ぼくたちを助けにきてくれたんだねっ!」とポンバは叫んだ。


地面にはアリの行列が黒い川のように続いている。サソリ熊たちにたかるアリの数はさらに増えていった。

「しりあいかっ」とサソリ熊は身をよじりながらさけんだ。

「なんて、ひきょうなやつなんだ。たったひとりのおれに、こんなおおぜいのアリやろうをけしかけるなんて」ひっしに両腕の巨大はさみをふりまわしながらビーダンスケはわめいた。

 「そ、そうだ、ひきょう、ひきょうきんっ」

ギザも身もだえしながら叫んだ。

「こ、こいつにさわったら卑怯菌がうつるぞーっ」

 ウフォはポンバをゆびさしながら叫ぶと、走り出した。

「ウルトラスーパーひきょう菌っ、うつるぞ、にげろーっ」

ギザもアリを振り落とそうと、ぴょんぴょんはねながら後をおった。

「おい、こら、まて、おまえらっ!」

ビーダンスケもふたりをおって走り出した。アリにひどくかまれたのか、ときどき「ぴいっ!」というようなかんだかい声をあげながら、はげしく飛び上がった。普段のどすのきいた低い声とは大違いだった。

彼らの叫び声と姿は小さくなっていき、やがて、見えなくなった。

ポンバは心のなかで、(アリさん、ありがとう…)とつぶやいた。



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