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3 移動遊園地とダルマコウモリ

そんなある日の午後のことだった。丘の上のいつものお気に入りの岩によりかかってうとうとしていると、なにやらそうぞうしい音が聞こえてきた。丘の下の広場からのようだ。目をこすりながら、立ちあがって見下ろすと、広場に大きなトラックやトレーラーが何台も入ってくるところだった。トラックが止まると、作業服をきたおおぜいのひとたちが、なにやら大きな金属の棒や板のようなものをおろしはじめた。それらの中には赤やオレンジ、ブルー、黄緑…きれいな色で模様もようや絵が描かれたものもたくさんあった。

ごおごお音がひびいて砂煙があがり、トラックの数はさらに増えていった。

つぎの日から工事がはじまった。きのうおろした巨大な板や棒を組み立てている。ポンバは目をぱちぱちさせて、それをみおろしていた。

「なにをつくっているんだろう…」

しばらくして、その正体がわかった。それは遊園地なのだった。広場から、その向こうにひろがっている草原にかけて、半円しかない観覧車や鉄骨がむきだしの恐竜なんかが並んでいる。「あっ」ポンバは、ポケットに手をつっこみ、くしゃくしゃになった紙を取り出した。この前、飛行船がばらまいていた紙だった。紙を広げてしわを伸ばす。わっかだと思っていたのは、観覧車、カップは、中にベンチがついてくるくる回るコーヒーカップのようだった。

ポンバは両手でもってまじまじと長方形のうすいグリーンの紙をみつめた。「遊園地の宣伝だったんだっ!」

ポンバは思わず大きな声をあげた。

 

工事は進み、観覧車、ジェットコースター、コーヒーカップ、メリーゴーラウンドなどが次々に広場と草原に現れた。

「わあ、すごい、楽しそう…」ポンバが丘から身を乗り出すようにして広場をながめているときだった。

うしろのほうで、がさがさっ! と音がしかたと思うと、どんっ!、ポンバのせなかになにかがぶつかった。びっくりしてふりむくと、そこにはまっくろいボールみたいなものがころがっていた。(なんだ、こりゃ)と思っていると、それはもぞもぞと動いた。

ボールから顔がのぞいた。大きなとがった耳、こぶたみたいなぺしゃんこの鼻、口の端からは小さくてもするどい牙がのぞいていた。

きらきらしたまるい目がポンバをみあげている。

しばらくして、ポンバはダルマコウモリだと気づいた。

羽や足がみじかく、まんまるで、なにかだるまみたいだから、そう呼ばれているのだった。ちいさくて、まだこどものようだ。このあたりでは見かけたことがなかった。


「や、やあこんにちわ、おちびさん…」ポンバは、ねとねとした片腕をあげた。

「どこからころがってきたのかな…」くびをかしげて、ちびだるまこうもりをみた。だが、だるまこうもりはきょとんとした顔でみつめかえすだけだった。

どうしていいかわからずポンバは、ぺちぺちと自分の頭をたたいてみせた。われながらけっこういい音がした。けれども、ちびだるまこうもりはまったくの無反応だった。まんまるな目でじっとポンバを見上げるだけだった。


ちびだるまこうもりは、よちよちと歩き出した。そして、いつもポンバがよりかかっている岩のあたりにくると立ち止まり、じっと広場をみおろした。大きな目がきらきらと輝いている。

「あ、もしかしたら…」

とポンバは声をかけた。

「遊園地に行きたいのかな」

すると、ちびだるまこうもりは小さくうなずいたようだった。ちびだるまこうもりは、よちよちと丘をくだりはじめた。でも、足がとてもみじかくとってもおそい。のろまのポンバより遅いくらいなのだった。これだといつ遊園地につくかわかったものではない。

「よし、ぼくが連れて行ってあげるよ」というと、ポンバはちびだるまこうもりのところに行き、やさしくだきあげた。ポンバは力がないので苦労したが、なんとかちびだるまこうもりをおんぶすることができた。

「ねえ、きみのなまえは何というの、ぼくはポンバっていうんだ」

とせなかのだるまこうもりに向かっていうと、こうもりはちいさい声で、ポンバの耳元にささやくように言った。「ギビマル…」

へえ、ポンバはわらった。「ちょっとおもしろい名前だね、でもかわいい名前だよ…」



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